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    nekonyanya82

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    nekonyanya82

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    オメガバ英重。モブが二人を弄ぼうとしているヤツ。

    「賭けをしようじゃないか」
    豪華な応接室で、ひとりの男が言った。
    「賭け?何に賭けようっていうんだ?」
    向かいに座った男が怪訝そうに首を傾げる。賭博など、この帝都では御法度になって久しい。
    「これさ」
    賭けを持ちかけた男は、重厚なテーブルの上にかしゃり、とアルミシートの束を投げ出した。
    「これは・・・抑制剤?」
    「あぁ。本来なら、あの刀衆の詰所に届く"はずだった"ものだ」
    「はずだった・・・?」
    「本来ならこの抑制剤は・・・今は重といったか。彼に投与するものだ。しかし、それが此処にある。どうなるか分かるかね?」
    「・・・・・・発情期に、抑制剤が、足りなくなる・・・?」
    「ご明察」
    男はくつくつと喉を鳴らして人の悪い笑みを浮かべた。どっかりと椅子に腰掛け、大層愉快そうに続ける。
    「刀衆には、彼にご執心のαがいるじゃないか。ここから左遷されていった・・・そうそう、英といったかな」
    「彼が、何か?」
    「面白いとは思わんかね?」
    男は、愉悦極まりないという声色で言った。
    「あの飄々とした問題児と、堅物の監察係が本能に振り回されるところを、見たいと思わんかね?」
    賭けをしよう、と男はもう一度持ちかける。
    二人が獣の本能を抑え込むか、それとも、理性を失い孕ませるか。
    さぁ、君はどちらに賭ける?




    ふぅ、と吐き出した吐息は、喉の奥を焼く程熱かった。胎の底がぞわぞわする。頭の中はぼんやりと霞がかかったようにはっきりしない。首筋を掻き毟りたくなるほどの衝動に身を焦がす。
    やってしまった、と重は歯噛みした。薬を切らした。必ず飲まなければならなかったのに、中央の奴らと来たら、面白半分に、重に投与されている薬の量をケチったのだ。
    重はΩだ。灯影街に住むとはいえ、他のΩ達と同じように、薬が無ければ『来るものは来る』。
    じとりと張り付く髪を鬱陶しげに払いながら、ふらふらと廊下を進んだ。
    とにかく、隠れられるところが欲しい。暴れ出しそうな身体を休められるところが欲しい。
    なにより、本能が『αの匂い』を求めていた。

    五番勝負の一件以来、隊員たちの部屋は施錠が出来なくなっていた。
    もちろん一部の隊員からは文句も出たが、英自らも自室を施錠しないことを引き換えになんとか不満を抑え込み、この新しい規律を浸透させていった。
    もとより六人しかいないこの隊だ。他の部屋に盗みなどに入っても、簡単に足がつく。なにより、盗まれて困るような貴重品など、皆、この灯影街には持ち込んでいなかったのだが。

    重の尖った顎先から、ぽたりと汗が伝い落ちる。熱い。ひどく喉が渇いている気がした。
    まるで水を求める旅人のように、重の脚はふらふらとある部屋に向かっていた。本能が、はやく、そこへ行けと急かす。
    重の自室の、廊下を挟んだ向かい側。
    英の自室だった。
    新しい規律により、もちろん施錠がされていないことは周知の事実だ。勝手知ったる顔で扉を開け、逃げ込むように隙間に身体を滑り込ませる。
    ふ、と息をついた瞬間。
    「っつ、ぅ、あぁ・・・っ!」
    その匂いを感じ取ってしまったが最後。ぶわりと胎の底から震えが走る。じくじくと疼くそこを抱え込む様に、重は床にうずくまった。秘部から溢れた蜜がだらりと内腿を濡らす。その雫が走る僅かな感覚にも、ぞくりと背筋が震えた。
    「はぁ・・・っ、は、ふ・・・」
    身の内に暴れまわる熱を逃がす様に、はふはふと息を吐く。何か、巣になる物を。勝手に自室に忍び込み、私物を漁り、散らかしたとなれば英は間違いなく怒るだろうが、もはやそんなこと知った事ではない。
    震える腕でなんとか身体を起こし、よろよろとクローゼットの方へ歩いていく。此処には確か、英がこちらに持ち込んでいる私服が入っていたはずだ。
    かたかたと狙いの定まらない指に焦れて、取っ手をがりがり引っ掻きながら、何とかしてクローゼットを開ける。
    「・・・っはぁ?!?」
    その中を見て、重は絶望にも似た声を上げた。
    「・・・っあいつ、なんで服全部洗濯に出しとんねん・・・っ!」
    驚くのも無理はない。普段なら決して多いとは言えないが数枚の衣類が入っているそこは、もぬけの殻だったのだ。
    巣材の当てを失った重は、張り付く前髪を鬱陶しげに払って、苛立ち任せにクローゼットを閉めた。
    「も、ほんま、しんじられんアイツぅ・・・!」
    熱の篭る息の間に、恨み言を織り交ぜる。悪態をつかれている当の本人は、今頃涼しい顔で訓練に励んでいる事だろう。
    はやく、はやくαの気配が残っているものが欲しい。はやく、己を満たす匂いが欲しい。
    我ながら獣じみているな、と自嘲しながらも、重はスン、と鼻を鳴らした。衣服が無いなら、英の匂いが一際強く残っている場所。
    「・・・・・・あったぁ・・・」
    たたた、と足早に駆け寄ったのは、英の寝台だ。普段ここに掛けられているリネン類も皆洗濯に出されているようだが、その上に無造作に放置してあったもの。英が寝巻きとして使っている浴衣だった。おそらく、式神がうっかり取り落としていったのだろう。仕事を完遂出来なかった式神は後で英に叱られるのだろうが、今の重にとってはその失態は大いに褒めてやりたかった。
    シーツや毛布の取り払われたそこにごろりと横になって、浴衣を手繰り寄せる。じゃらじゃらした羽織の装飾が鬱陶しくて、投げ捨てるように脱いだ。汗ばんだ肌を、ひやりと外気が冷やす。拾った浴衣を肩にかけると、袖口を鼻先に持っていった。
    「・・・英はんの匂い」
    すんすん、と匂いを嗅ぐと香の様な、馴染みのある匂いがした。求めていた匂いに、とぷ、と口の中が潤っていく。溢れた唾液でてらてらと光る唇をぺろりと舐めると、浴衣を身体に巻きつけるようにして、くるりと丸くなった。狂おしく求めた香りに包まれて、はぅ、と思わず声が漏れた。
    しかし安堵もつかの間、誘発されたのか、ばくばくと心臓が暴れ出した。重は、兆してきたものをごまかす様にもぞもぞと脚を擦り合わせる。
    「っん、ぅ、んん・・・ふ・・・っ」
    自分の皮膚が擦れる感覚すら、神経を直接撫でられたかのように、背筋が震えた。胎の疼きが収まらない。
    「んぁぅ・・・っ、いやや、こんなんじゃ、たりひん・・・っ」
    浴衣をぎゅうと身体に巻きつけて、背中を小さく丸める。霞がかかった様に、頭がぼんやりしていく。もう何も分からない。今すぐ触って、めちゃくちゃにして欲しい。本能に支配されてゆくうちに、ぽろり、と唇から愛しい名前が溢れ落ちた。
    「はな、ぶさ・・・っ」


    訓練を終えた英は、そこそこに身を清めると足早に自室へ向かっていた。詰所の其処此処に残滓を残す只ならぬ匂いに、いけ好かない同期のことがよぎった。
    重のバース性を知るのは監察係である英だけだ。中央から刀衆に配属になる際その事実を聞かされ、大層驚いたものだったが、中央の狸爺共は『抑制剤は投与しているので問題無い』の一点張りだった。
    しかし、この薄っすらと残る匂いは紛れもなくΩのものだ。今までにそんなことは無かったが、今こうして気配が漏れているということは、抑制剤が効いていないという他ならぬ証拠だった。
    案の定、廊下の奥にある自室の扉は薄っすらと開いたままになっていた。そこから、甘やかな匂いが漂っている。
    意を決して扉を開けると、「ひぅ!」と小さな声が聞こえた。やはりここに居たらしい。
    寝台の上で、英の浴衣を抱きしめるようにして重が横たわっていた。いつものへらへらとした余裕など微塵もなく、頬を真っ赤にして、ふぅふぅと苦しそうに息をしている。身をよじった際にずれた眼鏡の向こうで、涙に濡れた睫毛が震えていた。
    「重、薬はどうした」
    濃いΩの匂いに飲まれぬ様、いつもより険しい声で問いかける。英の声に気づいたのか、ふる、と睫毛が震え、重は薄っすら目を開けた。
    「はなぶさはん・・・?」
    「ああ。重、薬はどうした?」
    「薬・・・けちられてん・・・。これが来る前に、取りに行こおもたけど・・・っ、いかれへんかった・・・」
    「・・・・・・ッ」
    ぐら、と視界が揺らぐ。ただでさえこの部屋に充満した匂いに煽られて感情が昂ぶっているというのに、重に仕掛けらたタチの悪い悪戯を聞いて、更に血が沸いてしまうようだった。ぎり、と奥歯を噛み締める英に、重はゆらゆらと手を伸ばす。
    「はなぶさはん、な、ええやろ・・・?」
    「ぐっ・・・」
    その手を、握り返して良いものか分からない。正気を失っている重と、正気を失いかけている自分。間違っていることは明白だった。どうすれば、と逡巡している英をじっと見つめていた重は「っぁ、」と小さく喘いだ。
    「どうした」
    少しだけ案ずる様な顔を見せた英だったが、目の前の光景に、再び、ぐっと息を飲んでしまった。
    重の、英の方に伸ばされた手と反対の手は、身体を覆う様に掛けられた浴衣の中でゆらゆらと蠢いていた。その手が動くたび、ちゅく、ちゅく、と濡れた音がする。しとどに濡れたそこを、かき混ぜる音だった。
    「っぁん、は、あぁっ、はなぶさ・・・っ」
    ぐちゅ、と一際大きな音に、重はびくっと身体を強張らせる。甘美な喘ぎの合間に名を呼ばれ、英は理性がぐらぐらと揺れるのを感じた。
    その痴態も、匂いも、英のαとしての本能を酷く煽り立てる。
    行き場を失った手を掴んで引き寄せられ、白い指先にべろ、と熱い舌が這う。

    なぁ、犯して。

    何という悪夢だ。あの日と同じ顔、同じ声で、なんてことを願うんだ。

    英は、ぎゅっと目を閉じる。一瞬の暗闇。
    「・・・重、わたしは、」
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