説秘話組とのほのぼの話設秘話組と。
元ポートマフィアの大庭和葉。
之は彼女が探偵社に正式入社するより前。
とある3日間の内の1日の噺──────
「ただいまー!」
「乱歩。靴は揃えろと何時も云っているだろう」
「あ、そうだった。よいしょ。これでいい?社長」
「嗚呼」
福沢の返答を聞くや否や居間へと駆け出していく乱歩。和葉はその他愛の無い光景を見るともなく見ていたのだが「如何した?お前も入れ」
福沢に促され、室内へと足を踏み入れた。
無論、履いていた靴を綺麗に脇に揃えてから。
「...み、3日間お世話になりまーす...」
控えめにそう云いながら
乱歩の駆けて行った方向へと歩を進める。
「緊張してるの?」
「え、あ、はい...」
「慥かに元マフィアの人間なら僕達にとっては敵だけど君は別だから」
乱歩の言葉に和葉の顔に戸惑いの表情が浮かんだ。
元はと云えば何故こうなったのか。
そう云いたげに。
「太宰と国木田は今日から出張。その間、君を一人で太宰の自宅に残すわけにも行かないし、かといって正式加入して居ない”預かり”の状態の君を野放しにするわけにも行かないからね」
その和葉の胸中を知ってか知らずか
すかさずそう告げる乱歩。
更に得意げに言葉を続ける。
「だから太宰が帰宅するまでの間、社長と僕の家に君を隔離する事になったんだ!」
「か、隔離...」
乱歩の棘のある物言い。と、云っても本人には全く悪気は無いのだが。青筋を浮かべる和葉の横で福沢は深く息をついたが
「安心していいよ!僕達は君に危害を加える心算は無い。理由はどうあれ、そんな事をしたら太宰が黙っちゃ居ないだろうからね。なんて云ったって太宰は大庭さんが「乱歩」
突如、饒舌に言葉を紡いでいた乱歩を静止した。其の行動に乱歩は一瞬だけ頭上に疑問符を浮かべたが、本当に一瞬の出来事だった。瞬時に福沢の言わんとしている事を察し、言葉を切った。
「治が...なんですか?」
「兎に角、自由に寛いでくれていいよ。あ、でも、僕のお菓子には手を出さないでね!!」
「え?あ、あの!一寸!乱歩さん!」
乱歩の歯切れの悪い言葉に今度は和葉が疑問符を浮かべる番だったが、乱歩は返答する事無く、大量の菓子を両手に抱え自室へと姿を消した。
「...」
取り残され呆けた様子で乱歩の消えた襖を眺めている和葉に「乱歩に悪気は無い」と福沢が声を掛け、湯呑みを手渡す。
「あ、有難う...ございます...」
湯呑みを受け取る和葉の横に
静かに腰を降ろした福沢。
正座の姿勢で着座し、云う。
「貴殿の事は概ね太宰から聴いている。物言いはアレだが乱歩の云う通りだ。危害を加える心算は無い。楽に崩しなさい」
其の言葉に和葉はおずおずと足を崩し、其れから手渡された茶を口に含んだ。
「お、美味しい...!」
緊張で強ばった身体に染み渡る茶。
その安心感に思わず大きな声をはりあげたが、浅はかな行動をとってしまったと直ぐに後悔の念を顔に出す。
「茶菓子に合うよう濃いめの茶を出したのだが、口に合ったのなら何よりだ」
然し、そんな和葉の様子を気にすること無く福沢は皿に乗った茶菓子を口に含んだ。
福沢を横目で見る和葉。
彼女の視線を気にすること無く茶菓子を咀嚼し、茶を飲む福沢。
二人の間を沈黙だけが流れていく。
「...あ、あの」
耐え切れなくなった和葉が不意に口を開いた。
「一つ、お聞きしていいですか?」
「構わない」
「...その、乱歩さんと...福沢さんは...ご親戚か何か何でしょうか?」
和葉の言葉に黙る福沢。
途端に和葉の顔から表情が消えた。
自分は何か拙い事を云ってしまったのでは無いか。そんな疑念が和葉の脳裏を支配し始めた頃
「私と乱歩は赤の他人だ」
福沢が乱歩の消えた襖の奥を見ながら口を開く。
「え?」
「乱歩は両親を早くに喪い横浜へと職を探しに訪れ、私と出逢った。其れから紆余曲折を経て、今に至る」
「早くに...両親を...」
和葉は思った。
幼くして両親を喪い赤の他人に拾われた。完全に一致しているわけでは無いが、自分と乱歩の境遇は似ているのかもしれない。
その瞬間、彼女の中に有った小さな警戒心が大きな好奇心へと変わる。
「福沢さん」
「何だ」
「...その...私、乱歩さんと...仲良くなれますか?」
和葉の言葉に福沢は僅かばかり目を見開いた。が、和葉は其れに気付く事無く、しどろもどろになりながら云った。
「乱歩さんと、仲良くなりたいなって」
「...そうか」
不意に福沢が立ち上がり
和葉から数歩離れた戸棚の引き戸を開け、中から”何か”を取り出してから再び和葉の隣に着座する。
「...?」
福沢の手にした物──────
其れは駄菓子の詰め合わせだった。
「乱歩の好物ばかりを揃えた物だ」
「有難うございます!」
和葉は駄菓子の詰め合わせを受け取ると
ぱぁっと表情を輝かせ、乱歩の消えた襖へと駆け出し「乱歩さん!一緒に...駄菓子を食べませんか?」溌剌とした声色で開かずの襖へと話しかけると
「...いいよ」
短い返答と共に小さく襖が開かれた。
その光景を見ていた福沢は
安堵の息をつき少しだけ冷めてしまった──────茶柱の立った茶を啜った。
「ただいま和葉ぁ!私が居なくて寂しかったか「聴いて治!私、乱歩さんと2人で横浜観光したんだけどね、見知った街なのに新鮮な気持ちで観光できて楽しかったの!」.....」
「如何したの?」
「(思ってた反応と違う)...何でもない」