結婚式の朝/キラ門「そろそろ出る時間だろ」
門倉が洗面所を覗き込んできたので、キラウㇱは慌てて整髪料を纏った手で前髪を掻き上げた。電球のすぐ下でまじまじ見ると瞼の上の日焼けの境目が目立つ気がしたが、いつもの鉢巻を着けていくのは場にふさわしくないと諦めている。昨晩のうちに眉は整えた。髭の剃り残しもない。目付きが悪く見えるのは元々だ。どうだ、と門倉を振り返るとひとつ頷いてくれたので良しとする。
スピーチが任されているわけでもないし、会費制なので財布への負担も少ない。新郎新婦を祝福し、料理を食べるだけの気軽なものだ。そもそもそういった席に呼んでもらえる事が嬉しいのだ。友人である新郎とは一時期疎遠になっていたが、店を構えてからは時々足を運んでくれるようになった。キラウㇱが忙しくしている日には門倉と言葉を交わしてる姿も見かけた事がある。理不尽だとわかっていながらも少し妬いたのだ。ちょうど門倉とキラウㇱが同居を始めたばかりの頃だったので、折に触れて思い出す。
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