戦いが終わり、それぞれの研究に没頭する日々。トンコツ山で過ごす日々は静かで美しく、まさに2人だけの箱庭だった。
今日の料理当番は氷虎で、また今日もラーメンか、と思っていたが……
「今日は違うぞ」
と、テーブルの上に出されたのは、綺麗なオムライス。
「わぁ!すごい!」
思わず声を上げると、得意げな顔をする氷虎。
「さあ、食べてみろ」
「いただきます……」
スプーンですくうとふわりとした卵に包まれたチキンライスが現れる。口に運ぶと優しい味が広がり、思わず笑顔になる。
「おいしい〜!!︎」
「そうだろう?我ながらいい出来だ」
満足気に言う氷虎を見て、やっぱり美味しい、でも何で急にこんなものを作ってくれたんだろうと疑問に思う。
「なあ、どうして急にオムライスなんて作ったんだ?」
すると、少し恥ずかしそうな顔をしながら、
「お前が好きだからだよ」
と言った。その言葉を聞いて、頬が熱くなる。答えになっていない急な話だが、きっと俺の顔は真っ赤になっていることだろう。
「ありがとう……」
「いや、礼を言う必要はない。好きでやってるからな」
相変わらず素直じゃない奴だなと思いながらも、嬉しい気持ちが勝りニヤけてしまう。
そんなことを話しながら、俺は幸せを噛み締めていた。
しかし、幸せな時間はあっという間に過ぎていくもので、気がつけば総本山復興からもうすぐ1年が経とうとしていた。
周りは皆それぞれのパートナーと各地で幸せになったと聞く、俺たちはどうなんだろうか。ずっとこのままなら良いのに……。
そんなある日のことだった。いつものように氷虎の部屋に行くと、氷虎は何かの本を読んでいた。
「おーい、来たぞ〜」
「ん?ああ、来たか。ちょっと待っててくれ」
本を閉じてベッドに置くと、机の上にあった小さな機械を手に取る。
「それはなんだ?」
「これは俺が開発した新しい通信機だ。試作品だからまだあまり遠くまで届かないが、これを使えば遠く離れた人とも会話ができる」
「へぇ、便利な物があるんだな。それで誰と話すんだ?」「もちろんお前だ」
予想外の返事に驚く。確かに氷虎とは毎日一緒にいるし、お互い暇があれば連絡を取り合っているが、わざわざ専用の通信機を用意されるとは思わなかった。
「えっ、俺!?︎」
「そうだ。この前の戦いでお前大怪我を負っただろ?もちろん回復はしたが、今後俺が居ないところでそんなことがあったらと思うとゾッとしてな。スマホのようなものとは別に持っていてもらいたいんだ」
「そっか……心配かけてごめん、ありがとう」
「別に謝ることではない。それに、俺だってお前と一緒にいたいしな」
一緒にいたい、だなんてもはや当たり前なことでも改まって言われるとやはり照れくさいもので。「……なんか、恥ずかしいな」
「そうか?まあとにかくそういうことだから、早速使わせてもらうぞ」
氷虎は電源を入れると、画面上に自分の姿が映った。
『おお!本当に繋がった!』
『当たり前だろ俺が作ったんだから』
「よしこれでいつでも一緒だ、よろしくなオツキン。あと…」
あと?その続きを期待してしまう自分がいて、心臓の鼓動が早くなる。
「……なんでもない」
「えっ、何だよ気になるじゃん!」
「うるさい、何でもないと言っているだろう!」
何だよ、言いかけたことは最後まで言ってくれよ……。
「オツキン」
もうないかとむしろ安心していたが突然後ろから抱きつかれ、思わずドキッとする。
「ひゃっ……ど、どうしたんだよいきなり……」
「…………愛してる」
耳元で囁かれたその一言に身体中の血液が沸騰しそうになる。
「おまっ、それ反則だろ!!︎」
思わず叫ぶと、クツクツ笑いながら離れていく。
「ふふ、驚いたか?」
「そりゃあ、驚くだろ……」
「じゃあそのお返しだ」
今度は正面から抱きしめられ、優しく頭を撫でられる。
「ふふ、可愛いな」
「な、なんでそんなに余裕そうなんだよ……」
「さあ、何故だろうな?」
悔しくて氷虎の首に腕を回し、キスをする。氷虎は一瞬目を丸くした後、嬉しそうに微笑む。そしてどちらからともなく舌を入れ、深い口づけを交わした。
しばらくすると、息苦しくなったのか口を離す。
「……もう終わりか?」
「ああ、これ以上したら止まらなくなる」
確かに、と笑っていると再び唇を奪われる。
「……なあ氷虎、これからもずっと一緒にいような」
「何を言っているんだ、当然だろ?」
そう言って笑うともう一度キスをした。