「傷跡」　「いてて…さすがに今回は響くな…」
　そういいながらドクターは傷だらけで歩いていた。
　事の発端は今回の任務でのことだった。作戦が終了し、一人で周りを確認してから帰ろうとしたとき、近くにまだいたオリジムシを踏んでコケてしまい、その後に近くにあった巣から多くのオリジムシが出てきて攻撃されたという流れだ。その間に何度も転んでは擦りむいて、肌を切ってなどの繰り返しだった。
　なんとか帰ってこれたがさすがに医療部に行かないとと思い歩いていた。
　「また体に傷が残るのかな…ここまでしちゃうとなんかわざとだと思われそうだな。」
　そう苦笑しながら進んでいるとよく知っている背中が居た。黒コートに黒いハット。身長は190ぐらいで、コートの中から立派できれいな黄金色と黒色が混ざった鯉の尻尾。尻先はボロボロで毎回見ていて痛い気持ちになる。
　「やぁ、リー。来ていたのか。」
　後ろから声をかける。おそらくまだ気づいていないのだろうか？
　「おや、その声はドクｔ……」
　「おぉ？どうした、そんな変な声出して？」
　五秒ぐらいだろうか。彼が動かなかった。いつもなら気づいてはすぐに話を始めてはそのままお茶をする流れになるのに。それがなかった。それはそれでなんだか少し寂しかった。しかしそれを思うのも一瞬。
　「あ、そっか。ごめんね、こんなにボロボロだったらそうだよね。少し待ってってって、え？！何急に！？」
　急に抱えられては颯爽と医務室まで運ばれた。抱えられたことにも驚いたがそれ以上に彼の顔に驚いた。喋りもせず、焦っている顔が目の前にあった。


　「驚かすんじゃねーよ。ったく。今回はお前の不注意もあっての怪我だ。今後、作戦後の行動は一人でするんじゃねーぞ。」
　「あはは……スイマセン、ガヴィルさん。」
　「それにそこのお前。怪我人を運ぶのはいいがもう少し丁寧に運んでくれ。傷口が広がったらどうすんだよ。」
　「……」
　「まぁ、今回はそこまでひどいもんじゃないから。安心な。あとドクターは運動しろ。いざという時に体力がなくて死んじまったらどうすんだ。」
　「…はい…」
　「以上。もう行っていいぞ。」
　診察も終わり出血も止まった。もう大丈夫かなと思い、楽しみにしていたお茶会をしようと声をかけようとした瞬間。
　「…何してんですか。」
　「はい？」
　いつもの明るく胡散臭い声ではなく、それは怒りと焦りが混じったドスの利いた声だった。
　「貴方はロドスのリーダなんですよ！貴方がいなくなったらどうするんですか！」
　急に怒り出してびっくりしてしまった。
　「ちょっ、リーさん？落ち着いて…ね。周りに聞こえちゃうし…」
　「何言ってるんですか！前から貴方の不注意には気にかけてましたがもう限界です！これ以上心配かけないでください！大体何で一人で行動したんですか！毎回共同行動するようにと言っていたのは貴方じゃないですか！」
　「いや、それは…私が悪かった…少し油断していたんだ…」
　「いつも私が貴方と一緒に居られるとは限らないんです…だからもう…これ以上不安を掛けないでください……」
　「…すまなかった…」
　顔があげられなかった。こんな彼を見るのは初めてだった。いつもは温厚で、ドジをしても笑ってくれたりする暖かな人だと思っていた。そう、それしか思っていなかった。彼も一人の人間だ。怒りなどの感情もあるに決まっている。
　「心配をかけて申し訳なかった。そんなに怒ってくれるなんて思ってもなくて…そうだ。そしたら今日は謝罪もかねて美味しいもの食べに行こ！今回は私の奢りだ！」
　「…ほんと、貴方という人は、切り替えが早いことで。そしたら覚悟してくださいね。」
　「あぁ。なんでもいいぞ！」
　やっぱり君はその顔が一番だ。あの時の顔は見なくてよかったと秘かに思った。そしてその後の一週間がもやし生活になるなんてことも知らなかった。