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    ナツメ

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    ナツメ

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    遙か2
    なんでも許せる方向け
    最終決戦の朝、時朝のもとを訪れた彰紋の会話
    添えるだけの泉水さんと名前だけ出てくる和仁様

    罪を灌ぐことはできなくとも 一晩かけて降った雪は、京のありとあらゆるものを隠すように、覆い尽くしていた。
    それは霊力の一切をなくした自分も例外ではなく、時朝はやたらと晴れた空を見上げる。澄んだ空気は痛いほどで、強く風が吹いたら血が出るのでは、と疑いたくなるほど、冷たい。
    ──あのお方は、ずっとそんなところにいたのだ。
    時朝は和仁を思う。誰かに目をかけられることもなく、黙殺される日々は、どれだけ和仁の心のうちを蝕んだのだろう。可愛がられていたのでも、特別に思われていたのでもなく、ただ自分を産んだ母親の「道具」にすぎなかったという事実は、和仁に、どれだけ深い傷を与えたのだろう。
    がさり、と近くで音がした。誰かが、雪を踏む音が近づいてくる。
    「ああ、時朝殿。こちらにいらしたのですね」
    「これは、東宮様、泉水殿」
    「兄上と時朝殿に、ご挨拶に参りました。今日が、おそらく最後の戦いになるので」
    時朝は邸を訪れたふたりを見やる。龍神の神子を守る八葉に選ばれたふたりに、前世からの縁を感じずにはいられない。
    「霊力を失った身ではなにもできることはありませんが、どうか、ご無事で」
    「ああ、面を上げてください時朝殿!」
    「ふふ、兄上にも同じことを言われました。勿論です」
    仮面の男の思う通りにはさせません、と彰紋が凛とした声で言う。泉水の出生の秘密を打ち明けることができなかった頃の彼ではない。時朝は目を瞠った。
    「僕たちは必ず魔に打ち克ち、ここに帰ってまいります。すべてか終わったら東宮として、和仁兄上と、泉水兄上とよき世をつくりたいと思います。時朝殿、その時はどうか、ご助力を頼みたく、今日は参ったのです」
    「そんな、彰紋様、私は……」
    突然の彰紋からの申し出に、時朝は困惑する。だが彰紋の決意は固く、真剣な眼差しは揺らがなかった。
    「人は時に間違えるものです。そのことを経験された和仁兄上、それでもなお、兄上のお側についていた時朝殿、あなたたちは同じ罪を犯した者を助けることができるでしょう。これからの世に、あなたがたの力が必要なのです」
    「御仏が救いたいのは衆生ですから、私からもどうか、お願いいたします、時朝殿」
    戸惑いながらも、和仁様はなんと、と時朝は訊ねた。彰紋は苦笑いをしながら、「兄上は、お前は馬鹿か、と」と答える。
    「でも僕は信じています。兄上がきっと、僕が京を治めるときに、必ず力になってくださると」
    雪雲から陽が差して、彰紋の髪を雪の中、輝かせる。
    ──和仁様はいつか、陽の当たる場所に、自分の力で向かう。彰紋や泉水の力を借りても、いつか、自分だけの力で。
    「この時朝、命に代えても」
    一度ならず、二度死んだはずの身が、彰紋の治める世で、和仁のためにも、尽くすことができるならば──時朝は跪いて、誓う。
    もしも、自分にできることがあるならば。なくても、自分にできることで、と。
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