オリの独り言②...オリの独り言


寝ぼけ眼で洗面台に立つ。歯を磨いて顔を洗って。拭き残しがないか確認するために鏡を見た。



「...かあさん、目が変な色してるんだ」


※

「原因は分かりません。先天性の色素異常が浮き出てきたのでしょう。メラノーマの場合もありますが、すぐに調べるためには眼球を摘出しなければなりませんし、10代なのでこのまま様子を見ても良いかもりれません。眼球の腫脹や違和感があったら再診をするのが良いと思います」

突然現れた黒点はどんどんと広がり、数週間もしないうちに白目を覆い、空洞に眼球が浮かんだように見える。けれど原因不明、異常なしとあれば特に気にすることもないと母は言っていたから隠すこともせずに学校へ通った。

ヒュー…ヒュー…と熱い息が漏れる。
身体は燃えるように熱いのに途切れることの無い寒気が全身を苛み、安静にしているはずなのに頭の中…いや、脳がグルングルンと回っているような感覚に陥る。
(こんな酷い風邪ひいたのは何年ぶりだろう……)
子供の頃は熱が出ても使用人達やかかりつけの医師がいたから、どうにかなった。父上や母上は顔も見せに来なかったけど。
家が没落してからは、誰も傍にいない中、熱が下がるまで一人でジッと耐えていなかったか。

(……オルトやテメノスさんと出会って気が緩んだのかな)
そこまで考えて、ブンブンと頭を振る。……痛い。
(イタタタタ……、じゃなくて。ただ自分の弱さが招いたことじゃないか。なに二人のせいにしてるんだ)

夏の匂い本丸の自分の部屋でゴロゴロしていたと思ったら瞬きした次の瞬間には空気が変わってて神域だって気づくと同時、ゆっくり覆い被さってきた長谷部に柔らかく手首を畳に縫い付けられて視界が藤色で埋め尽くされる。
梅雨が来る前の鬱陶しい湿度がない場所。裸足の指を通り抜ける涼しい風。雑音のない軽い空気。口の中で笑う神様に呼吸も心音さえ意のままにされて、水気を含んだ視界にやっと映った顔があまりにも嬉しそうなんで、歯噛みする審神者。
夏の香りがした。