七瀬くんの思考を覗こうね俺には他校の後輩で親しい人がいる。もう三年になる付き合いだし友達だと思う。多分。
でも今日、好きだと言われた。聞き間違いや冗談だと思って何度も聞き返したけどどうやら本当にそう言ったらしい。
ほんとは、本当は俺も烏丸のことが好きな気がする、というか好きなんだけどだからこそうまく反応できなくて結局保留する形で帰ってきてしまった。
(悪いことしたかな....したよな...)
これが一時の気の迷いならしばらくしたらケロッと忘れるだろう。
どっちかというと俺は、烏丸のいう好きはちょっと俺とは違う気がしているのでもうこのまま保留されて自然に無くなってしまったほうがいいとすら思う。そのほうがきっとお互いのためになる。
俺が最初に烏丸への気持ちをなんとなく理解した時烏丸には彼女がいた。いたというか、理解した後少ししてできたと言ったほうが正しい。
実質失恋した。それはもうショックだった。最初から脈がないことを理解していたけどそれを改めて認識させられたから仕方がない。
それでも友達として彼の人間関係に含まれているだけでいいと思ったし、彼女の話を聞く時だってそれはもううまく笑顔でいられたと思う。
あの時どんな話をしたか、どんな話を聞かせてくれたかほとんど覚えてないけど話の全部が七瀬月翔にはないものばかりでもはや開き直るレベルだったな...
烏丸が幸せなら別にいい。元々人に話せない気持ちや秘密なんて山ほどあるのだから今になって一つ増えたところでなんてことない。俺が表に出さない限り無いのと同じだ。これまでもいろんなことがそうだった。確かにあったことだけど、言わないでいたから誰も知らないことはたくさんある。
痛みは最初だけであとは馴染みのある空虚感だけが残るものだ。
それから俺は更なる痛みを避けるために距離を取った。遊びの誘いもまずは彼女と行かなくていいのかと確認を取るし、彼の貴重なバイトのない日を俺に使って欲しくなくて約束を減らして見たり。それから連絡も少しずつ減らして見たり。
嫌だった。彼女のちょっとした愚痴を聞く時に少し希望を持ってしまう自分も他人の時間をこんなふうに浪費してしまう自分も。
でも、なんで烏丸は好きなんて思ったんだろう。
こんな性格も悪くてどうしようもなくて、最悪なやつ好きになるわけないのに。烏丸にはそういう自分を見せてきたと思うし、尚更だ。
さらに言えば俺は烏丸の好みと全く合わないし、あいつは俺のことを悪魔なんて呼ぶし、喧嘩なんてよくするし
彼女と別れたって言ってたし今寂しいだけかもしれない。俺以外にも同じようなこと言ってたりして。
流石に無いか。そういう人じゃ無いと思うし。
まぁなんにせよ卒業してここを離れて仕舞えばあっけなく終わるはずだ。それまでのらりくらりかわしていればいい。
期待しないようにしないと、できるだけ終わりが苦しくないように