高銀 瓶詰のジゴクパロ未満いつまでも、俺たちは正しくあれない。
いつも通りのことだった。
いつも通り銀時が調子に乗っておるサムライ共を馬鹿にして、それに俺が乗っかり、二人して飛びかかってくるそやつらを返り討ちにしたときのことである。背後から突如ブスリと痛みが突き刺さった。気づけば視界は横に倒れ、映るのは雨が降った後の生臭い土ばかり。その向こうで己が宿命の銀(しろがね)が倒れているのが見えた。何か、毒矢か痺れ薬を撃たれたのだろうな。指先の一本までもが動かなかった。なので俺ができることと言ったら、「銀時」とそう名を呼ぶことだけであったのである。なんと弱きこと。なんと情けなきこと。ああ、先生すみません。俺は自分の力量も分からぬ餓鬼なばかりに貴方の大事な小鬼をこんな目に合わせてしまった。すみません。すみません。けれど、銀時へ捧げるこの想いは宗教人の信仰のその崇高さとなんら変わりはしないのです。秋の煌めく朝露のように、洗練として潔白であると、どうかそう信じてください。あの白き神の化身のような小鬼を愛することを、どうか信じてやってほしいのです。浅ましいのは俺ばかり。あいつのことを守れなかった己の弱さばかりをどうかお憎みになってください。
気づけば、孤島に銀時と二人ぽつんと寝転がっていた。ザザとやたらとうるさいなァと思ったら、砂浜に打ち捨てられていたのだ。ナントカカントカ両手を縛っていた縄を切って、銀時を探した。砂浜に落ちていた割れた瓶の欠片で無理に切ったものだから、高杉の手首は血でヌラリと濡れておった。どうやら俺と銀時は海に投げ捨てられたらしい。己は運良くこの孤島に辿り着いたが、銀時はどうであろうか。もしかしたら死んでいるのではあるまいか。そう思うと高杉は血の気が失せた。水墨画のように蒼白な顔はその剣のような美貌と両手に濡れた真っ赤な血も相まって、幽鬼のようであった。ユラリと覚束無い足取りで銀時を探し彷徨い歩くその様は、高杉を知る者からすればとても頼りないものであっただろう。暫く歩くと、砂浜の向こうに白いものがチラリと見えた。高杉は急いで駆け寄ると、その白いものはどんどんと大きくなって、やがてヒトの形になった。
「銀時」
ああ、神様。神様。ありがとうございます。己が不肖の身でありながら、成す術もなく己の力量も弁えないこの畜生めのたった一つの真珠を奪わずにいてくだすって、ありがとうございます。この男がいるだけで、俺は救われるのです。この男が処女がごとき真白に染まっていながらも、生者として春の麗かさのような明るさでもって笑う様が、俺にとっての全てなのです。そんな俺の唯一を生かしてくださって、この御恩は祈りでもって一生を捧げます。ありがとうございます。
高杉は未だに気絶している銀時の体をかき抱いた。どこもかしこもグッショリと濡れていて、銀の髪は先が透き通って女神のような美しさだった。高杉の手首から垂れた血が銀時の白磁の肌を滑り落ちていく。なぜ白に紅が交わるとヒトはこうも眩しく見えてしまうのだろう。きっと、目出度いからというだけではない。白という何をも汚せぬ不可侵の聖域が、ヒトの生という忌むべき罪を象徴する血の赤でもって風に散らされる花弁のように犯される背徳がそこにはあるからだろう。そして、高杉も確かに、銀時が生きているという事実に安堵しながらもその背徳に背筋を震わせているのであった。