「仮装パーティーの手伝い、ですか?」
マクダエル議長からの直々の要請という事で彼の執務室へと出向けば、その口からは意外な言葉が飛び出した。そのため、パチパチと瞬きをしながらロイドが聞き返せば、そうだ、と頷かれる。
ここ数年は色々あり、そういった催し物どころではなかったのだが、再独立を果たし、クロスベル内に限れば、の話ではあるが情勢も幾分落ち着いているため、久々に賑やかな事をしたい。そこで思い付いたのが、収穫祭を兼ねた仮装パーティーという事らしい。
そして特務支援課には、当日の場内での警備兼手伝いを頼みたいという事で、断る理由もないため二つ返事で引き受ける。
となると次の話題は当然何の仮装をしようかという事だ。
「そうねえ。定番だと、吸血鬼に狼男、魔女とかかしら?」
「けど、普通じゃ面白くねえよな。こう、皆をアッと驚かせたくねえか?」
「ランディさんは結構派手なのがお好きですよね。でも、楽しそうです」
「いや、別に普通で良いと思うんだけど…」
「そう堅いこと言うなって。パーティーなんだから、盛り上がる方が良いだろ?」
別に普通で良いのでは、と思うロイドだが、ランディやティオ、更に後からその話を聞き、悪ノリしたワジに押しきられて、何か一風変わった仮装をしよう、という事になってしまったのだった。
パーティー当日。
会場は市民ホールをメイン会場に、各所に屋台を出し、テーブルと椅子を置いて食事が出来るようにしようという事になり、朝から飾りつけやテーブルの設置、食事の準備など、各所でてんやわんやの大騒ぎ。市民や観光客ももどこかしら浮かれており、支援課もあれやこれやと手伝いに駆り出されていた。
そしてビルに全員が戻ってきたのは午後4時。パーティーは6時からだが打ち合わせがあるという事で、大急ぎで着替えをする。
結局無難に、クロスベル警察の制服を借りて着用する事となったのだが、最初はランディからトールズ第Ⅱ分校の制服というとんでもない案が出されたのを、色々洒落にならん、という課長の一言でどうにか警察の制服で納得させたのだ(しかし自身は市内の巡回をするから仮装なぞいらん、と突っぱねた)。
ロイドにとっては警察学校以来となるだろうか。懐かしいなと思いながら袖を通し、帽子を被り、鏡でネクタイが曲がっていないかチェックする。
そして下に下りれば、少しばかり着崩しているもののそれが様になっているランディと、特別に子供サイズの物を用意されて、みんなとお揃いだと喜んでいたキーアが待っている。
「お。さすがに様になってるな」
「そっちこそ。キーアもよく似合ってるぞ」
「ほんと?やったー!」
そこへエリィやティオ、ワジ、ノエルも下りてきて、互いに感想を言い合った後、会場へと向かう。
市民ホールの前には既にちらほらと仮装して待っている人たちがいて、彼らに声をかけられながら会場の中に入れば、今日はここでパンを提供するらしいオスカーとベネットがいた。
「よう、ロイド。よく似合ってるじゃないか。普段はジャケットだから、制服姿は新鮮だな」
「ありがとう。オスカーは、…吸血鬼か?」
「ああ。んでベネットは魔女だな。定番だが、悪くないと思って」
「うん。ふたりとも、良く似合ってるよ。今日は何のパンを焼いたんだ?」
「カボチャを使ったパンをいくつかな。パンプキンパイにカボチャのあんパン、タルト、まだあるぜ?」
「すごいな。会場の警備をしながらにはなるけど、後でいただくよ」
「おう。仕事、頑張ってな」
「そっちもな」
それからマクダエル議長と話をし、警備の段取りを確認すれば、いよいよ開場だ。
大勢の市民が入れ替わり立ち替わりやってきては支援課にも声をかけ、楽しんでいるその様子に、ロイドたちは何とも感慨深いものを感じる。
帝国に占領されてから、いや、あの独立国の騒ぎの時から、クロスベルの住民は苦難に曝され続けてきた。だが、それに屈することなく再独立を果たし、こうして楽しい時間を持てる。
涙ぐみそうになるのを堪えるロイドの様子に、ランディがセンチメンタルかよ、とからかうが、そう言うランディも、否、支援課のメンバー全員が同じ気持ちである事は知っている。
だからロイドは笑ってそうだな、と答え、お前だってそうだろう、と返すのだった。
仮装パーティーは大変盛り上がり、特に大きな問題もなく終了した。
結社の道化師が姿を現し、支援課の面々に似合ってるけど面白味がないね、などとダメ出しをしつつ食事を摘まんで去っていったり、帝国情報局のレクターがちゃっかり自身も仮装して(やけに気合いの入ったゾンビにどうしたのかと尋ねれば、話を聞きつけて張り切ったミリアムが、自身は参加できないのを悔しがりながらアレコレと準備したと言っていた)参加していたり、これまたどこから聞きつけたのか、食べ物を抱え込んだリースにケビンが少しは遠慮しろ、と言っていたりと、分かる人には分かるカオスッぷりではあったし、ロイドたちの疲弊はかなりの物ではあったが、それでもどうにか問題なく終わらせる事は出来た。
後片付けを手伝ってから支援課のビルへと戻れば、時刻は既に夜中の0時を回っていて、順番にシャワーを浴びてそれぞれ部屋へと戻る。
と、ロイドの部屋をトントンと誰かがノックしたのでどうぞ、と声をかければ、ひょこっと覗いたのはキーアの顔だった。
「どうした?キーア。もう遅いし、寝ないと…」
「トリックorトリート!お菓子をくれなきゃいたずらするぞ?」
「…えーと。一体何だ?それ」
「んーとね。キーアもよく分かんないけど、他所の国の風習?なんだって。レクターが教えてくれたの!」
「キーアに何を教えてるんだよ、あの人は……。今お菓子は持ってないから、明日の朝でも良いか?」
「だめ!お菓子がないならいたずら、だよ?」
「え?うわ、ちょっと、キーア!?わひゃっ、ちょ、やめっ、くすぐったい、からっ!」
ロイドの答えににんまりと笑ったキーアは、手をわきわきとさせながら飛びかかり、受け止めたロイドをくすぐり始める。
実は意外とくすぐったがりなロイドは、そのいたずらにたまらずキーアを引き剥がそうとするが、力が入らずしばらくそのままくすぐられ続けて、キーアの気が済んだ時には息が切れ、涙目になっていた。
「はっ、はー、…も、気は、済んだ、か?」
「うんっ!…ね、ロイド。今夜一緒に寝てもいい?」
「いや、一緒に寝るのはそろそろ止めた方が…」
「お願い、ロイド!」
「っく。……仕方ないなあ」
年頃になってきたキーアと一緒に寝るのはそろそろ止めた方が良いだろうと思うロイドだが、キーアのお願いには勝てない。
そして結局一緒にベッドへと潜り込むと、寒くなってきたけど、一緒に寝ればあったかいね、と言うキーアと手をつないで、互いの体温を感じながら眠りについたのだった。