無題自然と手繋いでキスするダイユキ
まだ玉田加入前の話
練習後の帰り道。
お互いにバイトもないので途中まで一緒に帰る事にした。普段通りジャズについて語り合い、今後どうしていくかについて話し合っていた時である。気づいた時には雪祈の手は、大の大きな手に包み込まれていた。
手を繋がれた事に驚いた雪祈は足を止める。
何故このタイミングで手を繋ぐのか。そもそも何故手を繋がれているのか雪祈には分からなかった。いきなり歩みを止めた雪祈を見て大は首を傾げる。
「ん?どした雪祈?」
「…大チャン?この手は何ですか?」
「え?」
「いや、え?じゃなくて。どうして俺の手握ってるの?」
「どうしてって…」
瞬きを数回繰り返し、大は首を傾げる。
可愛らしい所作に腹が立つが、怒りを抑えて大の答えを待つ。手を繋ぐ理由が知りたかった。
「雪祈は嫌か?俺と手繋ぐの」
「はぁ?」
「嫌か?」と重ねて尋ねられ、雪祈は言葉に詰まる。手を握る力が先程より強くなった。
雪祈は考える。嫌かどうかを。手を繋いだままで良いのかを。考える時間は短かった。
言葉を返すよりも先に大の手を握り返す。
「…嫌じゃないかもしれねぇ」
「!だべな!!」
雪祈の言葉に大が表情をパッと明るくなる。繋いでいた手を離し、大が雪祈に抱きついた。
力の強さに雪祈の口から「ぐえ」と空気が抜ける間抜けな声がしたが、大は雪祈を抱き締める事を辞めなかった。
「大チャン、このハグは、何ですか?」
「え?」
「いや、え?じゃなくて…。……このやり取りついさっきもしたな」
「雪祈は嫌か?俺とこうするの?」
先程と同じ問いかけだった。
雪祈は考えようとして、考える事をすぐに辞めた。考えなくても答えはついさっき出ているのだから。
「嫌じゃない」
「雪祈がそう思ってくれて、俺は嬉しい」
少しだけ頬を赤くした大が、照れくさそうに笑うから雪祈も釣られて笑った。雪祈より少し低い位置にある大の真ん丸な目が雪祈を見上げている。
視線が絡み合い、どちらからともなく顔を寄せてキスをした。
「……大チャン、キスをしたのは……あぁ、もう聞くのもバカバカしいな」
「雪祈、キスされて嫌じゃないもんな」
「…実は嫌だって言ったら?」
「嘘だって分かるから大丈夫だべ」
自信満々に言われた事に腹が立つが、見抜かれているのなら仕方がない。
月の光のに照らされた、観客もいない二人だけのステージで、再び唇を重ね合う。
嫌じゃなかった、とても満たされていて、幸せだった。