HAPPY VALENTINE「ミチル、休憩の時間だ」
言ったロイディはキッチンへと向かった。
ミチルは伸びをしながら、今日の日付を確認した。
2月14日だ。
「パトリシア、知ってる? 昔の日本では今日、ヴァレンタインディって言って、女性から男性にチョコレートを送って愛の告白をしたんだ」
ミチルが振り返りながら言うと、棚の前でパトリシアが少し首を傾かせて立っていた。
その手にはリボンのかかった小さな箱が2つあった。
困っているように見える。
「え、もしかしてチョコレート? 今日のために買ったの?」
「そう。先週、1人で買い出しに行った時にミチルにチョコレートをロイディにメンテナンス用オイルを買ってこの棚に今日まで隠しておいた。店ではヴァレンタインディに贈り物をするという宣伝がされていたので買ってしまった。愛の告白ということを知らなかったのは私のリサーチ不足だ。これが口車に乗る、という体験だろうか。こういう場合は返品を受け付けてくれな…」
「ストップストップ。えっとね、最初は愛の告白で流行ったイベントなんだけどね、仕事場の人とか友達とか、最終的には自分に送るようになったんだよ」
「…なるほど、今情報を参照できた。…では、ミチル、改めてチョコレートを受け取ってほしい」
パトリシアはリボンのかかった箱を一箱ミチルに差し出した。
「うん、ありがとう。…義理チョコかな?」
「いや、日々快適に過ごさせてもらって感謝している。親しみを込めて友チョコではおかしいだろうか?」
「おかしくないよ、うれしくな。そっちはどうするの?」
「自分自身にも贈るということを知ったので私のものにしても良いが…」
その時、荷物受取ボックスへの配達完了通知がされた。
「あれ。なんだろ。特に予定はないのに」
「私が取ってこよう。ミチルはリビングへ」
二人は会話を中断して仕事部屋を出た。
ミチルがリビングに入るとロイディはお茶の準備をしていた。
「荷物はパトリシアが取りに行ったのか?」
「そうだよ。ロイディ、何が来たか知ってるの?」
「私が注文したものだ。説明は一回にしたい」
箱を抱えたパトリシアがやって来た。またも首を傾けている。
「花屋からだが、なぜか私宛になっている」
「私が注文したものだから、開けて良い。パトリシア」
パトリシアが箱を開け、バスケットに入った数種の花で出来たブーケを取り出した。
ロイディが言う。
「先月、2月の予定を確認しているときにフラワーヴァレンタインという男性が女性に花を贈るイベントがあったという情報を見つけて購入したものだ。ミチルのキャッシュから購入したが説明すれば許される範囲の価格だと考え購入した。説明が今になったのは他のタスクの方が優先度が高かったためだが、もちろん利用履歴をミチルがチェックしていれば、もっと早く伝える機会はあっただろう」
「うん、買ったことは良いんだけど…。うちのウォーカロンたちはしょうがないなぁ…」
花を持ったままのパトリシアとお茶の準備を続けるロイディを見ながらミチルはため息をついた。
「きれいだね」
「あぁ、きれいだ」
パトリシアも言うとテーブルに花を置きリビングを出ていった。
「パトリシアはどうしたんだろうか」
「どうしたんだろうねぇ」
話しているとパトリシアはもうひとつのプレゼントを持ってきて、ロイディの前に差し出した。
「ロイディ、私からも贈り物だ」
「そうか。ありがとう」
そんな二人を見ながらミチルが声をかけた。
「パトリシア、それは義理? 友情? それとも…」
「こういうときに便利な言葉なら知っている。想像に任せよう、ミチル」
パトリシアが優雅に言った。