玩具「ねー弁護士先生俺があげたローター使ったのー?」
月下さんのペットのミトくんがこの間からからかって来るのが悩みの種です…。
「使い……ました。」
「わ〜♡どーだったぁ?気持ち良かった?お友達喜んでた??」
「…き、もちよかったですけど……喜んでは、別にないかと…」
言いにくい話題のため、ごにょごにょと吃ってしまう。
「えーもっとエッチなのがいいかなぁ?」
「ミト、先生をからかうのはやめなさい。」
月下は少し不機嫌そうな顔をしてミトの頭をぽんと撫でる。
軽い調子でごめんなさーいと謝るがあまり反省してる様な態度では無い。
「……えっと、それじゃあ打ち合わせは終わりましたので、私はお暇しますね。」
失礼します。と、月下の家を出ていく。
辺りはすっかり暗くなり、貼り付けた笑顔を取り払うにはちょうど良かった。
「喜んでた…か……」
別に喜んではなかったと思う。
寧ろ最初は怒っていたような…?私の趣味にごまちゃんを巻き込んでしまっている自覚はある。
だからこそ、少しでも相手が心地よく居てくれればそれでいいのに、私ばかりが気持ち良くなってしまう…
不意に初めてキスをされた時の事を思い出す。
公園のトイレで、声を我慢しようと指を噛む私の手を取って優しく宥めるように触れるだけのキスをしてくれた。その時はファーストキスに頭が真っ白になって…
その後、おでこにも優しくキスをしてもらって……
「私は…ごまちゃんの優しさに付け込んでいるな……」
本当の友達同士はこんな事なんてしない。
こんな、不貞で不純な行為、許されるはずがない。
初めて繋がった時は痛いのと嬉しいのとが綯い交ぜになって、その後は何度もイッてしまってはしたない所を…沢山見せてしまった。
「………また、キス、してくれないかな。」
ふにっと指先で自分の唇を撫でる。
この間は一瞬だったから………いや、ダメだ。
また私は優しさに付け入ろうとしている。
なんて、なんて汚いんだろうか。
優しさで頂いたものをまた求めるなんて烏滸がましいにも程がある。
私たちは……恋人では無いのだから。
胸が締め付けられ心臓が腐ってグチャグチャになった様な感覚がする。
気が付けば早足になって泣きながら帰り道を歩いていた。辺りが暗くて良かった。
ごまちゃんが、私に飽きたり軽蔑したり気持ち悪がったりするのも、きっとそう時間は掛からない。
その時が来るまで、私は卑怯で意地汚い人間だから…きっとその優しさに付け入って縋り付くのだと思う。
「知らなかったな。いつの間にか、こんなに好きだったなんて…」
でも、好きになってなんて……言えないし、もう出来ないから。
だからこそ、使い捨てのおもちゃみたいな雑な扱いで良い。大事になんてしなくて良い。
ほんの少しの間だけ、私の事を見てくれるだけで嬉しい。私はきっとそれで満足なんだ。
恋人にもペットにも、そんな特別なカテゴリーに私はなれない。
この想いは、誰にも言わずに死ぬまで抱えていくんだ。
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「コウさん、弁護士先生狙わないの?好みなのにー」
「あの人がボロボロになったら拾うんです。」
「相変わらずだねぇ。まぁ、それまでは…俺の事見ててよ。……少しだけでも良いから。」
「見てますよ。ペットですから。」