あなたの人生預かります! 控えめなノックを三回、四回。五回六回七回八回。
「鈴木さーん?」
九回十回十一回以下略。
早川鳴世は首を小刻みに動かしながら繰り返す。
「鈴木さーん、早川です。こんにちは! 今日も差し入れ持ってきました。このまえ鮭がお好きだって仰ってましたよね。おにぎり、コンビニに鮭だけで三種類ありました! 全部買って持ってきたのでお好きなのを選んでくださいね!」
そこでノックをやめる。しんとして黙る。リアクションを待つ。忍耐が要求される。だが、これは非常に重要な工程だ。『鈴木さん』は長い間大学に通うことができず、外に出ることができず、カウンセリングも続かなかった。ご両親は仕送りさえしているものの、彼をなんとかすることには消極的だ。ということは『鈴木さん』本人から聞いた。
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