真夏の雪時雨〜蒼空〜 ボツ案③「カイト、話ってなに?」
仕事を終え、ちょうどキャラバンに戻ってきたところで、アデルが部屋を訪れた。武器や諸々の道具をそこら中に置いたばかりで、座る場所がないとわかると、彼女はベッドに登ってちょこんと正座をする。……本人は無自覚なのだろうが、その場所にその座り方は、少々思うところがある。
「いや、そんな改まるようなことでもねぇんだが……こいつを渡しておこうと思ってな」
上着のポケットから革のキーケースを取り出すと、手渡した。
「え……これ、私に……?」
「ああ、中にはこの部屋の鍵が入ってる」
「合鍵……ってこと?」
「そうだ。遊びに来てもいいし、何かあれば相談に来ても……その、寂しかったら……」
「ふふ、わかった。カイトが寂しそうな時は遊びに来てあげる」
「なんでそうなるんだよ!?」
くすくすと笑うアデル。こいつ……わかって言ってやがるな?
「それよりこのケース、白ベースに赤と黒のアクセントが入ってる。私の格好と同じ色よね。もしかして手作り?」
「ああ、昨日狩ってきた牛の革で作った」
「すごい! カイト、こんなこともできるんだ」
「狩りの教訓ってやつだ。無駄なところはねえ、全部使えってな。だから自然にそういうのを作るようになったのさ」
「でも、昨日って……せっかくの休みなのに、これを作るのに一日費やしてたの?」
「そんなにかかってねえよ。それに俺がやりたかっただけだ、気にすんな」
「…………」
アデルはそれを小さな手で包み込むと、穏やかに微笑む。
「ありがとね、大事にする」
「……おう」
いつもそのくらい素直にしてりゃあ可愛げがあるのに、と言いかけたが、こちらも照れてしまってタイミングを失った。