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    お付き合いしてる代表わかとび。1月9日が代表牛影の日なのでいそいで書いた。
    背番号について。例によって色々捏造してます。

    「不評だそうだな」
     牛島に突然そんなことを言われたので、影山は首を傾げた。隣で着替える日本代表のエースが何について語ったのか、まるでわからなかったからである。
     代表合宿は始まったばかり、合宿2日目の練習後であった。ナショナルトレーニングセンターのロッカールームで、左腕のエースは汗に濡れた練習着を脱ぎながら、当然のことを話すかのような調子で突然口を開いた。他のメンバーはとうに着替えを終えて部屋に戻っていたから、ロッカールームにいるのは牛島と影山のふたりだけだった。
     影山は脱ぎ捨てた練習着を回収ボックスに放りながら、「何がっすか」と尋ねた。誰の何がどこに不評なのか、何も心当たりがない。直接聞いたほうが早いだろう。
     牛島は顔だけを影山のほうに向け、「背番号だ」と答えた。影山は再び首を傾げた。
    「背番号? 誰の?」
    「お前の」
    「俺の?」
     疑問符を頭に浮かべながら、取り出した私物のTシャツを身につける。牛島は上半身裸のままタオルで体の汗を拭いつつ、「9番」と言った。
    「今年、お前の背番号が9番に変わっただろう。SNSなどで、ファンからクレームが出ていると聞いた」
    「ああ、それっすか」
     なるほど、と影山は納得した。確かにその件で小さな不満が出ているのだということは、協会のスタッフやチームメイトたちからなんとなく聞いていた。
     影山はアドラーズでも代表でも長く20番をつけていて、ローマでも同じ20番をつけている。影山飛雄といえば20番というのは、ファンの間では共通認識であったらしい。ところが今年、東京五輪を前にしてユニフォームが一新されたとき、影山の背番号は9番になった。ここ1〜2年は代表の世代交代で入れ替わりが多く、整理の意味合いも含んだ一新だったのだろうが、長年『20番、影山飛雄』に親しんだファンたちには、大変な不評だったのである。極少数、高校時代から影山を追っているファンからは「烏野1年のとき以来ですね」「懐かしいです」といった好意的な意見もあったが、大半は「なぜ影山飛雄を20番から動かしたのか」という否定的なものだった。影山が一部のマニアックな人々を除いた一般的なバレーファンや、そもそもあまりバレーに興味がない人々に知られるようになったのが、リオデジャネイロオリンピックであったことを考えれば、仕方のないことではあるだろう。多くの人々は、20番をつけた影山飛雄しか知らないのだ。
    「まあ、あんま好評ではないっすね」
     言いながら、ロッカーの扉を閉める。影山の隣のロッカーを使っていた牛島は、上半身裸のままロッカールームに置かれたベンチにどっかりと腰を下ろすと、ついと影山を見上げた。
    「お前自身はどうなんだ」
    「俺?」
    「やはり、9番には何か……特別な感慨のようなものがあるのか?」
    「カンガイ……」
    「いや、今のは俺の言い方が悪かった。お前にとって、9番は特別なのかと聞きたかった」
     はあ、と曖昧に返して、影山は少し考えた。
     9番は自分にとって、特別か。
     特別とは思わないが、特別じゃないと言い切ってしまうのにも、少し違和感を感じる。その違和感の正体を探って黙り込んだ影山を、牛島は重ねて問うでもなく、ただじっと見つめていた。
     しばしの沈黙の後、影山はベンチに腰かけた牛島の前に立って、ゆっくりと口を開いた。
    「9番っていう背番号自体には、別になんも感じねえっす。高1のときの背番号だなって思うくらいで。ただ……」
    「ただ?」
    「高1で9番つけてたときのチームは、特別なんじゃねーかなって思います。色々、教えてもらったから」
     言って、牛島の顔を見下ろす。牛島の榛色の瞳が、まっすぐにこちらに向いていた。牛島はまっすぐに人を見る人間で、影山が牛島と初めて言葉を交わしたときも、牛島の視線はまっすぐだった。そういえばあれも高1のときだと思い至り、あれからほんの数年しかたっていないことに、不思議な気分になる。
     そのほんの数年の間にずいぶんと変わった牛島との関係に、少しだけくすぐったいような気分になった。
    「だから今の代表で9番つけても、別に特別な感じとかはねえっすね。サイン書くとき、20って書かないように注意しねーとなって思うくらいで」
     影山の答えに、牛島は少しだけ目元をやわらげて、そうか、と言った。
    「ところで影山、鬼頭さんが今年で代表を引退するという話は聞いたか?」
     突然話題を変えた牛島は、自分の隣をポンポンと軽く叩いた。座れということだろう。影山は素直に牛島の隣に腰を下ろした。
     鬼頭は代表の中でもベテランに入るセッターで、影山が初めて代表に招集された頃は、正セッターを務めていた。影山が正セッターになってからは控えに回ったが、面倒見のいい人柄で、チームの潤滑油的な存在だった。
    「鬼頭さん、去年の怪我からあんま調子よくないって言ってました。俺、初めて代表によばれたときから色々世話になったんで、なんか残念っす」
    「そうだな。クセが強い俺たちの世代にもよくしてくれた。五輪メンバーに選ばれても選ばれなくても、今年で代表は引退されるそうだ」
    「そうっすか……」
    「それでな、影山。鬼頭さんが引退すると、2番が空くだろう。俺は来年、おまえが2番をつけてはどうかと思っている」
    「は?」
     背番号の話はまだ続いていたのか。というか、鬼頭の話は、背番号の話の続きだったのか。影山は隣に座る男を見て、三度首を傾げた。
    「いや、俺は別に何番でもいいけど……なんで2番なんすか?」
     牛島は体ごと影山に向き直ると、
    「2番なら、ずっと俺の隣になるだろう」
    と、至極真面目な顔で言った。
     影山は思わず、「何言ってんだアンタ」と返した。影山の呆れを含んだ返しに怯むことなく、牛島はキリリとした表情のまま、言葉を続けた。
    「俺はこの先ずっと、代表を引退するまで1番をつける。おまえが2番をつければ、常に俺の隣ということになる。俺たちに相応しい位置だろう」
     自信満々に言い切る牛島に、影山は若干戸惑った。牛島は確かに自信の塊のような男だが、こういった物言いは珍しい。そもそも彼は、番号だとか順番だとか、そういうものに拘るタイプではなかったように思う。影山は戸惑いつつ、牛島のほうに体を向けた。
    「いや、相応しいとかはよくわかんねーけど、牛島さん、番号とか、そういうの気にするタイプでした?」
    「いや、気にしないな」
    「じゃあなんで」
    「おまえの9番というのは、日向翔陽とセットで語られる番号だろう。気に食わない」
    「へ?」
     思いがけない名前が出てきて、影山はきょとんとした。牛島は相変わらず、真面目が極まったような顔をしている。なぜここで日向の名前が出てくるのかわからず、影山は再び首を傾げた。先ほどから、影山の首は傾いてばかりである。
    「おまえ自身がどう考えているかは別として、影山飛雄が9番で日向翔陽が10番なら、烏野高校の9番と10番を思い出す人間は多いだろう。おまえが思っているよりも、ずっとな。それは影山飛雄の生涯の伴侶たらんとしている俺にとっては、あまり愉快なことではない」
    「ショーガイのハンリョ……?」
    「死ぬまで一緒にいる連れ合いのことだ」
    「そ、そーっすか」
     さも当然のように『死ぬまで一緒だ』というような言葉を吐かれて、影山は己の頬が熱くなるのを感じた。日本代表の無敵のエースは、いつも突然こういうことを言う。
     牛島は白い頬をほのかに紅く染めた影山の顔に手を添えて、
    「だから、おまえは2番をつければいい。日向翔陽よりも、俺の近くにいるべきだ」
    と、強い調子で言い切った。当然、眼差しも強い。もっとも、牛島の眼差しが弱いときなどないのだが。高校時代、敗北を喫したときでさえ、牛島の眼差しは強かった。
     至近距離にある榛色の瞳を見つめて、影山は考える。
     たぶん、高校のチームというのは、やはり特別なのだろう。影山が特別だと思うチームは幾つもあって、それぞれが思い出深いチームだったと思う。それでもやはり、一番特別なチームは──高校1年のときの、あの烏野高校排球部だった。
     しかし、あのチームに戻りたいかと問われたならば、答えは否だ。あのチームを経て、それぞれの思い出深いチームを経て、影山は今、日本代表としてここにいる。そして『日本代表の1番』をつけた牛島若利に、トスを上げている。
     それこそ、特別だ。
     あのとき、影山を要らないと言った男がこんなに近くにいて、これからも近くにいろと言う。
     これもまた、特別なのだろう。
     不思議な巡り合わせなのかもしれないと思いながら、己の顔に添えられた牛島の大きな手に、自分の手を重ねる。
    「日向のこと気にするとか、牛島さんらしくねーっつうか……」
    「俺はおまえのことに関しては、自分でも驚くほど狭量だぞ」
    「キョーリュー……」
    「狭量、だ。恐竜じゃない」
     ふと、恐竜好きな高校時代のチームメイトの嫌味ったらしい顔が頭を過ぎる。影山の気が他所に逸れたのを感じ取ったのか、牛島は影山の顔に添えていた手で、影山の形のいい鼻をきゅっと摘んだ。
    「狭量の意味については……そうだな、オフになったら、じっくり教えてやろう」
     言って、牛島はベンチから腰を上げた。練習着とタオルをそれぞれの回収ボックスに放って、Tシャツを身につける。気持ちがいいほどの、キビキビとした動きだった。
    「部屋に戻るぞ」
    「うす」
     バレーシューズを手にロッカールームの出口に向かう牛島の背を、影山も追う。
     オフに漢字の書き取りでもさせられるのかな、などとぼんやり考えている影山が、牛島のいう『狭量』についてたっぷりとわからせられるのは、ほんの数ヶ月先のことだった。









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