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    nekonyanya82

    @nekonyanya82

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    nekonyanya82

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    英重。お互いに執着ばちばちな二人が好き。

    執着の在処口煩く、堅物な男は、今は微睡みの中だ。生きているのか疑いたくなる、人形の様な整った顔で『鬼』は眠っている。
    そっと覗き込んだ白磁の肌に、醜く走る一筋の傷跡。瞼を裂く様に残るそれは、過去の過ちの名残。
    その傷を見ると、堪らなくなるのだ。形容しがたい、ずるずると胸の内を這う感情に、心臓が食い破られていくのを感じる。征服感、罪悪感、郷愁・・・。どんな言葉を当てはめても掴めないその感情を、重は長い間持て余したままでいた。
    ゆる、ゆる、と瞼の下で眼球が動いているのが分かる。滑らかに盛り上がったそこに、ゆっくりと口を寄せた。ふわ、と唇に睫毛が触れる。つるりとした傷跡を、ちろ、と舌でなぞった。
    英は起きない。仔猫がするように、重は何度も傷跡を、ちろちろと舌先でなぞった。
    傷。俺がつけた傷。
    軍人であり、武人である英の身体には、数え切れない古傷があった。どれもすっかり塞がっているが、薄っすら跡を残したり、皮膚が引き攣れていたりするところがいくつもあった。その中でもこの傷だけは、時折こうして、どうしても確かめてみたくなる。
    眼の形を確かめるように、唇でやんわりと食む。ちゅむ、ちゅ、と吸ってみては、血が集まり浮かび上がる傷跡に、並々ならぬ高揚感を感じた。は、と熱い吐息が溢れ、背筋がぶるりと震えた。
    俺だけのものだ。これだけ、これだけなんだ。
    堪らなくなって、べろ、と傷跡を端から端まで舐める。甘い。そんな気さえした。
    「・・・っはぁ、堪忍、なぁ・・・」
    気味が悪い、と重は思う。夜な夜な、己のつけた傷跡を舌で確かめるなんて。まるで妖のようではないか。

    夢中になるあまり、英の胸の上に乗り上げるようになっていた身体をゆっくりと起こす。これ以上はいけない。
    後始末をしなくては、と離れようとすると、びん、と首に掛けた紐が引っ張られた。身を起こし切れず半端な位置で、重はぎょっと目を見開いた。
    真っ赤な紐の先に、『鬼』が食らいついていたのだ。桜色の薄い唇に、真っ赤な紐が挟まれている。銀色の瞳をした鬼が、きろりと重を睨んでいた。
    ぐい、と顔を反らせて英が咥えた紐を引く。まるで首輪を引かれた犬の様に、重はすとんと体勢を崩した。倒れこむ寸前に肘をついて、何とか支えていると、冷たく白い指が、皮膚と紐の間にするりと滑り込んだ。品定めする様な指に、どく、と鼓動が跳ねる。くるりくるりと真っ赤な紐を指先で弄びながら、英は重の首筋や鎖骨を擽った。
    「・・・・・・ぁっ、」
    鎖骨の窪みを指先が掠めた瞬間、甘ったれた声が重の喉から洩れる。ひくひくと揺れる身体を面白そうに眺めながら、英は低く呟いた。
    「あれほど抱いてやったのに、まだ足りなかったのか」
    「・・・っちが、ぁ」
    「では貴様は、寝込みを襲って人の目玉を喰らう妖の類か」
    「・・・・・・っ」
    くらくらする頭では、違うとも、そうだとも言えなかった。重の首から垂れ下がる真っ赤な紐を、英は摘んでは落とし、摘んでは落とし、と弄ぶ。
    と、英は不意にその紐をぐっと掴んで引っ張った。首に巻きついた輪が窄まり、う、と重が苦しそうに呻く。それでも乱暴に紐を引いて引き寄せ、英は不埒者の耳元に囁いた。
    「貴様は人間だ。誰にもくれてやるものか」
    返事はない。その代わりに、獣じみた熱い吐息が零れるのが聞こえた。

    俺には何もない。でも、これだけは絶対に俺のものだ。俺のつけた傷、俺の罪の証。

    私は貴様を逃がさない。逃げて楽になどさせるものか。だから、貴様の首に縄を掛ける。何処へも行かせない、その命さえも。
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