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    nekonyanya82

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    nekonyanya82

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    英重。しっとり月夜のふたり。

    りりり、りりり、と鈴を転がすような小さな音がする。すっかり日も落ちた縁側には人の話し声も無く、囁くような虫の音色だけがぽろぽろと溢れていた。
    かさり、と英は手にした分厚い本の頁をめくった。穏やかに伏せられた睫毛がちらちらと月明かりをはじいている。その下で、銀色の瞳がゆるゆると動いて文字を追っていた。
    英が手にしているのは、何のことはない、現世から持ち込んだ小説だ。本は、電子機器はおろか電気すら通っていない灯影街の中での、数少ない娯楽のひとつだった。元よりそこまで好んで本を読む習慣は無かった英だったが、ここへやって来てからというものの、する事の無い長い夜を持て余し、その静かな時間をこうして読書にあてるようになった。習慣になってみると、存外、静かに文字と向き合う時間は悪くないものだった。

    縁側に座る英の背中の上で、もそ、と何かが動いた。温かくて重たいものが、のっしりと英の背中に寄り掛かっている。
    「・・・なぁー、まだ読んではるの」
    「あと少しだ」
    「そればっかやん」
    英の背中に頬をつけるようにして寄り掛かっているのは、英と同じく寝間着の浴衣姿の重だった。特に何もするでなく、だらりと体重を英に預け、退屈そうに縁側の向こうを見ている。
    基本的に英がしている事は何でも邪魔をしたいという重だったが、今夜は何の気まぐれなのか、静かに英が本を読み終えるのを待っているようだった。
    しかし時折、待つ事にも飽きるのか、こうして小さな声で「まだ?」と問いかけてくるのだ。
    ふと、脇腹に違和感を感じて英ははたと文字を追うのをやめた。かさこそと這うような心地のするそこをみると、白い浴衣の生地の上を、見慣れた指が這っている。手持ち無沙汰な指先が、かりかりと英の脇腹を擽る。帯を辿り、浴衣のたるみを搔きあげ、引き締まった腰元をなぞった。
    決して感覚の鈍くない部分をくしゅくしゅと擽られて、ひく、と英は身体を震わせる。
    「なぁ、まだ?」
    英が反応したのが嬉しいのか、とろりとした声でそう問いかけながら、重は指先をじわじわと下へおろしていく。帯をこえて、胡座をかいた引き締まった太腿にひたりと手を置いた。頬をつけた英の背中が、くっと強張るのが分かる。面白い、もっと揶揄ってやろう、と重がさらに内側に手を進めようとすると。

    英の手が、ぱっと覆いかぶさるように重の手を捕らえた。指を絡めて、がっちり捕まえてしまうと、それを自分の腹の前へ。
    「・・・あと少しだから、じっとしていろ」
    本に目線を落としたまま、ぼそりと呟く。
    手を腹の前に回されてしまったことで、半ば英に抱きつくような形になってしまった重は一瞬はたと目を見開いたが、すぐにふにゃんと目元を緩めた。薄くて滑らかな浴衣の肌触りを確かめるように、すり、と背中に頬を寄せる。
    「なぁ、あとどれくらい?」
    「・・・あと少し」
    「またそれ」
    「良い子にしていろ」
    「しとるよ、最初から」
    「良い子は勝手に人の腹や脚を触ったりしない」
    「そやったん?初耳やな」
    軽口を投げ合いながら、重は英の背中に耳を押し当てて目を閉じる。英が何かひとつ返事を返すたび、低く穏やかな声が振動となって耳に響いた。
    びん、と響く愛おしい声が、鼓膜を、肺を、身体を震わせる。もっと、もっと聞きたい。
    「なぁ」
    重は、絡められた指をそっと力を込めて、同じ事を問いかけた。
    「まだ?俺、飽きたんやけど」
    「あと少しだ」
    「またそれ」
    「お前が頻繁に聞くからだろう」
    「ちゃんと頁進んどんの?」
    「お前が邪魔さえしなければな」
    「ふーん・・・」
    好きな声が、びりびりと身体を震わせる。腕には、しっかりとした身体の感触。指先には温かな体温。どこへも行くな、というように重ねられた手。
    「・・・なら、もうちょっとだけ、ええ子にしてよかな」
    「ずっとそうしていてくれると助かるのだがな」
    「そら承れませんなぁ」
    くつくつと喉を鳴らす重。一度腰を上げて座り直すと、ひたり、と触れ合う面積が大きくなる。胸にも腹にも温かさを感じながら、またぼんやりと庭を見た。
    背中越しに響く、命の巡る音を聞きながら。
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