虎視眈々 ──夢だ、と花梨は思った。今日は神子のときの服を着ている。そうでなければ、高校の制服姿だ。高校を卒業してから随分経つのに、自覚できる夢の中ではたいてい、短いスカートをはいている。もうそんな年でもないのに、とすこし恥ずかしくなる。でも、この姿でないとわからないのかも知れない。自分を呼び出す相手は。
「ああ、今夜も来てくださったんですね、花梨」
「南斗様」
「おいしいお茶とお菓子をもらったんですよ、どうです?」
柔和な笑みを浮かべる神、南斗星君は自らの宮に、花梨を招き入れる。初めのうちは宮に懐かしさを覚えたものだったが、最近は勝手知ったるに切り替わった。
「また、北斗様と喧嘩したんですか?」
「ええ、まあ。兄弟ですし、喧嘩くらいしますよ」
神子に選ばれたからか、その上で天界でのいざこざに巻き込まれ、天界の窮地をほかの時空の神子と救ってから、度々南斗星君は花梨を天界に呼ぶようになった。こんな風に茶をしばくようになったのは、神子でなくなってからだが。
「私、もう神子じゃないのに」
あのときみたいなことはできませんよ、と再三言ったが、南斗星君はそんなことの為に貴女を呼んでるわけではありません、といつものように笑うだけだった。
「貴女と話したいからこうやって呼ぶんです。貴女は僕の友達ですから」
「はあ」
神と友達、というのも不思議だ、と天界の茶を飲みながら、花梨は相槌を打つ。今日の茶は花梨好みだった。
「あ、それ貴女好きですか!」
「は、はい。美味しいです」
「そうでしょうそうでしょう」
南斗星君は嬉しそうに頷いている。つられて、花梨も笑ってしまう。
「人の子の命は短いですからね、できるだけ好きなものを摂らないと」
「命を司る南斗様がそんな話をするんですか?」
「はい、だから貴女が僕のお嫁さんになってくれたら、いいんですが。もう貴女を守るとかいって、邪魔する八葉もいないですしね」
「え!?」
「まあ、今は気にしないでいいですよ」
時間だけはたくさんありますから、と南斗星君は笑う。
「い、いつからそんな話になってたんですか」
「いつからって……ずっとですけど」
あれ、気付いてませんでした? とあっけらかんと訊ねる。神様からの突然の告白に、友達はどこに言ったんですか、とやっと答える。
「いまは、ですよ。これは貴女が肉体を失って、僕のお嫁さんになってもいいかなと思ったときの予行練習です」
さあくつろいでいってくださいね、とお茶のお代わりを注ぎながら、南斗星君は言う。