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    クノ🎲

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    早川鳴世 自己紹介SS

    あなたの人生預かります! 控えめなノックを三回、四回。五回六回七回八回。
    「鈴木さーん?」
     九回十回十一回以下略。
     早川鳴世なるせは首を小刻みに動かしながら繰り返す。
    「鈴木さーん、早川です。こんにちは! 今日も差し入れ持ってきました。このまえ鮭がお好きだって仰ってましたよね。おにぎり、コンビニに鮭だけで三種類ありました! 全部買って持ってきたのでお好きなのを選んでくださいね!」
     そこでノックをやめる。しんとして黙る。リアクションを待つ。忍耐が要求される。だが、これは非常に重要な工程だ。『鈴木さん』は長い間大学に通うことができず、外に出ることができず、カウンセリングも続かなかった。ご両親は仕送りさえしているものの、彼をなんとかすることには消極的だ。ということは『鈴木さん』本人から聞いた。
     一分、二分。三分四分五分六分。
     がちゃりと鍵が開く音がした。次に扉が開く音。そして現れる姿。猫背で無精髭の男。ぐしゃぐしゃの髪。背が曲がっていても身長が高いから、彼は鳴世を見下ろしている。年は二十二と言っていた。十八の鳴世はにっこり笑って見上げた。
    「鈴木さん、こんにちは! 今日の健康は十点中いくつくらいですか?」
    「……六点くらいです」
    「そうですか。先週より二点多いですね、嬉しいです」
    「はい……おかげさまで」
    「教えていただきありがとうございます。お邪魔しますね」
    「あ……」
     はい、という言葉とほとんど同時に、鳴世は薄暗い玄関に潜り込んだ。埃の匂い。蜘蛛の巣が見える。だが、鳴世は全く気にせず、ハイブランドの鞄を抱えて中に入った。狭苦しいワンルームの中にあるちゃぶ台の上に、タータンチェックのエコバッグを置く。中身は宣言した通りの三種のおにぎりと、インスタントの味噌汁だ。栄養は大事である。布団は敷きっぱなしで隅にあるのをめざとく見つける。
    「鈴木さん、今日天気がいいのでお布団干してもよいですか?」
    「え? あ、はい」
    「はい、お預かりしますね」
     家事全般、得意な方ではないが、布団の敷きっぱなしが衛生上よくないのは解っている。とはいえ、この分では部屋全体の掃除にはいたれないだろう。それほど多くの滞在時間が取れるわけではない。何しろ鳴世が救うべき人間は数多い
     窓から出せる布団は一つが限界だったので、とりあえず掛け布団を干す。敷布団は三つ折りにして、別の場所にうつした。後方から、『鈴木さん』がやってくる。振り返る。
    「帰りに取り込みますね。もし鈴木さんが頑張れそうだったら、敷き布団もチャレンジしてみてください」
    「……はい」
     にこりと笑う鳴世に、『鈴木さん』も薄く笑って応えた。それを見て、鳴世は満足して頷いた。
    「はい、じゃあ今日のお話、始めましょうか。座っていいですか?」
     もちろん、彼がノーと言うわけがないのだ。許可を得て座る。ちゃぶ台を挟んで、『鈴木さん』が座る。こうして、今日も鳴世の『高説』が始まる。彼を失意の底から救うための。
     早川鳴世、女子高生。将来の夢は、新たな宗教団体を立ち上げ、その教祖になること。
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