始まりの日気が付いたら、俺はここにいた。
知らない場所。でも知っているような気もする。
だけど、ここは俺の世界じゃない、そんな絶対的な確信だけが心の中心にあった。
帰りたいのに帰れない。会いたいのにどうしたらいいのかわからない。
帰りたい場所も会いたい誰かも思い出せなくて、
ただ俺にわかるのは、俺自身の年齢・性別・名前・日本人であるという事、ただそれだけだった。
当てもなくさまよい疲れた夕暮れ時、ふと視界の端に公園のブランコが映り、足がそちらに向いたのでふらふらと座ってみた。
そうしているうちに辺りは暗くなった。俺は何をしているんだろう。此処で朽ちていくのだろうか?それもいいかもしれない。
「××××」
おそらく九州から来たであろうその男性は心配するような言葉を俺に投げかけた。俺は、彼の問いにただ答えた。
抱きしめられて、俺は目から水分を出した。彼もそうだった。
そうして俺は、彼の家に招かれる事となった。どうやらこの場所にいていいらしい。
全く知らない場所、知らない文化、言葉遣いを必死に覚えた。他に生きる術なんかなかった。
いつ追い出されてしまうのだろうか、そうならない為に、俺は何だってやった。
中学の同級生たちが【デジモンカード】の事で騒いでいて、流れで彼らのカードで対戦する事になった。
どうやら俺には才能があったらしく、みるみる上達していった。
俺を引き取った男性は不器用ながらも俺に歩み寄ろうとしているらしく、
「今日は何があった」「何が食べたい」と、晩御飯の度に必ず聞いてくる。
だから今日はその問いに対して、学校であったことをそのまま答えた。
すると次の休みに何も言わずに車に乗せられて、気が付くとカードショップの前に到着していたのだった。
「・・・・・・・」
「欲しいんだろ。選んで来い」
「・・・・・いいんですか?」
「だめだ」
ああ、やはりだめなのかと落胆していると、彼は俺の頭をガシガシと撫でてこう言った。
「いいかげん敬語をやめろ。そうしたら買ってやる」
視界が歪んでしまった。
「うん…!」震える小さな声になってしまったけれど、どうやら彼に聞こえたみたいだ。
照れたようで、顔を赤く染めていた。
その人からいただいた心を大切にしたいから、俺は何となく興味のあったカードにどんどんのめり込んでいった。
強くなるたびに、何かを思い出せそうな気がした。
やがて俺は、デジモンキングと呼ばれるまでにカードを極める事となる。
その喜びを噛み締めていると、何かの気配を感じた。
ああそうか、俺がずっとずっと会いたかったのは、君だったんだね。
「初めまして、俺は秋山遼。君の名前を教えてくれるかい?」