暗い。まずそう思った。
まぶたを持ち上げたところで視界に写るのは闇、闇、闇。
手を持ち上げて伸ばしたところで、それは変わらない。手を伸ばしたくらいの距離で、自身の指先が闇に沈んだ。
自室にいるというのに、まるで水の中にいるかのように体が重い。
自身にまとわりついてくる影をひっぺがしつつ、ラインハルトは立ち上がった。
見えなかろうとも室内の配置は覚えている。暗闇のなかを迷うことなく歩き……、歩こうとしたが、床から伸びあがった影がラインハルトの足首に絡みつき、徐々にその面積を増やし始めている。
一歩一歩、力強く踏みしめながら、重たいものを引きずっているかのような有様でドアを目指す。手探りでドアを開けようとすると、開いた手のひらに影がまとわりつく。
ドアノブを回す。異様に重たいドアを肩で押すようにして、無理やり開くと、外から一筋の光が差し込んだ。
ぐぐぐ、と力を入れて、引き止めるものを振り切って部屋の外にでる。
長時間寝すぎてさすがに飽きた。
白々とした光のなかでひとつため息を落として、部屋の中を振り返る。開かれたドアがきぃきぃと音を立てて揺れている。中から抗議のような声が聞こえてきた。まあ錯覚だろう。
ラインハルトが部屋に背を向けたその途端、室内から湧き出た影に絡めとられて、出たばかりの部屋の中に引きずり込まれた。
ぱたんとドアが閉まる。
一部始終を感知していた魔城の心臓はこの上なくキレて、部屋ごと解体してやろうかと思ったが、それは敬愛する父親の部屋なので血涙を流す勢いで諦めた。