ストブリの例のシーンの͛.*🍃sideストブリ終幕の裏で起きてた話
「失礼します」
森の元を訪れたの意外な人物。
其れはポートマフィアに属しながらも、首領である森を忌み嫌い、訪れる際は必ず相棒と共に参るほどに彼を敵対している人物、和葉。
「珍しいねえ、君が一人で私の元を訪れるだなんて」
「……尋ねたい事がありましたので」
にこやかな笑みを浮かべる森に対し、和葉というと、森から目線を逸らし自分を守るように胸の前で腕を組んでいる。
「私に答えられる事なら」
「では単刀直入に申し上げます。何故、”中原中也の過去”を私に見せたのですか?」
和葉の言葉に予想通りの質問だと森は思った。自分を忌み嫌っている彼女のその思いを上回るとしたら、それは相棒である中也に関する事以外は思い当たらないと、今日にでも彼女は自分の元を訪れると容易に推測していた。それでも、森はしらを切る。和葉の出方を見る為に。
「君が勝手に書類を閲覧したに過ぎないのだよ。言いがかりはよし給え」
「いいえ。貴方はその様な無駄な事をなさるような方では有りません。」
森がしらを切るも一向に引き下がらず、それどころか真に迫る和葉に森はそっと目を伏せ「やれやれ…気の強さも母親似というわけだね」脳裏に過ぎる古き友のと姿と重ね、小さくごちた。
「答えてください」
「ならば先ずは君があの書類を見て何を感じたかを率直に聴かせてくれないかね?」
「何年も、何年も、自分は人間ではないのだと。そう思い続けている彼の──中也の心情を思うと苦しくなりました。だからこそ、私は───「中也くんを支えたい。そう思ったんじゃないかね?」!」
自分の言葉を遮る森の言葉に和葉は目を見開き、続く森の言葉に耳をかす。
「7年前、中也くんの身に起きた事。其れを彼は自分から語ろうとする事は決して無かった。どんなに近しい相手にもだ。恐らくは自身の背負う過酷な運命を誰にも語らずこれからも一人、背負い続けて行くだろう。だからこそ、私は君にだけ開示する事にしたのだよ。中也くんが”相棒”と認めている、君にだけね」
森がそう言い終えると同時に机上に置かれた携帯が振動し、何者かからの着信が入った。和葉の前で電話を取ることを躊躇う様子を見せる森に「……どうぞ」一言だけ和葉が応じるのを確認すると森は電話をとった。
「───本当に会って行かなくていいのかい?せっかく見つけ出したのだよ、幹部就任の祝いに」
森の言葉に電話先の相手を察した和葉は、ここではじめて森の方へと目線を向ける。黒橡色の瞳を揺らし心配するような眼差しで通話が終わるのを待ち、軈て森が通話を終え携帯を閉じると同時に口を開いた。
「中也ですか?」
「頼んでいた極秘任務を終え間も無く横浜に戻ってくるとの報告だったよ」
「……極秘?私は休暇だと聴いていましたが」
「今回の任務には君を連れて行けない。そう云えば責任感の強い君は”戦力外通知を受けた”と気に病むだろうと考えた中也くんなりの気遣いなのだろうねえ」
森の言葉に和葉が口を結んだ刹那、今度は和葉の携帯が鳴った。
「もしもし?」
『あー俺だ。今、いいか?』
着信相手も同じく中也からだ。
森は其れを察したのか右手をヒラヒラとさせ、和葉に会話を続けるように促す。
「うん、大丈夫」
『今日は休暇だって云ったのありゃ嘘だ。ちとばかし急な任務を首領に頼まれて今の今まで出掛けてた』
「……態々、それを伝える為に?」
『あーいやー、その……』
歯切れの悪い中也。それでも和葉は静かに待った。中也が何を伝えたいのかを。
『……飯、喰いに行かねえか?』
「え?」
「和葉に、話しときてえ事がある」
中也の言葉に和葉の中である仮定が生まれた。先刻、森が云っていた「会っていかなくていいのか」という言葉。森が中也にだけ申し渡したという極秘任務。そして、自分からは決して大事な話をしようとしない彼が、”話しておきたいことがある”と云ったその内容は──────彼(ちゅうや)の過去に関すること。
「解った。待ってるから気を付けて帰ってきて」
『嗚呼。じゃ、切るぞ』
自分の云いたい言葉だけを残し切断する中也。本来なら自分勝手だと腹を立てても何ら可笑しくないこの状況下で和葉は笑みを浮かべていた。
「中也くんと出かけるのかね?」
「……ええ。私に話したいことがあるそうなので」
「極秘任務を終えた今、今日という日は休暇と変わりない。存分に疲れを癒すようにと、彼に伝言を頼めるかい?」
「……承りました」
森に背を向け執務室を後にしようとした和葉は、不意に足を止め背を向けた儘「私は……貴方を赦せません。私から大切な人を2人も奪った貴方を。でも───中也を大切に思ってくれている事は、伝わりました」そう告げると、静かに執務室を後にする。
一人取り残された森は予想もしなかった和葉の言葉に小さく苦笑を浮かべ「父親に似て、素直じゃないねえ」何処か懐かしむ様に独りごちた。