ラインハルト・ハイドリヒには双子の兄弟がいる。名前をラインハルト・ハイドリヒという。
生まれた時になにもかもが同じだったからといって、名前まで同じにしなくてもいいだろうとラインハルトは長年思っている。おかげで兄の方だの、弟のほうだの、または外見にあわせて髪が長い方だの、短い方だのと好き勝手呼ばれる。
"便宜上兄の方"は見分けがついたほうが良かろうと言って、ある時から髪を伸ばし始めた。正直なところ、"便宜上弟の方"は自分と兄はそれほど似ていないと思っている。「私はあんなに常に笑顔ではないし、隙だらけでもない。見ればわかるだろう」とは本人の談である。
「そろそろ起きろ」
長い金の髪がシーツの上に広がっている。むき出しの肩に触れて、強めにゆすれば、しぶしぶとまつ毛を振るわせてまぶたが持ち上がる。
持ち上がったが、毛布を抱きしめてまだ眠いと全身でアピールし始めた。
「出席日数は足りているだろう」
「足りているからといって、行かなくてもいいわけではないが」
むう、と唸って、しかし結局は起きることにしたらしい。拗ねた様子で服を選んでいる。
「卿はもう少し私に優しくしてもいいと思うが」
「しているだろう、今も」
ぷちぷちとボタンを留めているあいだに、長い髪を梳かして結いあげる。
「いつも私をおいて先に起きてしまうし」
「卿も起きれば良い話だろう」