佐賀県 有田陶器市「たぬきやん」
「たぬきですね」
「ええなぁこれ。でもたぬきって信楽ちゃうの? ここ有田やけど」
「ええやないですかなんでも」
「ええなぁ。うちに置かん?」
「初手でそんなデカいの買うんは完全に悪手でしょ」
「確かになぁ」
道端に簡易的に構えられた店舗には、所狭しと陶器でできたたぬきの置物が並んでいる。持ち運べるサイズから絶対に無理なサイズまで、大小さまざまなたぬきたちが道行く人を見守っているのは、少々異様で目を奪われる光景だった。誰もがきっと一度は見たことがあるだろう。とぼけた顔をしたたぬきの置物に囲まれていると、まるで化かされたような気分になってくる。
中でも一際大きいサイズのたぬきの前で立ち止まり、何を思って品定めをしているのか、狂児はしげしげとたぬきを眺めはじめる。その姿を横目にしながら、眉間をつまんでも眠気がましになる程度の鈍い痛みを感じるだけだった。
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