苦くもない「はい、これ」
帰り道が分かれるタイミングで、総士は幼馴染から小さな紙袋を差し出された。
「なんだ?」
「なんだよ、去年寄越せって言ったくせに」
去年。ああ、そうか。
「やっとくれるんだな」
「ごめんな」
「……いいんだ」
一騎はもう気持ちを抑えなくなった。先々月の総士の誕生日がきっかけだったのだが、それでようやく今日、これまで一騎が総士に向けることができなかったものがまたひとつ陽を浴びた。
総士は一騎のためだけの表情を浮かべていた。そうするたびに一騎は総士へもうひとつ何かを贈りたくなるのだった。
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