とけう泪浴室でフラッシュバックを起こし気絶から着信音で目を覚ます。
可愛らしいトロイメライが途絶えてしまい、早く折り返さなくてはと端末に手を伸ばすと、トントンとドアをノックする音が静かな部屋に響く。
そして、愛しい人の声。焦りを帯びた心配そうな声。トロイメライをくれた人。
「あおめさんっ!大丈夫ですか!?」
「……っあ、あいせくんっ、」
上手く声が出ず、少し上ずって返事をしてしまった。
頭に被せたバスタオルで少し顔を隠す。きっと今…酷い顔をしている気がする……。
震える手で鍵を開け、愛しい人の姿を見た瞬間、思わずポロポロと涙が出てしまった。
フラッシュバックをした姿が見られたくないからって1人で良かったなんて、本当は違う。1番に会いたい人が居たのに、ボクは…なんてバカなんだろう。
「あおめさん…何か、あったんですか?言ってください。ゆっくりで、良いですから…」
暖かい手がボクの頬を撫でる。その暖かさに冷たい体がふるりと震え「ん…っ」と間抜けな声が出てしまう。
泣いちゃってごめんね。あいせくん。ボク、弱くてごめんね。
ズタズタに引き裂かれていた胸に暖かい血と涙が沁みて巡っていく。やっと、上手く呼吸が出来る様な気がした。
「……っ、体…すごく冷たいですよ……?それに、唇も青い…」
お邪魔します!と、あいせくんはボクの手を引いてお部屋のベッドまで連れていってくれた。促されるままベッドに上がり、ギュッと優しく抱き締めてくれる。
暖かい。ずっと、ボクは、求めていたんだ…この暖かさを…
「……もうすぐ、本番でしょう?風邪引いたら演奏出来ないですよ。」
「ごめん、ね…」
か細く声を押し出し、あいせくんの胸に縋る様に顔を埋める。
優しく甘いあいせくんの匂いがする。
バスタオルで涙を拭い隠していた顔を上げ、まっすぐ愛しい人を見つめる。
ボクの弱い所も可愛くない所も全部、あなたに見てほしい。
「…あ、のね…今日ね……」
怖い事があったよと、ゆっくりゆっくり話していく。
あいせくんは眉をひそめて時折苦しげに、ボクの頭や頬を撫で「痛みはないですか?何処かぶつけたりはしなかったですか?」と優しく尋ねてくれる。
「…ちょっとだけ、痛かったかも。……でもね、あいせくんのお陰で、もうどこも痛くない。…ボク、一人じゃなくて、良かった。傍に居てくれてありがとう…」
いつもみたいに可愛く笑えなかったかも知れない。
でもね、それでもいいの。
ボクは、あなたに会えて良かった。
それからはベッドの中で二人でギュッと抱き締め合って眠った。
暖かさにまたこっそり泣いて、あいせくんに起こしてもらうまで、ボクはぐっすり眠っていた。