膨らんでいくビニールプールを眺めながら、設置された椅子に腰かけている少年は足先を揺らした。つま先が地につかないのを良いことに、ぷらぷらと足を遊ばせている。
照りつける日差しは強く、肌が痛むほどだ。庭の木陰を選んで用意しているとはいえ、作業をしている青年は大粒の汗を額に浮かべていた。
「水分補給は適度にしなさい」
差し出された少年の飲み物を、青年は満面の笑みで恭しく受け取る。根をつめすぎるなとは常々伝えているのだが、どうにも無理をしたがる。御身のためならえんやこらですとも、とは彼らの合言葉である。
近くの木々の枝にロープを張り、視線を遮るための薄絹をかけて、プールの用意をした青年は去っていった。
用意された水着、というより滝行に臨む修行僧のような水衣に身を包んでいた少年は、その格好のまま足先をプールの中に伸ばす。ひんやりとした水をちゃぷちゃぷとかき回して、ひょいとプールの中に飛び込んだ。
波打つ水面に白い薄絹と金の髪が広がってゆらめく。
気が付けばプールのそばに影が立っていたので、少年はてのひらで水をすくって影のほうに水をとばしてみた。
水をかぶってずぶぬれになった影が向けてくる抗議の視線を、少年はくすくすと笑って受け流す。あたったということは、影に避けるつもりがなかったということなので。
いったん落ち着き始めた水面が再度荒立つ。影が水を侵食していた。
日光を遮る影は少年の顔にまで届いて、そうしてその唇に触れたのだ。