夢花梨が夢に現れた。
なんとも言えずに起き上がる。照れくさい、というのが一番近いだろうか。ついで、これはきっと例のことじゃない、と思う。
なぜなら、夢の中で花梨は泣いていた。そのうちにそれはガキの頃の自分になって、千歳になった。灰が舞う中で、自分の肩口から錆がこぼれて、生きながらに朽ちていく。そんな夢だった。
花梨の世界では、別に夢で誰かを見てもたいした意味はないのだという。そもそも花梨の泣き顔なんか見たことない。あいつはたいてい不思議そうな顔をしている。あとは笑った顔か。困った顔もする。でも、泣いているのはない。だから、夢で泣いていたのは俺なんだろう。花梨に少し話したから、蓋をしたはずの記憶が呼び起こされた。……嘘だ。あの日を忘れた日なんてない。
身支度を済ませて紫姫の館に赴く。
──きらわれるのって、さびしくないですか?
花梨の言葉を思い出しながら歩く。今さらさびしいもなにもない。
──勝真さんのために何かできませんか?
なにもしなくていい。
なんでそんなに健気なんだ。
「……ちがう」
深苑にきらわれたのが、さびしかったんだ。花梨が。いや、深苑だけじゃない。きっと俺もだ。きらったまでじゃなくても、冷たくされたら誰でもそうなる。
なのに、その上で、何かしてくれようとしているのか?
「あ、勝真さん! おはようございます」
「……おはよう」
紫姫の館に着いた。考え事をしてちょっと遅くなったか、と思ったが、花梨はすこし済まなそうに言う。
「今日は皆さんみんなお仕事だそうなので、お休みにしようかって言ってたんです」
「……じゃあ、どこかへ気晴らしに行くか?」
「え、いいんですか?」
目を輝かせた。そういえばこんな顔もする。
「いいぜ。どこ、行きたい?」
「えっと、……」
──誰かのために、なにかできることを探す。その理由が、夢の通りなら。そんな風に期待する自分がいた。