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    【和】

    おおよそ夢を描く

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    【和】

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    現パロ
    夢主視点と尾形視点
    ネームレス

    365日俺のことを同居人である尾形の誕生日を祝うことになった。というか祝ってみせろと言われてしまったので祝わざるを得ない。長年転がり込んでいた親戚のおじさんの家を出る時、住む場所を提供してくれた恩もある。さてどうするか顎に手を当てぐるぐると部屋の中を回った。そもそも人の誕生日を全力で祝ったことがない。勿論プレゼントを渡したことはある。渡したら大体笑われるのでプレゼントセンスは皆無だ。でもおじさんは酒を渡せば喜んでたからその点とても楽だった。パーティのようなものをすればいいのかな。ケーキを用意するにも、呼ぶ人の選出をしなければ号数を決められない。杉元、白石、アシリパさん、鶴見さんを呼ぶなら宇佐美や鯉登、月島さんも呼ばなきゃならないしヴァシリ(露語知らない)とか、うちの会社の土方さん達も呼んだらキリがないな。花沢さんも呼んだ方がいいのだろうか。尾形のおかげで随分と知り合いが増えた。こうなってくるといつものトリオに花沢さんと恐らく呼んだら来てくれる菊田さんでいいだろう。予定が埋まっているかもしれないから来れるかどうか、メッセージを該当者に送信!

    当日の料理は惣菜を色々買ってきて盛り付けることにした。マリネとローストビーフは作り置き。ちょっとお高めの冷凍ピザをオーブントースターで焼こう。飲み物はジュースでいいかな。飲みすぎてドンチャン騒ぎになるといけない。ケーキは7号もしくはLサイズもあればよいはず。体格のいいパティシエがいるケーキ屋さんに注文しなければ。尾形は何のケーキがいいかな。あとで本人に聞くか。主役が食べたいケーキが1番。

    部屋の装飾もしなければ。100均でも最近はちゃんとしたのが売っている。ハッピーバースデーと書かれた文字は勿論、昔懐かし輪っか飾りを作るキットまで売ってるなんて、痒いところに手が届く。でも今回はガーランド。ヘリウムガスと風船も必要。用意するものがいっぱいだ。

    当日尾形には指定した時間に家に帰ってきて貰わねばならない。用意してる様を見るのも見られるのも気まずい。玄関には本日の主役タスキでも置いておこうか。果たして尾形は着けるかな。そうだ招待状を書こう。

    "尾形百之助様 来たる1月22日、誕生日会へお招きします"

    書き出しはこんな感じ。喜んでくれるだろうか。まぁまぁだなとかボソっと言う程度かもしれないけれど、やれるだけやろう。

    招待客からの返信は全員参加可能。予約するものはした。尾形に作った招待状を渡したら、まさかの真顔に無言。もうちょっと顔に出したらよかろうに。招待状を開きもせずそのまま自室に戻っていった。こういう感じじゃなかったかな。でももう後には引けない。

    ああ、大事なプレゼントのことを忘れていた。どうしよう。この世で1番プレゼントセンスがない人間と言われてもおかしくはない。それくらいの自負がある。使って無くなるものがいい。それか食べて無くなるもの。お歳暮のあまりで値引きされてたハムセットもいい感じだったけど、ドン引きされるのは間違いないからやめておこう。尾形、仕事で疲れてるから疲れが取れるものにしようか。尾形はなにかと無理しがちだし。

    誕生日前日。ローストビーフとマリネを仕込む。買うより作った方がたくさん食べられる。オージービーフだけど牛肉は高いから仕方ない。市販の素を使えばお手軽に作れるのがいいところ。常温で30分置いた耀く肉塊に満遍なく美味しい粉を塗りつけて暫く放置、油を引いたフライパンで満遍なく焼き目をつけたら、蓋をする。火を弱め両面5分ずつ加熱、その後アルミホイルに包んで30分ほど余熱で放置。冷蔵庫に入れておけば美味しいローストビーフの出来上がり。薄く切って付属のソースをかける作業は当日。
    次はマリネ。奮発したタコはちょうどよい大きさに切ってエビはボイル。細く切ったピーマンパプリカ玉ねぎを準備。玉ねぎは1番下、ピーマンパプリカ、エビとタコは上に。そうしたらイタリアンドレッシングを惜しみなく投入。気分は某筋肉の人。なるべく空気を抜いてジップロックの封をして一日漬けておけばお手軽マリネの出来上がり。

    尾形はじぃっと作ってる様を隣で何も言わず見ていた。残念ながらつまみ食いの工程はないのだけど。冷蔵庫に入れるのを見届けたら、フンと鼻を鳴らして自室へと戻っていった。楽しみにしているのかな。

    誕生日当日、けたたましい目覚ましを止めて起きると尾形は既に出かけていた。お早いことで。もっともそうして貰えてこちらも動きやすいからいい。惣菜の買い出しとケーキを取りに行くまでに部屋の飾り付けをしよう。リビングの壁にハッピーバースデーと書かれた紐で繋がれた飾りを貼り付けてから、三角旗のカラフルなガーランドと連なった星を高めに飾る。ヘリウムガスを使って風船に空気を入れて浮かす。あんまり数が作れないけど仕方ない。普通に膨らましたのはマスキングテープで壁に貼り付けておいた。

    そうこうしているうちに家を出る時間だ。ケーキは前払いして置いたから受け取り票があればOK。まずはスーパーで惣菜を調達。フライドチキンだ枝豆だ、生ハム、チーズに、エビフライ。ちょっとお高め冷凍ピザも買ったらケーキ屋さんへ。

    「いらっしゃいませ」

    ケーキ屋さんに入店すると、今日も今日とてムキムキとしたパティシエさんに迎え入れられた。生クリーム立てたりカスタードクリーム炊くのに鍛えられたのだろうかと勝手に想像している。「予約していたケーキを取りに来ました」と受け取り票を差し出せば、ショーケースに入れられた箱を彼は取り出し、プレートに書かれた名前が間違ってないか確認を促される。"誕生日おめでとう 百之助くん"としっかり書いてあったので合っていることを伝えた。保冷剤を入れた後、袋に入れながら新作のクッキーもつけておきますねと言われてありがたく頂戴した。またのお越しをお待ちしておりますという声とともに店を出て家へと戻る。

    帰宅すれば差し迫るタイムリミット。事前に買って置いた紙皿やプラカップもあるし、ジュースは冷やしてある。惣菜を温めたら並べて、マリネやローストビーフの準備もした。ローストビーフはいかに薄く切るかが重要。あとはピザを焼けばいいだろう。インターホンの音がして玄関に向かえば、招待客達が揃っていた。もしかして時間合わせていたのかな。

    「呼んでくれてありがとう」
    「こちらこそ来てくれてありがとう」

    アシリパさんがそう言って、みんながお邪魔しまーすと部屋へと上がった。

    「おー、ちゃんと飾り付けしてあるんだな」
    「これは兄様も喜びますよ」

    菊田さんと花沢さんがそう言ってまじまじと見ていた。ほぼ庶民の味方100均で揃えましたとは言わないでおく。

    「おおっご馳走じゃん美味そ〜!」
    「今日の主役は尾形だぞ白石」
    「そうだぞ」
    「わかってるって!」

    いつもの3人は仲良くワイワイやっている。あとは尾形の到着を待つだけ。アシリパさん達にクラッカー渡しておかねば。

    「尾形が部屋に入ってきたら鳴らせばいいんだな!」
    「うん、そう。尾形のことだから時間ピッタに帰ってくるはず」

    予定時刻ピッタリにガチャガチャという鍵を開ける音がして、尾形が帰ってきた。だがしかし、なかなかこちらに来ない。多分本日の主役タスキを着けるか否かを考えているのだろう。ペタペタとスリッパの音が近づき、リビングのドアは開かれた。


    ✳︎


    「尾形は誕生日何食べたい?」

    正月も終わり通常通りの生活が始まった頃、なにが面白いのか垂れ流されているテレビを見ながら同居人はそう俺に聞いてきた。そういえば俺の誕生日はそろそろか。何処か食べに行こうかなどと提案された。それでもいいと思ったが、コイツと一緒に住み始めて初めての誕生日だ。普通じゃつまらない。

    「俺のこと祝ってみせろ」
    「え、フラッシュモブ?」
    「お前ダンスなんざ踊れないだろ」
    「無理、恥ずかしい、穴に埋まる」

    短絡的思考。俺もコイツもあの手のは1番嫌煙するだろうに。テレビで見て腕に鳥肌作っていたのは誰だ。頭を抱えてうんうんと唸り始めた。もうテレビのことなんて視界にもない。俺のことで頭が埋め尽くされているのを見るのは楽しい。

    翌々日、晩飯を食べてる最中にケーキは何がいいか質問してきた。ケーキか。何がいいかと聞かれると思いつかない。誕生日のケーキと言えば真っ白なホールケーキに乗った立派な苺。

    「普通にショートケーキでもいいし、チョコやフルーツタルト、モンブランにチーズケーキとかあるよ」

    そう言うと肉じゃがの糸こんを啜る。別に俺としては何でもいい。デカすぎるジャガイモを箸で割った。人参は小さく切るくせに。ジャガイモは品種によって溶けるからと前に言っていたな。コイツが作るのは俺に合わせた椎茸抜きの肉じゃが。

    「尾形?」
    「ショートケーキのホールでいい」
    「苺にする?フルーツ盛り盛りもあるよ」
    「苺」
    「了解」

    満足そうに笑うのを横目に俺は白米をかき込んだ。


    さらに数日後、嬉々として招待状と書かれた封筒を手渡された。内心驚いたがおくびにも出さず受け取り自室へと引きこもる。封をしているシールを剥がし中の手紙を開いた。カラフルな遊園地の絵が描かれた便箋。

    "尾形百之助様 来たる1月22日、誕生日会へお招きします"

    恭しく書いてあるが、当日家で準備するから時間まで外にいろということらしい。夜にやるのかと思いきや真っ昼間だ。年甲斐もなく少し、浮き足立っているのかもしれない。手紙を封筒に戻し、鍵付きの引き出しの中へ仕舞う。

    誕生日前日、ジュージューという音と香ばしい匂いがしてフライパンを覗くと牛肉の塊が焼かれていた。ローストビーフの素と書かれた袋が置いてある。なるほど仕込みか。蓋を閉めるとタイマーをかけて火を通していく。ひっくり返してもう一度同じことを繰り返した肉はフライパンから移動し、アルミホイルに巻かれて放置。今度は沸騰させて置いたお湯に海老を投入。鮮やかな朱にたちまち変わり、ザルに上げて粗熱をとった。目が沁みると言いながら玉ねぎをスライスしパプリカやタコなど材料を順番にジップロックに入れる。その後イタリアンドレッシングを振って全量注ぎ込んだ。どこからともなくヤーっと言う声が頭の中でこだまする。冷蔵庫に入れて仕込みは終わったようなので、俺は自室に戻った。


    遠足前の小学生宜しく朝早く目が覚めるなど思いもしなかった。暖房をつけ、コーヒーを淹れてぼーっとする。アイツはまだ夢の中だが準備のためにそろそろ起きてくるはずだ。着替えたのちコートを羽織り俺は外に出た。殆どの人間にとって今日はなんでもない日。そうでないのは俺と同じ誕生日のやつくらい。こんな時間帯にやっている店の方が少ないくらいで、コンビニで買ったおにぎりを腹に入れた。今頃アイツはせっせと準備に勤しんでいるのだろう。

    本屋は9時開店。前面に売りに出されている新進気鋭の作家の適当な本を買って隣接されているカフェでコーヒーを啜りながら時間を潰した。耐えることは得意なはずなのに早く家に帰りたい。でもアイツの頑張りを無碍にはできない。俺だったらどう祝うか。美味いもん食わせておけば喜ぶだろう。でも格式張った所は苦手だったはず。緊張して味がわからないと前に言っていたくらいだ。ケーキをたらふく食べさせるか。パタンとあまり頭に入らなかった本を閉じてカフェを出た。

    「あれ、尾形じゃん」

    特徴的なほくろが視界に入る。このタイミングで宇佐美に会うとは。

    「今日誕生日じゃなかったっけ。1人?一緒に住んでる子に祝って貰えないの?」
    「時間指定されてるから適当に暇潰してんだよ」
    「へー良かったじゃん祝って貰えて」

    揶揄うように言葉を投げかけ、じゃーねと手を適当に振って宇佐美は本屋に入って行った。棒読みだったが気にしないでおく。

    祝ってもらえるような仲になるまで時間を要した。最初は友達でもなんでもなかったのだ。一服しようと入ったチェーン店で、勢いよくガキが俺にぶつかり俺の手からすっ飛んだアイスコーヒーがアイツの服にモロにかかった。ガキの親は平謝り、俺はコーヒーを弁償して貰えればそれで良かったが、服が濡れた本人は洗えば落ちるからと、まだ何も買ってないのにそそくさと退店。クリーニング代くらい受け取ればいいのにと思った。謙虚と言うより居た堪れない空気が苦手だと後から知ることとなる。2度目に会ったのは、さっきの本屋。求めていた本を取ろうとした時に手が当たった。俺は覚えていたがアイツは俺のことなんか微塵も覚えてなかった。最後の一冊だったが、あーというなんとも言えない声を出し、どうぞと譲られた。あからさまにしょんぼりした背中。あれは運転してる時に譲りすぎて駐車場になかなか停められないタイプだと察した。3度目に会ったのは新規取引先の土方コーポレーション。そこで若と呼ばれていた。今の新人が入る前まで下っ端だったので若と言うあだ名をつけられたと。俺のことを尾形と呼び捨てにするようになった頃、もう若でもないと照れながら教えられた。熱中症目前だった俺に気づき、隣接している家永医院に無理矢理連れて行かれて強制点滴投下。今度は流石に覚えているかと思えば、やはり覚えられてはいなかったことに何故か腹が立った。「尾形さん我慢強そうだけど無理はよくないですよ」と言われて経口補水液を渡された夏の日。それ以来赴くとよく笑っているところを見たし、それなりに仕事はこなしていた。縁故で入社し、その親戚の家に転がり込んでいると聞いた時は、コイツを攻略するやつなんざいないだろうと鼻で笑ったのに、堅牢堅固な城の若様に挑んだのは俺自身。居心地の良さに惹かれたんだ。転がり込んでいるその親戚に意中の相手がいると耳にして、家を出て恩を返したらどうだと囁き、俺のマンションの一部屋を貸すからと甘い言葉で誘惑したが、そこまでしてもらう義理はないと最もらしく拒否。勧誘を断れるのか、頭のおかしいやつはいくらでもいる、俺といれば大丈夫だと1番弱いところを突いた。1つ条件付きで首はようやく縦に振られることとなったのは半年ほど前。何故そこまでよくしてくれるのかと聞かれて、俺が無理したらお前は気づくからセーフティになって貰いたかったと適当に言えば、利害の一致と納得していた。誰かに取られるくらいなら手元に置いておくに越したことはない。あの手この手を使って一緒に住むことにしたんだ。その関係がまだ友達だとしても、これから先楽しみは尽きない。

    出会いを懐古していると招待された時間ももう少し。今から帰ればちょうどいい時間だろう。

    時計を見て時間通りに玄関の鍵を開けた。はた、と止まる。靴が5足。まて、アイツ一体誰を呼んだ。共通の知り合いとなるとこの小さい靴はアシリパか、そうなるとスニーカーは杉元、よれよれなのは白石か。あからさまに高そうな革靴は勇作さんな気がする。あと1人は誰だ?ふと視線を向けた靴箱の上には本日の主役と書かれたタスキが置いてあった。これを俺に付けろと。馬鹿馬鹿しいけれど付き合ってやる。俺用のスリッパを履いてリビングへと向かいドアを開けた。

    「誕生日おめでとう!!」

    クラッカーの鳴る音とともに祝いの言葉が発せられた。推理通りの面子に菊田次長がいる。この人よく部下の誕生日に来たな。壁には装飾が施されていた。誕生日らしい。ぷかぷかと浮いて揺れる風船。ガーランドにHAPPY BIRTH DAYの文字が壁に釣られている。ローテーブルには昨日仕込んでいたものは勿論様々な料理が並ぶ。1人エプロンを付けたままのアイツは主役の席はココと指を差した。

    「尾形ーちっとは嬉しそうな顔しろよ」

    杉元がなんか言っているが知ったことではない。俺は髪を撫でつけながら席に着いた。

    「ジュース好きなの各々注いで、尾形は何にする?あ、ピザ焼けた。白石、大きい紙皿に乗せてピザカッターで切るの頼むよ」
    「はいはーい。お安い御用だ。新しいピザも焼くぜ」
    「緑茶でいい」
    「花沢さん緑茶取ってください」
    「わかりました」
    「私にカルピスソーダを取ってくれ」
    「アシリパさんどうぞ」

    わちゃわちゃしながら各々のプラカップに飲み物を注ぐ。俺は緑茶。勇作さんはコーラを選んでいた。ゲップ出ても知らんぞ。杉元はファンタオレンジ、白石はイチゴミルク、アシリパはカルピスソーダ、菊田次長は烏龍茶。隣に座るコイツはオレンジジュースを注ぐと口を開いた。

    「菊田さん乾杯の音頭お願いしまーす」
    「俺⁉︎あー、有能な尾形百之助くんの誕生日を祝いまして、カンパーイ」
    『カンパーイ‼︎』

    カップ同士を軽く当てドンチャン騒ぎが始まった。

    「ローストビーフ美味っ!」
    「市販の素使っただけだよーいっぱい食べれるから作るととてもお得なんだ」
    「へー。家でも作れるんだな」

    白石が美味い美味いと食べるローストビーフ。菊田次長は感心しながら口へ運んでいた。いい感じの火の通り具合だ。

    「マリネはタコいっぱい入ってるな!」
    「奮発してでっかいの買ったから」
    「とても美味しいです」

    マリネのタコをヒンナヒンナと言いながら口へ詰め込むアシリパに、褒める勇作さん。味付けはドレッシング任せとは知ることはないだろう。

    「このピザどこの?」
    「スーパーの冷凍コーナーにあるちょっと高めのやつ」
    「あれかー。俺はチルドコーナーの250円くらいの買っちゃう」
    「わかるー。あれはあれでいい」

    ピザの話で杉元と盛り上がっている。曰く特別な時にしか買わない冷凍のピザ。高いだけある。

    「尾形、ちゃんと食べてる?なんか取ろうか?エビフライあるよ、フライドチキンはどう?枝豆とかキャンディチーズとか」 
    「手届くから大丈夫だ。というかお前、なんでコイツら呼んだんだ」
    「誕生日会って言ったらパーティかなって思ったから。あんまり多すぎても大変だしさ。嫌だった?」
    「別に」

    ボソボソと俺とコイツにだけ聴こえる声で喋る。まぁ、嫌ではない。カロリー度外視の料理をつまみながらたまにはこういうのもいいと思った。

    「プレゼントお渡し会〜」

    皿の上の料理があらかた無くなった頃、白石がそう言い出した。まさか用意されているとは思わなかった。

    「私と、杉元と白石は3人で1つだ」
    「ハンカチにしたんだぜ」
    「あぁ」
    「尾形ありがとうくらい言え」
    「まぁまぁ杉元、今日は尾形の誕生日だし」
    「……ありがとな」
    『どういたしまして!』

    アシリパから渡された包装された箱を受け取る。ワンポイントの黒猫の刺繍があしらわれたハンカチは普段使いが出来そうだった。

    「自分からはこれを兄様へ」
    「どうも」
    「ほー、年代物のワインか」

    ワイングラスなんぞこの家にはないのだが、まぁ良いだろう。勇作が選んだのなら不味いことはないはずだ。

    「じゃあ俺からはペアのサーモタンブラー。2人で使ってくれ」
    「わぁ、いいんですか!ありがとうございます」

    隣で俺より嬉々としている。月の満ち欠けが印字されているタンブラーだ。これなら落として割ることもないだろう。

    「プレゼント貰えてよかったね尾形」
    「お前は?」
    「あー、それがまだ届いてなくて。ごめん。今日中には届くと思う」
    「準備大変だったんだろ。それに一緒に住んでるんだからいつでも渡せていい」
    「そうだぞ尾形ー」

    別に責めてなんかないのに、杉元とアシリパはブーブーと俺に言う。

    「ケーキ食べようケーキ!ひっくり返すとあれだから机の上で蝋燭つけて電気消そう!!」

    自分のせいだと居た堪れなくなって空気を変えようと手を叩いて提案し始めた。ま、いいだろう。

    「立派なケーキですね」
    「大きいな」
    「もしかしてこれあそこのケーキ屋?」
    「そうだよ」
    「美味いって噂だよなー」
    「蝋燭挿す前に写真一枚撮っとくか」
    「いいですね」

    あれよあれよと写真を撮られ、箱の上に乗せて付属の蝋燭を挿し、ライターで火を灯していく様を俺は見ていた。そしてシーリングライトをリモコンで消灯すれば、ケーキは暖かい色に染まる。手拍子をしながらハッピーバースデーの歌を皆が口ずさむ。歌い終わるとパチパチという拍手に包まれた。

    「願い事頭に浮かべながら蝋燭消すんだっけ?」
    「そうだったような」
    「一気に吹き消すんだぞ!」

    フゥと吹き消すとパラフィンの臭いと共に真っ暗になった。ピッとリモコンの音が鳴って暗闇から一気に明るくなり目がチカチカする。テキパキと箱からケーキを下ろしチョコプレートを皿に避難させ、計量カップに入れた湯で包丁を温めてキッチンペーパーで拭き、ケーキを等分に切るアプリ越しに7等分に切り分けられた。皿に分けられたケーキはそれぞれの前へ。

    「いただきまーす」
    「丁度いい甘さ」
    「苺の酸味と合ってて美味い」
    「スタンダードなだけに誤魔化しが効かないからな」
    「ええ、素材への拘りもあるのでしょう」

    感想を口々にケーキを口に運ぶ。俺の皿だけに乗った誕生日おめでとう百之助くんと書かれたチョコプレートを半分食べる。当たり前に甘い。隣に視線をやるとそれに気付いたのか俺の方を見た。言葉を発そうと開いた口へ残りの半分を押し込む。パチクリと瞬きしたが、そのままボリボリと噛み砕いて飲み込み、何も言わずにケーキを食べ続け始めた。半分くらいが丁度いい。

    その後テーブルの上を片し、ビンゴゲームだトランプだ1時間半ほど子供のように遊ぶことになるとは思わなかった。終盤王様ゲームやろうぜと白石が言ったせいで、なぜか白石と杉元と菊田次長の恋人との惚気を聞く羽目に。養ってくれてる恋人が可愛いだの、最近外で手を繋いで歩けるようになっただの、抱き上げて風呂に一緒に行くだの人の惚気は歯が浮くし体がムズムズする。仲がいいのはよろしいことで。心底俺にもアイツにも当たらなくてよかったと思った。

    「今日は楽しかった」
    「またな」
    「料理美味しかったぜ」
    「兄様の益々の活躍祈っています」
    「明日からまた仕事だが、頑張ってくれ」

    口々に一言ずつ言葉を投げかけ、帰っていく。これほど騒がしい誕生日は生まれて初めてだ。ふぅ、と一息つく。

    「尾形は楽しかった?」
    「人並みには」
    「はは、そっかそっか。みんなに祝ってもらってプレゼント貰えて良かったね」

    リビングの片付け手伝ってと言われ、飾り等を外し非日常は元に戻っていった。ヘリウムガス勿体無いから抜けるまで置いとこうと、風船だけはそのままだが。菊田次長に貰ったサーモタンブラーに余った飲み物を入れて休んでいるとインターホンが鳴る。俺宛の宅配便がどうやら届いたようだ。

    「はい、プレゼント」
    「ん」

    段ボールを開け、ギフト梱包されている箱を手渡されたので受け取る。テーブルに置いてペリペリと包装を剥がすと、日本名湯秘湯セットと書かれた箱が現れた。

    「温泉気分が味わえるし、効能も尾形向き」

    ドヤ顔で言われ、これ貰って喜ぶのは月島主任とじいさんばあさんだろうと口から出そうになるのを堪えた。これでも疲れている俺のことを考えたのだろう。お歳暮の割引されたハムセットじゃなかっただけマシだ。

    「お前は、残る物という選択肢を持っておらんのか」

    食べてなくなる、使ってなくなるものを選ぶ。そしてセンスはあまりない。

    「手元に残らない方が気が楽かと思って。それに、いつか仲違いした時や、尾形に恋人ができた時処分する手間がなくていいじゃん」

    同居期限は俺に恋人が出来る日までという条件をつけてなんとか同居に漕ぎ着けたが、そんな日は一生こないことをコイツは気づいていない。処分なんてしない、大事に使う。だからもう、残る物をプレゼントしていいんだ。

    「食べ物なら血となり肉となり、手元に残らないけど美味しかったらいいし、使って無くなるものはその時効果があればいい。プレゼントセンスがなくてもまだマシだと思える」
    「俺に聞けばいいじゃねぇか」
    「尾形内臓一個くらい売らないと買えないような物選びそうだからやだ」
    「俺をなんだと思っているんだ。お前の懐事情くらい把握してる」

    なんだーと正面で照れながら笑う、お前の思ういつかくる別れなんて来ないと、言えたらどれほどいいか。でもそれは今じゃない。タイミングを間違えたら苦労が水の泡だ。良い友達を演じて見せるが、そこに我儘くらいねじ込んだって良いはずだ。今日の主役は他でもない俺なのだから。

    「来年」
    「?」
    「来年の誕生日は形に残るものにしろ。センスがなくても文句は言わん」

    こう言ってやらねば駄目なんだろ。早く俺の気持ちに気づけ。それまで手を出せないこっちの身にもなれ。俺の言葉に鳩が豆鉄砲食らったような顔をした後、口を開く。

    「……言質取ったから。文句絶対言わないこと。あとちょっとは嬉しそうな顔した方がいい」

    言われなくてもその時はどんなプレゼントだろうと笑ってやるよ。

    「カタログギフトは無しだぞ」
    「え!」

    ギクリという効果音が目に見える。楽しようとしてるのがモロ分かりだ。俺に選ばせて済まそうとするな。

    「次の誕生日まで365日、俺を喜ばせるプレゼントのことを考えるんだな」
    「うわぁぁぁ」

    情けない声を出して大の字に寝転ぶ。それでいい、毎日俺のことを考えてろ。次の誕生日が来たら、また次の誕生日のことを考えるのを一生繰り返せ。

    「来年が楽しみだ」

    ニヤける口を隠しもせず俺はそう言った。この鈍感な同居人との関係が暫く変わらなくても、俺は待つのが得意だから辛抱強く待っててやるよ。


















    翌年の誕生日は2人きりで、強張った顔をして渡された待望の誕生日プレゼントは、俺のことをたくさん考えて選ばれた毎日使える物。心の底から礼を言うことが出来た。俺達の仲がどうなったか、プレゼントに意味が集約されている。
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