沈没船にはなり得ない龍水が宇宙船のパイロットを託した。スタンリー・スナイダーという男性に。
パイロットの適任者だと自他共に認めていたにも関わらず龍水がこの決断に至ったのならば、その理由は聞かなくても分かる。彼は龍水より優れた技術があり、この石の世界において、パイロットとして一番信頼のおける人物なのだろう。
その話を再び本人から聞いたのは、その日二人で行っていたチェスが三度目の終わりを迎えた時だった。
最近の龍水はチェスAIと勝負することを楽しんでおり、僕と二人でチェスをするのは久しぶりだったのであと二、三局はやりたがるだろうと思っていたけれど、龍水はチェスボードから駒を一つずつ取って片付け始めた。
これまで龍水と何度もチェスを行ってきたけれど、木製の駒にはほとんど傷みがない。龍水は昔から自由奔放な振る舞いをするものの、どんな物でも等しく丁寧に扱う。そういえば龍水が何か壊したところを見たことがないなと、この時初めて気が付いた。
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