半開きの扉に隠れるようにして、こちらを見てくるこどもに、ラインハルトは苦笑した。最近はずいぶんと慣れたように見えたが、どうやらそうでもないらしい。
身をかがめてこどもと視線を合わせたラインハルトは、少し目を細めて何も言わずに笑顔でこどもを手招いた。
目があったことで、こどもは一瞬視線を揺らして、おずおずと近寄ってきた。しがみついてくるのを好きにさせる。背中を優しくたたいて、抱き上げる。
「どうした?」
問いかける声にいらえはない。こどもはただラインハルトの首に腕をまわして、抱き着いた。
「具合でも悪いのか」
ふるふると首を横にふるが、こどもは具体的なことを話すつもりはなさそうだった。
「日の出を見に行くのはやめておくか?」
こどもは少し悩む素振りを見せて、首を縦に振った。出かけたくない気分らしい。
さっきまでは楽しみにして出かける準備をしていたというのに。
こどもにねだられて髪を梳かしてやったり、ごはんを食べさせたりとしているうちに、あっという間に一日が終わりに近づいた。
普段よりも長く感じる黒髪を乾かしたら、あとは寝るだけだ。まあ、たぶん、今日は寝ないのだろうが。
ベッドで毛布をかぶりながら、窓辺で身を寄せ合う。気が付けば遠くの空が白み始めていた。
こどもは外を見ているようで、ずっとラインハルトを見ているようでもあった。
「世界の始まりに、光を見たような気がする」
こどもがぽつりとそう言った。
「わたしはそれを追いかけたんだとおもう」
顔を出した太陽の光が室内にまで届き始める。こどもはラインハルトを見上げてまぶしそうにした。
ラインハルトは特に何も言わず、カーテンを引いた。こどもの背をたたいて、寝台に横になるようにうながす。
「おやすみ、初日の出も見たのだから、もう寝なさい」
こどもは妙に素直にうなずいて、目を閉じた。
まったく、私たちが次に会うのは計画が成就するときではなかったのか?というラインハルトの声は聞こえないふりをするらしい。