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    a_mary_llis__

    シノノメ┊︎ゆめかき

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    ※カラマリ笹塚尊ゆめ
    ※ネームレスヒロイン(≠市香ちゃん)
    ※やまもおちもいみもない

    かぜっぴきとたける カップ麺のうどん、レトルトの梅粥、プリンにぶどうゼリー。ベッドサイドのローテーブルの上には、俺が仕事帰りに買い込んだ病人用の食糧がところ狭しと並べられている。多忙な彼氏サマがわざわざ仕事を切り上げて看病をしに来てやったと言うのに、ベッドの上で微動だにしない羽毛布団の塊――もとい「俺の彼女サマ」を俺はきっと睨みつけた。
    「おい、とりあえず何か食って薬飲め」
     自分でも驚くくらい拗ねた子供のような声が、彼女の住むワンルームの室内に響いた。声に呼応するようにまっしろな羽毛布団の塊がもぞもぞと蠢く。そのまま黙って見守っていると、熱で顔を真っ赤にした彼女サマがその潤んだ目元だけを布団から覗かせた。弱りきった姿はまるで巣のなかから外を伺う小鳥のようだ。彼女の視線は食糧の山の稜線をゆっくりとなぞり、そして力尽きたように俺の鼻の上にぽとりと落ちた。
    「……ありがと……でも、むり……たける、代わりに食べて」
    「バカかお前」
     代わりに食べたら意味ないだろうが、そんな思いを込めて容赦なく布団を掴んで引き剥がすと「あああ」などという情けない声が下から聞こえてくる。元々はこいつの身体を起こして何か食わせてやろうと思っての行動だった。しかし剥いだ羽毛布団の下、こちらに両腕を伸ばしてくる彼女が視界に入るとその考えも次第に霧散していく。一生懸命に「俺」に腕を伸ばすこいつを見ていると、妙に気分が良くなってきてしまった。布団を返してほしいだけなんだろうな、という邪魔な思考は頭の隅に追いやって彼女の隣にもぐりこむことにする。
    「なんではいってくるのお……」
    「抱き枕になってやろうかと思って」
    「……それは、ありがたいことで……?」
     羽毛布団を被って普段よりもずっと熱い彼女の頭部をそっと胸元に抱えこむ。頭上に疑問符を浮かべてはいるものの、彼女は抵抗することなく胸元におさまった。細くて指どおりのいい髪に鼻先を埋める。肺を満たしていく彼女の香りが、張りつめていた俺の神経を少しずつゆるめていく気がした。
    「たける」
    「なに」
    「あとでうどんつくって」
    「甘えんな」
     そうぴしゃりと言い放ちながらあやすように彼女の背を撫でた。胸元に額がぐりぐりと押し付けられる感覚がして、それからくぐもった不満そうなうめき声が聞こえてくる。ほぼ子犬だな、そんなことを思いながら俺は鼻を鳴らすと、くしゃくしゃになった彼女の額の髪を指先でやさしく払った。
    「起きたらな」
     髪の隙間から現れたほのかに赤い肌に唇を落とす。ちゅ、と軽いリップ音が羽毛布団のなかで響いた。唇に触れた彼女の額はやっぱりひどく熱くて、これはもう何日か療養が必要だなと意識の端で思う。額にくちづけられた彼女は、ぱち、と一度だけ瞳を瞬かせて、それからとろりと砂糖が溶けるような笑顔を見せた。
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