「三日後だ。金曜日、お前にキスをするぞ」
「……は?」
「言ったからな。嫌なら断れよ」
じゃあな、と主――月城慧は颯爽と立ち去った。
三日後、金曜日。なにをするとあの方は言った? 抱えていたはずの書類がばさばさと床に落ちたが、拾い集めようと体が動かなかった。
金曜日、キスをするぞ。
「……は?」
もう一度反駁してみても、口から出てくる音が変わるわけではなかった。
月城慧は余計なことは言わない質だ。迅速果断を地で行く気性で、それは彼の有能の証だけれど言葉の足りないことで摩擦が生じる場合も多くある。それをフォローするのも自分の仕事、なのだが。
昨日の主の言葉には、物理的な過不足はひとつもない。日付、行動、条件……嫌なら、断ること。あとはこちらの判断次第、ということだ。判断のための情報で、足りないのはたったひとつ。何故、彼がそれをしたいのか、だ。
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