「あんなひらひらで暑そうな格好してさ、涼しそうな顔してんのは、冷血漢だからだよ」
そんな話をしているのがきこえてしまった。
ただでさえ暑くて、給料日までまだ日があるせいで、頼りのそうめんすら在庫が尽きかけ空腹でイライラしているというのに。
ただ、上司が反感をかう原因はわかっている。
だから無駄口をたたいている彼らを一睨みして、作業に戻る。
“冷血漢”な検事殿は、実際、仕事熱心なあまり人遣いがとにかく荒い。
今日だってそうだ。
水をいれた鍋を外に置いておけば、そうめんが茹であがりそうな日に、あるかないかもわからない証拠品を捜すよう命令を下してきた。
誇張ではなくとにかく今日は暑い。
天気予報でやれ外出を控えた方がいいだの、長時間の外での作業は水分補給をしっかりしながら行わないと命に関わりますだの、言っていた気がする。
暑いというよりもはや日差しが熱い。そろそろ体の水分も在庫がきれそうだった。
「イトノコギリ刑事」
呼ばれれば反射的に駆け寄る。犬のようだとからかわれるが、まだ本物の犬の方がいい暮らしをしているのでは、と考えてしまう。
木陰にあるベンチに座る上司が最高紙幣を差し出してくる。
「すまないが、これで何か飲むものを買ってきてくれないか、釣りは好きに使っていい、手間賃だ」
「いやいや、多すぎッス。それに自販機に入るのは1000円札までッスよ」
近くに見える自販機を指差すと眉間のヒビが深くなる。
「近くのコンビニにでも行けばいいだろう。もしもて余すようなら、他の捜査官へ差し入れでもすればいい」
「御剣検事が自分で差し入れすればいいッス」
別にこの人もただの鬼ではないのだ。少しだけ優しさを態度に出せばいい。
「立ち上がろうとしても足に力が入らない」
「え、大丈夫ッスか?」
そういえば、いつものひらひらを外して、今は首もとをあけている。
「ここでしばらく休む」
「了解ッス」
自販機が使える小銭すら持っていない自分が情けない。紙幣を握りしめて、駆け出す。
上司も上司で、自分では自販機で飲み物一つ買えなかったのだろうか。
我々は、案外似た者同士なのかもしれない。犬は飼い主に似るというし。
検事殿には否定されそうだが。眉間のシワが目に浮かぶ。
否定されたところで、この思い付きには確信がある。
少し抜けていて不器用なりに、事件解決に熱い思いを持っている。
ほら、同じだ。
自分達と同じ思いだ。
はやく現場に戻らなくては。
カラカラでクタクタの体に力が戻る。
あつい日