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    ナツメ

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    ナツメ

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    遙か2
    勝真京エンド後
    千歳の誕生日の話

    「千歳って春生まれなの?」
    「そうよ、あなたは春と言ったけれど、兄上は初夏の生まれだわ」
    私のいた世界だといまの季節は冬だよ、と花梨は驚いたように言う。
    「もう梅もほころびそうじゃない」
    「……前から思ってたけど、風流とおしゃれは似てる」
    「どういうこと?」
    「我慢ってこと」
    よくわからない、と千歳は笑った。花梨がよくわからないのは、今に始まったことではないが。
    「そうだ、じゃあ誕生日プレゼントにつけてあげる」
    「……それ、なあに?」
    花梨が出したのは白い、軟膏のようなものだった。唇に塗ると色がつくリップクリーム、と説明されるが、なんのことだかわからない。言われるがままに唇を薄く開くと、花梨がそこに指でぽんぽんと軽く叩いた。唇を合わせて馴染ませると、甘い香りが千歳を包む。
    「何の香りなの?」
    「桜だよ」
    千歳にぴったりだね、と花梨がよく見える鏡を出して千歳を映した。ほのかに唇が薄紅色に染まっている。
    「千歳、お姉さんみたい」
    「そうかしら」
    「綺麗」
    贈り物をもらったのは千歳だが、花梨のほうが楽しそうだ。睫毛上げていい? と懲りずに聞いてくる。
    「もう、あなたがやりなさいよ」
    「だって勝真さん、気付いてくれないもん」
    兄上はだめね、と千歳が返し、くすくす笑い合う。千歳の唇から、気の早い桜が香った。
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