尻尾 動物とは感情が体に出る。
そう聞いたことがある。
しかし私は無い。あってはいけないのだ。
上のものは全てに平等にしないといけない。
だからこの人も平等にと。
「あの…ウェイさん…尻尾が巻き付いて動けないのですが…」
付き合い始めてから1年ちょっと。お互いが国のトップということもあり話題に上がっていた。初めの時は『政略結婚』だの『龍門が極東にじつは戦を仕掛けていたのでは』だの良いように思われなかったが、そのような話題はすぐに消えた。なぜなら私の恋人、フミヅキの評価のおかげである。
フミヅキは積極的に市民との交流をしており、その人の好さ、賢さに皆釘付けになっていた。理想の妻と話題に上がったほどだ。噂によるとファンクラブというものもできているとか。
故に街の出ると多くの人から声を掛けられる。子供や若者、長老の方からと多くの人から愛されているのだとわかる。それを見てる私も安心する。この街、龍門に馴染めてるようで何よりだった。
しかし今回は別だった。
「あの…フミヅキさん…ですよね…」
いつものように若者の男性から話しかけられるフミヅキ。
「はい、何か…ってあれ?もしかしてあなたは…ライル!?」
「やっぱりフミヅキだ!久しぶり!」
「久しぶりねライル!あなたもこっちに来てたのね!」
どうやらこの若者の男性はライルというらしい。フミヅキの護衛であるシラユキと特徴が似てるからきっとアナティ族なのだろう。体つきもいい。きっと同じような仕事をしてるのだろうな。だとすると昔の仲なのであろう。となれば私はお邪魔だろうしばらく離れよう。
「いや~にしても付き合ってると聞いたときはびっくりしちゃった。本当は僕が貰おうとしたのにな~」
は?
「そうだ久々に会ったんだし一緒にお茶しない?久々にお話ししたいし」
そういいながらその男はフミヅキの手を握っていた。
ズキっと、何かが痛む。
「いいわね!あ、ウェイさんも一緒に…わっ!」
「……お前…近いぞ……」
きっと私は今凄い顔なんだろうがそんな事気にしない。こいつとフミヅキの距離になぜが腹が立った。
「あの…ウェイさん…尻尾が巻き付いて動けないのですが…」
体が勝手に動いてしまった。まるで自分のものであるかのように。
「あ、大変申し訳ございませんでした!久々の再開でつい……」
「それに先ほどの発言は何だ。本当は僕が貰おうとした、といていたが…」
「あ、それは僕が小さいときにフミヅキさんに言ったことでして…昔稽古してるときにお世話になっていまして。そのお姿が美しく、子供ながら好きになってしまい言っていたことでして…」
分かる。とてもわかるぞその気持ち。私も戦闘訓練した後の『お疲れ様』と言いながら飲み物を持ってきてくれる時は幸せを感じる……って今はそういうことでは無い。
「…だからと言って私の恋人っ!!!」
尻尾から急な痛みが走った。
「ウェイさん。いくら貴方だからって怒るときは怒りますよ…」
今まで見たことない顔がそこにあった。多くの戦場を見てきた私でも血の気が引くような。
「尻尾。ほどいてください。」
「あっ…はい、スイマセン。」
「…ふぅ、ごめんなさいねライル。変な所見せちゃって。」
「あ、いえ!大丈夫ですフミヅキ様!」
あ、こいつもフミヅキに怒られたことがあるんだなと顔を見てわかった。
「そうですね。二人の仲に入るのは申し訳ないのでお話はまた今度にしましょうか。それでは失礼します。」
そういいながら若者は帰っていった。
「……その…すまなかった。」
「…はぁ…全く貴方って人は本当に。でも…少しうれしかったです。」
「…?何故だ?私は君に迷惑なことをしたんだぞ」
「だってあの時、〝嫉妬〟してくれたじゃないですか」
「〝嫉妬〟…」
「今までの貴方はあまり感情を表さなかったじゃないですか。私が貴方に好きと言っても微笑むだけだったりで、本当に私のことを愛しているのかがわからなかったんですよ。でもさっき、やっと見れて嬉しかったんですよ。」
「…そうだったのか……」
「さ、戻りましょうか。貴方。」
「……あぁ」
動物とは感情が体に出る。
そう聞いたことがある。
しかし私は無い。あってはいけないのだ。
上のものは全てに平等にしないといけない。
しかし、愛する人には感情を出してもいいと思った。
FIN