「えーと、ありがとう」
知り合いの女の子が差し出すチョコレートを受け取りながら、ハークトは眉を下げて微笑んだ。
「あれ、チョコ好きじゃなかった?」
「うーん、そういうわけじゃあ無いんだけどね。気持ちは嬉しいよ! 僕のために準備してくれてありがとう!」
「義理だけどね〜、ハッピーバレンタイン!」
ひらひらと手を振りながら去っていく女の子を見送り、ハークトは改めて手中のチョコを眺めた。
好きじゃないわけでは無いのだが、犬にチョコは毒だから食べるんじゃないぞと丁寧に言い含まれたことを思い出す。まああの時はまだ小さな狼の姿をしていたのだが。
それに甘いものが案外好きな人物にも心当たりはある。
「チョコ?」
訝しげなゼイの声に、ハークトは胸を張って頷いた。
「うん、結構好きだろ、こういうの。貰い物なんだけどさ、良かったら」
「……まあ、いただこう。ありがとう。山では便利だからな、こういうのは」
「俺、チョコ食べなかったよ」
更にもう一声、褒めてほしそうに待機しているハークトに、ゼイは首を傾げた。