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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    【創作】ハトラとエルベと???

    ##創作

    彼の名「あれ、エルベじゃない」
    「げ、ハトラ」
    「『げ』だなんて。言ってくれるね〜」

    夜も更ける頃。
    ヌビア学研究所内にあるコンビニエンスストア。
    その飲料売り場の前で偶然出会ったのは、【ヌビアの子/記憶】であるエルベと、【ヌビアの子/野望】であるハトラだった。
    「キミ、まだ未成年だよね〜?良い子はこんな時間にお外に出ちゃダメだよ〜?」
    「ご忠告ありがとーな、でも俺は良い子ちゃんじゃ無いんでね」
    エルベはハトラを無視して、2Lのペットボトルを2つ手に取った。サイダーとコーヒーだった。
    「お客さんでも招くのかな〜?」
    ハトラの言葉に、エルベは一瞥をくれる。しかし、返事はしなかった。悪態をつくでも、わざと誤魔化すわけでもないその様に、ハトラの好奇心が擽られる。
    (知りたいなぁ)
    ハトラは、眉間の裏側でそう思った。もう一度、繰り返す。
    「お客さんでも、招くのかな〜?『教えて』」
    途端、エルベの首は糸で操られたようにハトラの方を向いた。言うまでもなく、【野望】の力だった。ハトラは、自分がそうしたいと願ったことに相手を従わせる力を持つのだ。
    ────ところが。
    「……っ、ん…」
    (……ん?)
    「っ……ひ………人、は、招く」
    ハトラは怪訝な顔をした。
    【野望】に従わせたはずのエルベが、自ら口籠るような素振りを見せたからだった。

    【野望】とは、それすなわち、本人の意思如何に関わらず、人を意のままに動かす力である。
    ゆえに、『嫌がる』事はできる。
    しかし、『逆らう』事はできない。

    そのはずが、今、エルベは明確に一瞬『逆らった』。
    最後には負けたとはいえ、『逆らった』のだ。
    だからこそ、ハトラは怪訝な顔をしたのである。

    「………よっぽど、その人を招くことをボクに知られたくなかったのかな〜?『答えて』」
    ハトラは、両目の裏に力を入れて念じた。ビビットピンクのメッシュを入れた黒髪の下、くすんだ水色の眼が鋭く光る。
    「別に、知られたくなかったわけじゃない」
    今度のエルベはするりと答えた。ハトラは続ける。
    「じゃあ、何でボクの質問に一度答えなかったのかな〜?『答えて』」
    「わっ、わ、……分からない」
    エルベは口籠った。しかし、この吃り方は、発言を強制させられたことに伴って発生する自然なものだった。ハトラはそれを見分けて、首を捻る。唇に指を当てて、ウウンと考える。
    (何でボクの力が通じなかったのか、本人にも分からない、と……)
    鋭い歯で、自らの人差し指を噛んだ。

    「………」
    エルベはそのハトラの様子を訝しげに見ると、さっさと立ち去ろうとした。ハトラは、普段よりもいくらか低い声を出す。
    「『待って』」
    「…………」
    エルベの動きが止まる。露骨に嫌そうな顔をしながら、ハトラの方を見る。
    「もういいだろ、どうでも」
    「良くないんだよねぇ〜、それが」
    ハトラはギザギザとした歯を見せてニィと笑った。「俺が誰を呼ぼうと構わねぇだろ」と呟いたエルベには、ハトラの真意は伝わっていないらしい。
    (誰を呼ぶかなんて、本当にどうでもいいんだよねぇ〜。ボクの能力が通じなかったっていう事実のほうが、100倍心配)

    ハトラは思考を巡らせた。
    ことヌビア学に関する知識量においては、ハトラは他の【ヌビアの子】よりも長けていた。ハトラが及ばないといえば、自他ともに認めるヌビアオタクのリヨンか、そのリヨンの高説を聴き続けること十数年のハンザくらいである。
    (【ヌビアの子】だから能力が効かない、なんてことないはずだし)
    むしろ、【ヌビアの子】同士は共鳴して能力を強める傾向を持つ。精神干渉系の能力の場合は、特にそれが大きい。エルベだから効きやすい、は有り得ても、エルベだから効きにくい、は有り得ないはずなのだ。
    (とすると、別の能力の干渉?)
    同じく精神干渉系の能力がぶつかり合うと、打ち消し合うことがある。
    (だとすると、【カリスマ】が、ボクの言葉に従わないほうがよい、みたいな価値観を植えたとか…?いや、まさか)
    アイールとテネレが持つ【カリスマ】は、ある種【野望】と対になる力だった。【野望】ほどの強制力はないが、心の底からそれが正しいと思わせるのだ。だからこそ、【カリスマ】でもあり【野望】でもあったヌビアは、一瞬にして人民の心を掌握したのだ。
    しかし、とハトラは首を横に振った。
    もちろん、『ハトラに従っちゃダメなんだよ!』と思わせること自体は、【カリスマ】として不可能ではないだろう。ハトラがその可能性を否定したのは、アイールとテネレの性格によるものだ。アイールとテネレは、中央都市の育ちで、しかも良い所のお嬢さん方だ。【ヌビアの子】としての力を無闇矢鱈に使うなということくらい、骨身に染みるほど言って聞かされているだろう。且つ、それに逆らうとも思えない。
    (でも、だったら、なんで…?)
    「おい」
    ハトラの思考を破ったのは、苛立ったエルベの声だった。
    「いい加減放してくれ。部屋に帰りたい」
    「ンッ?ああ、そ〜だね」
    エルベは、ハトラの『待って』に縛られ、動けないままそこにいたのだ。ハトラは、エルベに笑ってみせた。ハトラは胸にわだかまる不快感を晴らす代わりに、エルベに八つ当たりのように能力を掛けた。
    「ところで、結局、エルベの部屋には誰が来るの〜?…『教えて』」
    「っ、」
    エルベはまた口を噤んだ。
    (名前を言わせない力が働いている…?)
    ハトラは、思いながらもまだ念ずることを止めなかった。
    やはりエルベに掛かっている【力】はハトラのそれより弱いらしく、最後にはエルベが折れる。
    エルベは何度か唇を開いては閉じる。それから、ぽつっ、とその名を呟いた。
    「………オリックス、さん」
    (…………え?)
    ハトラがその名に気を抜いた瞬間、どうやら能力の呪縛が外れたらしい。エルベは、ダッと走り抜けてレジへ駆けていってしまった。ハトラの視界から消えてしまう。

    ハトラは、独り立ち尽くしていた。
    「………オリックス、って」
    ハトラは、持っているヌビア学の知識を総動員させていた。
    「………幹部団、第3位の…?」

    ハトラの知る『オリックス』という人は、幹部団第3位の男の他になかった。
    ヌビア学の権威を集めた『幹部団』。その、上から三番目の地位を持つ人物。
    幹部団の中で唯一、「大学」や「研究所」といった所属、肩書を持たないこと。幹部団の中では最も若いということ。
    それしか明るみにされていない、謎の多い人物。
    (そんな男が、エルベの部屋に上がれるくらい親しい?)

    「………これは、面白くなりそうだねぇ〜」
    ハトラは、歯を見せてニィニィと笑った。
    肩のあたりがゾクゾクするのを押されられず、腕を組み、喉の奥で笑った。
    誰もいない飲料売り場に、奇っ怪な笑い声だけが響いた。
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