Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    dnfr_y

    @dnfr_y

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 8

    dnfr_y

    ☆quiet follow

    九龍9話を経たある2人のはなし

    階段を駆け上がる。脚がもつれて転びそうになったので手すりを掴んで踏みとどまる。急がなければ。
    彼が僕を待っている。僕の恩人で、僕の大切な友人である彼の元へ
    早く


    「鎌治!大丈夫!?」
    勢いよく屋上の扉を開けて飛び込んできた僕を見て九龍君が慌てた様子で駆け寄ってきた。
    問題ないと答えたかったけれど、息が切れて上手く話せなかった僕の背中を九龍君が優しく撫でてくれた。
    「ごめんね鎌治。急にメールで呼び出して。」
    九龍君が申し訳なさそうな顔をしてそう言ったので、今度こそ僕は問題ないと答えた。
    「君が呼んだ時にはすぐに駆けつけると約束したからね。」
    僕が笑ってそう言うと九龍君もつられたように笑い、ありがとうと小さく呟いた。

    息が整った僕を見て安堵した様子の九龍君は僕の背中から手を離して立ち上がり、普段と同じような明るい笑顔を僕に見せた。
    「それにしても鎌治がこんなに全速力で来てくれるとは思わなかったから驚いたな。」
    「一刻も早く駆けつけたかったんだ。君が僕をこうやって呼び出してくれたのは初めてだったから。」

    九龍君から来た初めてのメール。
    普段僕がメールをするとその返事を直接僕の所まで言いに来てくれたり、電話をしてくれたりする九龍君は今まで僕にメールを送ってきたことが無かった。
    その理由を九龍君に尋ねると、メールだと届いたことに気付くまで時間がかかっちゃうし、すぐに話したい時だと困っちゃうじゃん。と笑って答えていた彼が送ってきたメールには、「相談したいことがあるんだ。」とだけ書かれていた。
    そのメールが送られてきたのは僕がお弁当の風呂敷を開けた頃だった。僕はすぐに九龍君へ電話をかけて居場所を尋ね、お弁当もそのままにして急いで彼がいる場所へ向かった。
    九龍君がメールを送ってきた理由は、きっと彼が抱えている悩みについて話すことを迷っているからだろう。もしかすると、昼休みが終わるまで僕がメールに気付かないことを望んでいたのかもしれない。
    メールが来た時点でそのことが頭によぎったけれど僕は放っておくことなんて出来なかった。
    もしも 彼が僕の助けを求めているのなら

    僕は真っ直ぐ九龍君を見つめた。
    「九龍君。僕で良かったら話してくれないかい。
    どんな些細なことでもいいから 君の助けになりたいんだ。」

    僕がそう言ってから九龍君は何も言わなかったけれど、僕は彼の目から視線を外さず静かに見つめ続けた。

    「鎌治、ありがとう。」
    しばらくして九龍君が口を開いた。

    「相談してもいいかな、俺の、やるべきことについて。」
    もちろんだよ。と僕は自らの手を強く握りしめている彼に近付きながら答えた。

    昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったけれど、教室に戻る気は全く起こらなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works