「「真ん中生誕祭?」」
物の見事に声を重ねたこのふたり。片や、私の元相棒、中原中也。片や、旧友であり元上司だった太宰治。顔を合わせば揉め事が耐えないふたりが何故、今、私の目の前で揃いも揃って疑問符を浮かべているのか。
「そう。なんでも二人の誕生日の丁度間を御祝いする日だそうよ」
真ん中生誕祭。つい最近、仕事帰りに女学生達が話している会話を偶々耳にし、識った言葉。
「……多分、其れは一般的に使われる言葉では無いと思うのだけど……」
何故か苦笑を浮かべる治と
「祝いの席で此奴と仲良く肩を並べるってのは願い下げだ」
咋に嫌悪感丸出しな中也。
嗚呼、嫌な予感がする。
「其れは此方の台詞だ。態々、君と肩を並べなくても、私、毎日和葉の手料理食べれるし」
「いい加減和葉を手前の部屋に拘束するの止めろよ、太宰」
「拘束?何を云い出すかと思えば……私は和葉を”護衛”しているに過ぎない。社長や社の皆も彼女の事は私に一任してくれているからね」
「其の必要はねえ。首領から和葉の処分については取り下げるように云われてる」
「如何だか。森さんの事だから、また何時和葉に危害を加えるか解らない。だから私は身を呈して彼女を護っているのだよ。とゆう訳だから金輪際、和葉に近寄らないでくれるかい?中也は特に」
「さらっと手前の私情織り交ぜた発言してんじゃねえ!!」
嗚呼、矢っ張りこうなったか……この2人は顔を合わすと如何してこうも喧嘩が絶えないのだろうか……はあ……。
「はいはい。2人ともそこまで。折角の料理が冷めちゃうでしょ。喧嘩するなら食べてからにして」
「だって中也が!!」
「先に喧嘩売ってきたのは此奴だ!」
「私からすれば何方も悪い。喧嘩優先で食べないのなら此のまま、子供達に振る舞うけど」
治と中也は私の言葉に火花を散らした後、互いにそっぽを向いて静かに目の前に置かれた料理へと手を付け始めた。その光景が何時に無く愛おしくて、自然と笑いがこみあげてきた。
「……ふふっ」
「何笑ってんだよ和葉」
「中也が子供みたいで呆れたんじゃない?」
「太宰……手前ェ……っ」
生家が豪炎に包まれ父を喪ったあの日、私を救い導いてくれた治。
作之助を喪い生きる意味を見い出せなくなったあの日から私を支え続けてくれた中也。初めは避けていたこのふたりの事が、真逆、作之助と同様に大切な存在になるとは。
縁とは異なもの。とはよく言ったものね。
「ねえ、治、中也」
「如何したんだい、和葉?」
「何だよ、改まって」
きょとんとした眼差しで私を見つめる治と中也。相変わらず息ぴったりな元双黒(あいぼう)達に、くすりと笑みを浮かべてから、私は云った。
「有難う、私と出逢ってくれて」
──────大切なふたりに思いを込めて。