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    ふゆふゆ

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    ふゆふゆ

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    逆行転生王ロゼ🌟🎈、幼少期編
    思春期編、青年編と続くことになります
    支部には多分まとめて投げます

    これは悪逆非道の王🌟が心を改めて清く正しく心優しい王となり、執事であったロゼ🎈と幸せになるまでの話

    貴方と共に天寿を全うするためにこれが傲慢に振る舞ったオレの罰か。
    因果応報。こうなって然るべき事。
    鐘が鳴る。処刑台に上がれば大勢の民衆に罵声を浴びせられる。
    その大勢の民衆の中に愛しい相手の姿。

    (…ルイが居る。)

    ルイはオレを見て、綺麗な顔を歪め、目を伏せた。
    そこでオレは気付いた。

    (ああ、そうか。そう、だったのか。)

    ルイもオレと同じ気持ちだったのかと…。
    ギリッと歯を食い縛る。
    二度目の鐘が鳴った。
    ギロチンにかけられて、目を伏せる。
    処刑人が何か言う事はと言うが、何もない。

    「ありません。」

    そうかと一言言った処刑人が手を動かし、三度目の鐘が鳴ったと同時。オレの意識は闇の中へ。

    ああ、もう一度やり直せるのならば…、今度はこんな馬鹿な真似はしないのに。

    そして…

    今度はルイと幸せになりたい…。

    「はっ!?」

    パチッと目が開く。
    ふわっとした柔らかな感触が身体を包んでいる。
    牢屋の固いベッドとは大違いだ。
    夢…?なんと言う悪夢だ。
    だが、感覚をしっかりと覚えている。
    あれは確かに現実にあった事だ。
    バタバタと駆けてくる足音がして、勢いよく開けられる扉と懐かしい声がする。

    「もーお兄ちゃん!!いつまで寝てるの!今日はアタシと遊んでくれる約束でしょう!?」
    「さ、き?」

    そこには幼い懐かしい妹の姿があった。
    何故?何故サキが生きているんだ…?
    サキは確かにあの時に…。
    ズキッと頭が痛む。

    『…しいよ、お兄ちゃ、』
    『サキ!!大丈夫だ!お兄ちゃんが付いてるからな!!』

    どんどん冷たくなっていくサキの手に必死に息を吹き掛けて自分は温めた。だがそれでも一向に温かくならないサキの手に自分の無力さを知った。
    その後にサキは息を引き取ってしまい、その理由は後々に分かった。呪いだったらしい。
    サキはある国の王子に惚れられたのだ。サキも王子が好きだったようだが、父が許さなかったのだ。王子に嫁に出すことを。
    だから逆恨みをされて、呪われた。
    許さなかった理由なんて単純で、オレの王国は大国だが、王子の国は小国。利にならない結婚だったから、父が許さなかった。
    今、思えば想い合っているサキと王子を引き裂くなど愚の骨頂だ。当時のオレは父からの刷り込みもあり、まあ当然だな…。などと思っていたが、だがそれでサキが呪われ、命を落としたなど、父の矜持が許さなかったらしい。我が家からサキの存在は消された。サキの存在が抹消された事は納得が出来なかったが、オレも父にとっては駒の一つでしかなく、反論も許されなかった。

    『ツカサ、お前は一人息子だ。いいな?』
    『…はい、父上。』

    だが父はそう言う男だった。利になることしか許さなかった。
    そこでふと鏡が目に入り、オレは目を見開く。
    鏡に映るは幼き頃の自分の姿。

    「…嘘、だろう?」
    「何が?お兄ちゃんどうしたの?」

    サキが不思議そうにオレを見てきた。
    そんなサキに何でもないと首を横に振る。
    頭の中がぐちゃぐちゃだ、夢なのか?現実なのか?

    「お兄ちゃん、顔色悪いよ?どうしたの?身体の調子悪いの…?」

    くらっと目眩がして、オレはその場に座り込む。

    「お兄ちゃん!?お医者さん呼んだ方がいい!?」
    「…サキ、今は何年の何月何日だ…?」

    オレを心配そうに覗き込んだサキに問い掛ければ、サキはきょとんとした顔をして日付を話す。
    伝えられた日付にまた目眩がした。
    非現実的すぎて、キャパオーバーしたオレはそのまま意識を失った。
    どうやら、オレは逆行と言う物をしてしまったらしい。
    その後、3日熱で寝込んだオレは自身の両頬を張る。

    (本当にこれが現実なのであれば、いや、この際現実かなんてどうでもいい。オレはやり直すチャンスを与えられたのだ。ならば今度は間違えない。今度こそ、ルイと幸せになる、必ず。)

    鏡をじっと睨んだ。

    (先ずオレが幸せになるために成さなければならないことを書き出そう。)

    一つ一つまとめて、処刑される最後を回避する。
    その後はこの国はどうでもいい、いや、良くはない。もしオレがちゃんと君主として国に立ち、皆に慕われる王になれるのなら頑張るとも。その為には弛まぬ努力をせねばならぬだろう。
    だがオレが本当に成したい事はただ一つ。ルイと共に生き、共に天寿を全うすること。そう、ただそれだけでいい。

    (何があの道を辿ることになる?)
    「少なくともサキの死は何としても回避したい。今度こそ、かの王子と幸せになって欲しい。」

    他にもオレがああなった理由を一つ一つまとめて行く。
    サキが一つの要因ではあったのは確実だ。
    あとは、そうか帝王学…。あれも良くはない、幼い頃からの刷り込み、ならば今度は冷静に回りを見ろ。
    父上はどんな政治をしていた、母上はどんな方だった?考えろオレ、頭を回せ。
    声を聞け、そう、回りの声を。父上の声だけで判断するな。父上の話が全てではないのだから。
    父上の言い付け通りの事をしたからオレはああなったのだから。
    そこで坊っちゃまと侍女に声を掛けられ、ハッと我に返る。

    「何だ?」

    少し怯えている様子の侍女に目を瞬く。何故、この侍女は怯えている?

    (ああ、そうか。この時のオレは我が儘放題だったな。気に入らなければ、叱責など日常茶飯事だった。何と傲慢な事か。)

    思わず額に手を当ててため息をついた。
    オレのため息にまた震え上がった侍女に焦る。

    「いや、貴女にため息をついたのではないのだ、気に止むな。」
    「…え?」

    驚いた様子の侍女にまた額に手を当てた。
    そうだな、この時のオレはこんな言葉を掛ける人間ではなかったな…。

    「そんなに驚く事か?」

    ハッとした侍女がまた青ざめる。不敬だと気付いたのだろう。

    「いやだから、そんな怯えないでくれ、頼む。」
    「も、申し訳ございません!!」
    「どげっ!?いや、頭を上げてくれないか…。」

    まさか土下座をされるとは思っておらず、ぎょっと目を丸くした。
    震え上がった侍女の肩を両手で包み、優しい声で顔を上げさせた。

    「ぼ、ぼっちゃま…。」
    「今まですまなかった。」

    侍女に謝れば、侍女は首を横に振る。

    「そ、そんな。坊っちゃまが謝るのは…。」

    まだ続きそうだと思ったオレは強制的に話題を変えた。

    「もうこの話はおしまいだ。ところで何の用件だったのだ?」
    「あ、は、はい。えと、お茶の時間でございます。お嬢様がお待ちしております。」
    「サキが?と言うか、もうそんな時間なのか。分かった。知らせてくれて感謝する。と、申し訳ない。貴女の名前をお伺いしてもいいか。」

    オレの態度にまた目を丸くした侍女にああ、これも前のオレならば言わない言葉だなと今まで自分の態度、行いにまた呆れ返った。
    そりゃあ恨みも買われる事だろう。
    何故、オレはあんな事を平気で出来たのだろうか。また盛大にため息をつくことになった。
    彼女の名前はネネと言うらしい。ネネに案内されてサキが待つガーデンに向かった。
    このネネと言う侍女に大変世話になることをこの時のオレはまだ知らない。
    サキと久方ぶりに茶をして、オレはまた自分のやるべき事を考える。

    (明日からまた帝王学を含めた勉学が始まる。当時のオレは大変勉強嫌いで真面目に勉強して来なかった。今世ではきちんと学ぼう。じゃないとルイには釣り合わない。ルイは頭が良いからな。と言うより今、ルイは何処に居るんだ?ルイが此処へオレ付きの執事として連れてこられたのは確かサキが亡くなって直ぐだったな。落ち込むオレに母上が友が居れば少しは気が晴れるのではと連れて来てくれた。そう教会から。それなら教会か?ならば、)
    「母上の視察に付いていってみよう。」

    それはそれとして、先ずやらねばならないことは父上にどうしたらサキとかの王子の結婚を認めさせるか。
    何か利点を探し出せ。それはそうか、明日に来てくれる教師、確か名はカイト。カイト先生に何か知らないかと聞こうと決める。
    そして思い出す。そうだ。確か。

    (母上は殺されるのだ。父上の愛人である後妻に。犯人は分かっているのだが、母上の死は有耶無耶にされる。確か毒殺だが、病死にされる。)

    理由は単純で、父上は母上を愛してなどいなかったのだ。政略結婚でオレとサキをなした。
    いや、恐らく母上は父上を愛していたのだろうが…。
    因みに父上は母上との結婚前から後妻と関係があったようなのだが、後妻は子が産めない身体らしい。
    だから大国の姫であった母上と結婚をして、世継ぎであるオレを産ませた。
    オレが居る為、母上は邪魔になったのだろう。
    そしてサキも既にこの世には居なかったため好機と思ったのかも知れない。だから父上は後妻の行動を黙認した。そう言えば母上は何か察していた様子だったな。
    母上が亡くなる前日に母上にこう言われたのだ。
    今の今まで忘れていたが…。

    『ツカサ。ツカサはあの人のようになってはダメですよ。母が傍に居らずとも、サキが傍に居らずとも、決して道を踏み外しては駄目です。貴方にはルイくんが居るから、大丈夫ですよ。』

    何故オレはこんな大事な言葉を忘れていたのだろう。

    「母上、申し訳ない…。」

    過去の母上に謝る。今世では母上に親孝行をしたい。そう心に決める。
    そして後妻はとんでもない女だった。尻軽で不義理で、そう。

    『ツカサ、貴方は本当にーーにそっくりね。ねえ、ツカサ。ナイショよ?』

    そう言って15のオレの上に股がるような女だ。
    これがオレの初体験だ。思い出して腕を擦る。これもオレがああなった理由の一つだ。
    そしてオレとルイの関係が歪んだキッカケも同時に思い出す。
    後妻に乗られて好きに弄ばれ傷ついたオレはルイに助けを求めたのだ。
    オレはルイが好きで、弄ばれた純情もそうだが、ただルイに会いたかった。
    だが、ルイに与えられている私室に行けば、ルイはそう父上に抱かれていて、それに大層ショックを受けたオレは翌日にルイに言い放った。

    『父上に抱かれているのだろう?ならばオレも良いではないか。』

    ルイは大層傷ついた顔をしていた。
    そしてオレは嫌がるルイを無理矢理組み敷いたのだ。
    今、思えばきっと父上とは合意では無かったし、父上の好色が転じてああなったに違いないのだ。
    ルイは男も女も皆、振り返る程に美しいのだから。
    きっとルイは命令で無理に頷かされたのだ、父上に。
    そして何よりルイはオレに知られたくなかったに違いなくて、ルイが何か言おうとしても何も聞きたくなくて、ルイの口を押さえた。だが、ずっとルイは傷ついた顔をして泣いていて、オレに許しを乞うていたが、オレはそれを聞かなかった。
    だが、これからまともにルイの顔が見れなくなったのは確かで、だが、なし崩しに命令でずっとルイに性行為を強いた。考えればオレは無理矢理オレに股がった女とそして無理にルイに行為を強いた父上と同じ事をルイにしていた、何とおぞましく、最低な行為なのか。
    だがオレはルイが好きだった。だからルイが欲しかったのだ。最終的にはルイは喘ぎもせずはらはらと涙を流してオレを見ていた。その顔も見れなくて、ずっと後ろからだったから甘さなど無かった。
    その後、父上が急死してオレが王になった後もずっとそうだ。
    そして後妻ともオレは関係を持っていた。正確にいえば持たされていた、だが。
    考えたら父上の死も何か理由があるかも知れない、あの女狐である後妻が理由か。これも調べる価値がありそうだ。

    (今回はルイを父上いや、あの男から必ず守る。そして母上もサキも必ず助ける。後妻も王宮に入れて堪るか。ならば早々に下積みしてあの男に王を降りて貰う。指針は決まった。協力者も探さねば。ルイも話せば協力してくれるだろうか…。そもそも先ずはルイに会わねばならないな。)
    「だが、先ずはあの男にサキとかの王子との結婚を認めさせる。必ず。」

    机の灯りを消せば、ネネがまたオレを呼びに来たのだった。
    夕食、オレが自席に付けば食事が始まった。
    改めて食事をしながら、父と呼びたくないこの男と母上、サキの顔を見る。

    「ツカサ、もう体調はいいのか?」
    「はい、父上。」

    頷きながら笑みを張りつける。
    だが、改めて思うがこの男は本当にオレは駒でしかないのだろう。興味がないのだろうな。
    この張りつけた笑みにすら気付かないとは。

    「ツカサ、でも病み上がりなのだから無理はしてはいけませんよ。」
    「大丈夫です、母上。」

    母上はオレの笑みに気付いているようだ。
    母上は本当に思慮深く、優しく美しい女性だ。
    このような女性が傍に居るのにあのような下品な女がいいとは父の趣味を疑う。

    「ああ、そうだ。近いうちに近隣諸国を招いて、舞踏会を行う。」
    (此処だ。サキとかの王子が出会うのは。)
    「いつ頃行うのですか、父上。」

    まだ決まっていないと言う父にまだ時間はあるが、早く対抗出来る術を手にいれたい。
    食事が終わったら、今度は書庫に行ってみることにしよう。
    明日、カイト先生にも聞くつもりだが、自分でも学べるところは学びたい。
    そう決めて心の中で頷いた。
    決して楽しい食事ではないが、食事が終わり父が退室する。
    それを見計らい母上が声を掛けてくれた。

    「ツカサ、何か抱え込んでいたりしませんか?大丈夫かしら…。」

    母上が心配そうにオレの頬に触れる。

    「お兄ちゃん、さっきの笑顔、怖かったよ…?大丈夫…?まだ体調悪い…?おやつの時間にお外でのお茶に誘ったから…?」

    サキも心配そうにオレの袖を掴んだ。
    オレはそんな母上とサキに微笑む。必ず二人を守ってみせるとも。

    「大丈夫です、母上。サキも心配掛けてすまん。」
    「…そう。いつでも母は貴方の味方ですよ。」
    「はい。」

    母上は深く聞くのを辞めてくれる。だが味方だとそう言ってくれた。それが純粋に嬉しかった。
    それはそれとして、母上に視察について訪ねてみる。

    「母上、今度は何時教会に視察に行かれるのですか?」
    「どうしてかしら?」
    「いや、オレも着いて行きたいのです。駄目ですか?」

    オレがそんなことを言うとは思っていなかったらしく、母上は純粋に驚いていた。まあ当時のオレならば絶対行くなんて言わなかったからな。

    「…教会ではオレと同じ年頃の辛い境遇の子どもたちが居るんですよね。だからこそちゃんと知りたいんだ。」
    「そう。そう言う事なら、今度一緒に行きましょう、ツカサ。」
    「はい、母上。」

    母上に頭を撫でられる。ああ、懐かしい。
    思わずじわりと瞳が潤む。この暖かな掌を失いたくない。

    「お母様とお兄ちゃん出かけるの?アタシも一緒に生きたい!!」

    サキの声にハッとして滲んだ涙を拭った。
    今度こそ上手くやるんだ、ツカサ。そう決意を新たにした。

    翌日。
    カイト先生が来る前にも書庫に入り浸り、少しでも知識を取り入れようとする。
    だが、やはり難しい本も多い。これは前回きちんと勉強してこなかった自分の責任だ。悔しい。
    今回は。今回、こそは。

    「お兄ちゃん、カイト先生来たよ?」

    ひょこっと書庫の入口からサキが顔を覗かせて、それに分かったと頷いた。

    「こんにちは、カイト先生。今日もよろしくお願いいたします。」
    「先生、よろしくお願いします!」

    カイト先生が驚いたように目を見開いたのが分かる。
    そりゃそうだ。当時のオレはこんな事したことが無かったのだから。当時のオレは何度も言うが勉強嫌いだった為に何時もぶすくれた顔をして、真面目に勉強などしたことが無かったのだから。

    「では始めましょうか、ツカサ様。サキ様も。」
    「はい。」
    「はーい!」

    しっかりと先生を見て頷き、サキは元気よく手を上げた。

    「では、前回の続きから。」

    一つ一つしっかりと勉強していく。分からないところは先生に聞き、自分で解き進めていけば、初めて勉強と言う物が面白いと思った。
    何故知識が増えるこの時間が詰まらないとオレは思っていたのだろうか…。
    先生はこんなオレを見て、かなり驚いていたが、質問に丁寧に分かりやすく答えてくれる、教えてくれる。
    きっと先生は素晴らしい先生なのだと、オレは此処で初めて気づいたのだった。こんな人ならきっと味方になってくれれば心強い。味方に引き入れたい。
    それから数時間、先生の此処までにしましょうと言う言葉にハッとする。
    まだ教えて欲しいのにと思ったが、先生は人好きのする笑みを浮かべて、オレに視線を合わせて口を開く。

    「ツカサ様、勉強のしすぎもよろしくないのですよ。適宜休憩を挟まなければ。」
    「う、はい。」
    「お兄ちゃん、まだお勉強出来るの?すご~い!アタシもう集中力がないよ~?」

    そのタイミングでネネがお茶を持ってきた。
    では私は失礼致しますと言う先生の服を思わず掴めば先生は驚いた顔をした。

    「あの、先生も一緒にお茶をしましょう。」
    「お兄ちゃん、それすっごく素敵だね!!先生!アタシたちとお茶しよう!?」

    サキの勢いに先生は頷き、先生とお茶をすることにした。
    おやつに目を輝かせるサキを見て、急に申し訳ありませんと謝罪する。
    先生は良いのですよと優しく微笑んだ。

    「ツカサ様はまだ何か私にお聴きしたいのでしょう?」

    バレていると思わず苦笑するが、先生に本題であるかの王子の国について知っている事を訪ねる。
    先生はオレの言った国に目を丸くした。

    「その国は私の出身国なんですよ。本当に小さな国なのにツカサ様は何故その国について知りたいのですか?」

    先生の言葉に何と言うべきかと考える。
    サキがその国の王子を好きなるからだなんて言える筈もない。

    「昨日に地図を見ていまして…、」

    我ながら苦しい言い訳だが、これしか思い付かないオレの語彙力に地味に凹んだ。もっと勉強しとけ、オレ。

    「なるほど。」

    先生は微笑んでくれ、そして教えてくれる。
    先生の話を聞いて、段々と思い出してくる。
    この国のとある事が切っ掛けで宝石が注目を集め、国が発展をしていくのだ。
    質のいい宝石や鉱石がよく採れる、腕利きの職人が多いなどで。
    オレはサキの事があり、その宝石の実物を見たことも無ければ、この国に足を踏み入れた事すらない。
    だが、確かそれで父がサキとこの国の王子との結婚を蹴った事を悔やむのだが…。

    (そうだ、思い出した。あの男はこの国に攻め入り、領地にしようと画策するが、失敗に終わる。何故かと言うとあの男が病に伏せるからだ。あの男が亡くなった後、国を継いだオレ本人も宝石などには興味がなく、同盟を結ぼうとも思わなかった。)

    それならば小国へ旅行へ行けば良いのでは無いだろうか。そうだ、それがいい。そして宝石の事を父に話せばきっと認めさせられる。

    「そうなのですか!なら、僕も一度訪れてみたいです!」
    「ふふ、また機会がございましたら、是非訪れてくださいね。」

    先生が柔らかに微笑み、オレは頷いた。
    その後は雑談をしながら思考を巡らせる。

    (さて、どうやって旅行。もとい視察に行くかだ。知見を広げたいと言えば許可されるだろうか。)

    その夜に母上が教会へ行く日を教えて下さり、オレは頷いた。

    (こんなに早くルイを見つけられるなら僥倖だ。)

    それから数日、教会へ向かう日がやってきた。
    馬車に揺られながら景色を見る、街の様子も見に来たい。
    前回は民の事など考えて居なかったが、今回は民の事を知りたいのだ。
    どんな人たちが居るのだろう。

    (王子姿のままで来るのは本来の人間性が見えないし、本当の声が聞けないだろうな。ならお忍びか。それもまた考えてみよう。)
    「ツカサ、サキも着きましたよ。」

    母上の言葉に頷いて、馬車から降りる。

    (此処が教会。)
    「ツカサ、サキ。先ずは此方に。」

    指を組み説法を聞きながら、周りを伺う。

    (人が多いな。そうだ、そう言えば母上は信心深かったな。)

    この教徒や信者は確か多い。当時のオレは興味が無かったが、説法は聞いていて面白いと思った。
    ふと隣を見れば、サキは寝てしまっており、思わず笑ってしまう。この時のサキには難しいだろう。今のオレだから分かるが前のオレならオレもこうだったに違いない。小さな声でサキを起こす。

    「サキ。起きた方がいいぞ。」
    「…ふぇ、」

    アーメンと言う声がしてオレもアーメンと呟く。
    母上もオレたちのやり取りを見ていて微笑んだ。

    「サキにはまだ難しかったですね。」

    サキの頭を撫でた母上にサキは寝ちゃってごめんなさいと謝っていた。

    「では、行きましょうか、ツカサ。」
    「はい、母上。」

    保護施設の方に向かうのだと分かったオレは頷く。
    施設内に入れば母上は牧師と話をしており、オレはサキと手を繋いで傍に控える。
    母上に紹介されて、頭を下げれば牧師はしっかりしておられますなと微笑んだ。

    (よし、今はそう見えるのならば良い。)

    また暫く話した後に視察を始めた母上に付いて歩きながらルイを探す。そして見つけた。

    (居た。ルイだ!!)

    ルイは周りの子どもたちに恐らく聖書だろうか?、を読み聞かせて居た。
    ああ、やはりルイは美しい。そしてこの読み聞かせで既に頭がいいのであろう事が分かる。
    ルイに出会えた事に思わず涙が滲んだ。袖で涙を拭い、母上にルイに話し掛けてもいいのかと声を掛ければ、許可を貰い、オレは読み聞かせをしているルイに近づいた。サキも一緒に付いてくる。
    近づけば、やはり聖書の読み聞かせだったらしい。
    オレも読み聞かせが終わるまで静かにその場に座り込む。
    読み聞かせを聞きながら、こっそりを周りを伺って見る。ルイの周りに居るのは5人。
    一人はピンク髪のショートヘアの少女、もう一人はオレンジ髪の気の強そうな少年、一人は濡れ烏のような黒髪が美しい少女、一人は灰色のショートヘアでキリッとした顔をした少女、最後の一人は茶髪をサイドテールにした大人しそうな少女だ。
    この5人にも将来は世話になるのだが、この時のオレはまだ知らない。
    読み聞かせが終わったルイが聖書から顔を上げ、オレを見て首を傾げた。

    「君たちは…?」
    「申し遅れた、オレはツカサと言う、こちらは妹のサキだ。君の名前を教えてくれないか。君の読み聞かせは大変分かりやすかった。」
    「うん、さっきのお話より分かりやすかった!!お兄さんスゴい!!」

    ツカサと名乗れば、ルイはハッとした顔をした後にサッと顔を青ざめさせて、オレにかしづき頭を垂れ、ピンク髪の少女とサイドテールの少女も同様に頭を垂れた。
    ピンク髪の少女とサイドテールの少女以外は分かっていないようで首を傾げている。

    「ツカサ王子とサキ姫でございますか!?不敬な態度を!」
    「いや、頭を上げて欲しい。君の読み聞かせの邪魔をしたくなくて黙って座ったのはオレだ。」

    三人の顔を上げさせて、口を開く。

    「良ければ、オレとサキの友人になって欲しい。」

    手を差し出したオレにルイは戸惑いながら目をさ迷わせる。オレンジ髪の少年アキトはルイを見上げた。

    「アタシともなって!なって!!」

    サキは黒髪の少女イチカと灰色の髪の少女シホ、そしてサイドテールの少女ホナミとピンク髪の少女ミズキの手を順番に自分から握っていく。
    戸惑いながらもイチカが頷き、よろしくお願いしますサキ姫と言ったが、サキが頬を膨らませた。

    「姫じゃなくてサキって呼んで!!」
    「オレも王子や様は辞めて欲しい。」

    それにルイを含めた6人は顔を見合せたのだった。
    だが、母上の視察の間、オレは話を聞いたり、サキは共に遊んだ結果、最後には打ち解けて、サキに至っては呼び捨てとちゃん付けになっていて、サキはとても嬉しそうに笑っていた。
    オレはルイとミズキの様付けを取ることが出来ず、大変悔しい思いをしたのだが。因みにアキトとイチカたちからはさん付けを獲得したので良しとしよう。

    (けど、どうやってルイを含めたあの6人を城へ連れていこうか。)
    「すっごく楽しかったね、お兄ちゃん!!」

    帰りの馬車で思考を巡らせれば、サキに話し掛けられて、そうだなと微笑んだ。

    「また暫く会えないんだな、いっちゃんたちに…。」

    肩を落としたサキに母上はまた会いに行きましょうねと微笑んだ。
    それから何度か視察にくれば。

    「いらっしゃいませ、ツカサ様。」
    「やっほー!ツカサ様!」

    口調は崩されないがルイがふわりと微笑み掛けてくれるようになり、ミズキは砕けた口調で話してくれるようになった。
    このタイミングでサキがずっといっちゃんたちと居れたら良いのにと母上に溢し、これだとオレは思った。

    「母上、ルイ、アキト、ミズキをオレ付きの従者、イチカ、ホナミ、シホをサキ付きの従者に出来ませんか…?」

    母上は目を丸くした。

    「6人はオレたちの初めての友人です。そして将来はあの教会を出ていかねばならないのでしょう?それならばオレたちの城へ連れて行ってはなりませんか?サキもイチカたちとずっと居たいようですし。」
    「そうですね、考えてみましょうか。」

    必死に言い連ねれば、母上はふわりと微笑んでくれた。
    それから暫く。母上がオレとサキを呼び、迎え入れてくれる事を話してくれた。
    サキは跳び跳ねて喜び、オレも喜んだ。

    (ルイと過ごせる時間が早くなったし、友人も出来た。良い感じだ。なら次は舞踏会までに先生の国。かの王子の国に視察。そしてお忍びで街に降りてみたい。)

    次の行動を決めて、サキと共にルイたちが乗った馬車の到着を待った。
    馬車が到着して、6人が降りてくる。
    イチカたちが降りてきた瞬間、サキはイチカたちに飛び付き、イチカとホナミ、シホに危ないでしょと怒られていたが、サキはえへへと笑ったのだった。
    次にルイとアキト、ミズキが降りてくる。三人を迎え、これからよろしく頼むぞと手を差し出した。
    6人の部屋はオレたちの近くにして貰う。これは父上にルイが手を出されないようにする為に考えた。
    ルイに至ってはオレの隣にと言いきった。今は大丈夫だろう、父上は少女趣味と少年趣味はない筈だから。だが、前だとルイは父上のお手つきになってしまった、今回は絶対にルイに手を出させない。
    寧ろこちらじゃなくて離宮にオレとサキが住めれば良いのだが…。

    (そうか、離宮。今、離宮は空いている。6人とサキと共に離宮に住めれば…。そうだ、そうしようではないか。)

    父上に提案しよう。

    「父上、相談がございます。オレとサキが離宮への住む事を許して貰えませんか?今回オレとサキの従者になった6人はこちらだと息が詰まると思うのです。」

    父上の眉が寄る。そこでオレは察した。
    この男、どうやら少女趣味と少年趣味があると。
    6人とも顔が良いのだ、だからこの男は母上の連れて来ても良いかと言う言葉を受け入れたのだ。
    と言う事はもしかしたらルイは本来は長期間に渡ってこの男に手を出されていたのかも知れない。
    ルイは男だから、妊娠などの心配もないから。
    その事に気付き思わず拳を握り締めた。

    「そうね、それがいいと思います。」

    母上が助け船を出してくれて、母上に感謝する。
    サキは分かって居なかったようだが、オレがこっちより気軽にイチカたちと話が出来るぞと言えば、目を輝かせた。

    「ならアタシも離宮に住みたい!!」

    サキにまでそう言われてしまえば男は頷かざるを得なかったらしい。
    オレたちの離宮への引っ越しは存外あっさりと通ったのだった。
    離宮には基本的には父上とも呼びたくないあの男は来ない。
    王宮よりぐっと近くなった距離にサキは跳び跳ねて喜んだのだった。
    離宮にはオレとサキ、そして6人とネネを連れて来た。ネネは指導が大変そうだが、随分と楽しそうだ。
    そして知恵に勝る物はないと言う事で、6人もオレとサキと同じように先生に勉強を教えて貰う事にした。
    その中でルイはめきめきと頭の良さを発揮し、ミズキとホナミも同様だった。イチカとシホはサキと同じくらい。アキトは昔のオレと同じく勉強が嫌いなようだ。
    器用さもあり気がつけばルイは一番仕事が出来るようになっており、ネネが大層驚いていた。
    思っていた通り、父上はこちらには来ないので平和な日々だ。

    (そろそろ次の段階へ。街への視察と、かの国への視察だ。)
    「なあ、ルイ、アキト、ミズキ。少し良いだろうか?」
    「何ですか、ツカサ様。」

    ルイが不思議そうに問い掛けてくる。
    ミズキは面白そうな気配を察したのかうずうずしており、そんなミズキにアキトは呆れた顔をしていた。

    「お忍びで街に降りたいんだ。」
    「は?ツカサさん、あんた何言って、あぶねぇだろ!?」

    オレの言葉にアキトがぎょっとした。
    ルイが真面目な顔をして問い掛けてくる。

    「ツカサ様、降りたい理由をお聞きしてよろしいですか?」
    「視察で降りても本当の国民たちの声は聞けないだろう?生の国民の声が聞きたいんだ。」
    「へぇ。ツカサ様、それが王宮や王、自分たちの悪口でもいいの?怒らない?不敬だ!!とかさ。」

    試すようにミズキに言われて、ああ、やはり国民には良く思われていないのだろうなと察したオレは頷いた。

    「ああ、怒らないと誓おう。だが、もしオレが怒りそうになったら全力でお前たちに止めて欲しい。だから一緒に来てくれないだろうか?」

    じっと三人の顔を見たオレに三人は目を合わせ、頷いた。

    「決意は揺らがないのですね?」
    「ああ。」
    「ではお供します。」

    ルイの言葉に頷けば、ルイが微笑み頷いた。
    それにほっと息を吐き、ならば頼むと頭を下げた。

    「愛称を決めよう。ルイはロゼ。アキトはラディ。ミズキはティオだ。オレはマイルス。オレが王子だとバレないように呼んで欲しい。つまり敬語はなしだ。様付けも不可。」
    「きっちりしてるねぇ、ツカサ様。了解したよ。」

    ルイは何とも複雑な顔をしていたがいいな?と押しきった。
    渋々、了承をしてくれたルイとタメで話せる事に内心喜びつつ、行く日を決める。
    その日は前以て先生には来て貰わない約束をして、サキたちにも内緒で少々の銅貨を持ち離宮を出た。
    これは子どもが金貨と銀貨を持ち歩くなどとルイに言われた為だ。
    グラデが掛かった金髪は王室の証の為、髪はミズキに黒く染めて貰った。
    子どもの足では街は少々遠いが、まあ行けなくはない。
    そしてルイたちを連れて、オレは街へと降りた。
    活気がある街。そうか、こんなに活気があったのかとオレは初めて気付いた。
    オレはこの国を駄目にしたんだと思うとずーんと気分が沈んだが、今度はこの国を守りたいと改めて思う。
    ぶらぶらと街を視察していく、その際にミズキやアキトのあれが美味しい。これが食べてみたいと言う言葉に着いてきてくれた礼も兼ねて報奨としてそれを買う。
    ルイにも何か報奨をと言ったがルイがいりませんと首を横に振ったため肩を落とす。
    そんな中で、ふと目に入ったのは懐中時計だ。

    (きっとこれはルイに似合うだろうな…。ルイにプレゼントしたい、だが、今回の手持ちでは買えないな。)

    少しだけ落ち込んだが、また別の店頭にある一輪の薔薇が目に入る。これなら手持ちで買える。

    「この薔薇を一輪くれませ…っ!」

    これをルイにと思い、店主に声を掛けた所で、お金が入った巾着をスられる。相手はボロボロの服を纏った子どもだ。そのまま子どもは駆けて行く。

    「待て!!」
    「ツカっ、マイルス様!?」
    「ちょっ、ツっ、マイルス様、待ってよ!!」
    「ツカ、マイルスさん!!あぶねぇって!!」

    衝動的に子どもを追いかけて、暗い道へ迷い込む。
    その子どもは路地に倒れ込んでいる女性に近づいた。
    お母さんと言う声が聞こえ、子どもはお母さんと揺さぶる。だが、どうやらこの母であろう女性はもう息をしていない。

    (ここ、は…?)
    「ツカサ様、帰りますよ!」
    「ツカサ様、ほら、早く!お金は諦めて!」
    「ツカサさん、此処、本当にあぶねぇから!ツカサさんみてぇな服着てる人間は格好のカモだ!」

    ルイたちに身体を引っ張られる。だが奥を見れば、壁に持たれて眠っているボロボロの服を着た国民たちの姿。

    (…そうか、此処が貧民街、なのか。)

    ぐっと拳を握る。此処を父上は見ない振りをしているのか。
    そう言えば、母上は貧民街にも必死で何か行えない事が無いかを考えていたな。
    だが、先ほどの子どもを放っておけない。あの子どもの親はもう…。
    教会に連れて行ったら、牧師様が何かしてくれないだろうか…と考えたため、先ほどの少年に近づいた。
    ツカサ様!!と言う焦った三人の声が聞こえたが、オレは少年に手を差し伸べていた。

    「君。もう君の母君は亡くなっている。だから、ほら、君はオレと一緒に来ないか?」
    「…え、」

    少年は目を丸くした。少年は暗い目をしていたがオレの手を取った。
    そのまま少年を連れて教会へやってくる。

    「牧師様、申し訳ない。」

    オレの声を聞いて、牧師である彼は目を丸くした。

    「ツカサ様!?何故そのような格好をなさって…、と、ルイにアキト、ミズキも居ますね?」

    お久しぶりですと三人は頭を下げる。

    「この格好の理由は聞かないで欲しいのだが、どうか牧師様。こちらでこの少年を預かってはくれないだろうか…?」

    そう言って手を引いていた少年。名をレンと言う彼を紹介する。

    「少し理由があってレンを保護したのだが、オレのこの格好が理由で城へ連れて帰れそうになくて。また近い内に必ずや、この少年を迎えに来るのでどうか。」

    じっと牧師様を見て、頭を下げる。
    牧師様は畏まりましたと朗らかに笑った。
    何も聞かないでいてくれる牧師様には頭が下がる。

    「レン、必ず迎えに来るので、少し待っていて欲しい。それまでは此れをお前に預ける。」

    そう言って着けていたブローチをレンに渡し、小指を立てた。
    約束を交わし、今一度牧師様を見上げ、頭を下げた。

    「牧師様、どうかよろしく頼む。」

    柔和に微笑み頷いてくれた牧師様に今一度頭を下げ、挨拶して教会を後にした。

    「全くツカサ様は何を考えているのですか…。」
    「そうだよ、ツカサ様。命、落としてたかも知れないんだよ?」
    「今回は本当に運が良かっただけだからな、ツカサさんの。肝に銘じとけよ!」

    後ろを歩きながらくどくど三人で一緒に説教をされて笑いながらすまんと謝った。
    この時間が愛しい。失いたくない。
    そろそろ離宮に帰るかと声を掛ければ、ふと耳に入ってくる噂話。

    「また税があがるのよね。」
    「そうらしい。」
    「この国を王は本当にろくでもないわ。民のことを考えていないのよ。傲慢なのよ。いつか刺されるわ。」
    「第一王子も我が儘なのだろう?この国の行く末が心配だな。」

    それに思わず立ち止まる。
    ルイたちが早く行きましょうとオレにこの話を聞かせないようにしている。
    ああ、やはりか。国民たちはオレたちに不満を持っている。

    (ならば、オレがこの国を変えてみせる。やはりあの男は王の資質ではないのだ。)
    「ルイ、ミズキ、アキト。オレは大丈夫だ。オレが国を変えてみせる。皆が笑って暮らせるような国にしてみせる。」

    城の付近に帰ってきた時に三人の顔を見てはっきりと告げた。
    三人は顔を見合せて何処までも貴方に付いて行きますと頭を垂れてくれた。

    (そして、何れは。)

    じっとルイの顔を見た。

    (ルイと必ずや共に過ごすのだ。)

    それから数日。今度はかの小国への旅路を父上に願い出た。
    知見を広げる為だと言えば、頷くしか無かったらしい、オレはルイたちを連れてかの王室へと向かったのだった。

    「初めまして、スマイル王国の第一王子のツカサと申します。この度は私の為に貴重な時間を取ってくださり誠にありがとうございます。たくさん学ばせて頂きたいと思っております。」

    この国の国王に頭を垂れる。
    気難しそうな国王は頷いてくれる。

    「トウヤ。」
    「はい、父上。」

    国王が末の王子を呼び、末の王子が姿を現す。

    (ああ、彼だ。彼がサキに求婚した王子。そして、サキが命を落とすことになった理由だ。)

    まさかこのタイミングで接点が持てるとは思っていなかった…。

    「年の頃も近いだろう、お前がツカサ王子の接待をしろ。」
    「はい。」

    頭を下げた王子ことトウヤがオレの方を振り向き、よろしくお願い致しますと話す。
    オレはよろしくと手を差し出せば、トウヤは手を握り返してくれた。そんなじっとトウヤの顔色を見る。

    (表情が随分と暗い。そして指先も冷たいな…。)

    それが気になったのだ。だからオレはあの手この手でトウヤと仲良くなろうとした。
    どうにかトウヤを笑顔にしたかった。
    最初は戸惑っていたトウヤだが、段々とオレに笑顔を見せてくれるようになった。話す内にトウヤの純粋で真面目な心を知った。

    (こんなトウヤが人を呪うなんて考えられん。これもからくりがありそうだ。)

    それも調べた方が良いかも知れんと思った。
    それを調べつつ、勉強して、この国について一つ一つ知っていく。それを勉強とは別にまとめ、利点を書き出す。

    (これだけあれば、あの男にサキとトウヤの結婚を認めさせれる。)

    だがたまたまオレは見てしまう。

    (あれは、トウヤとアキトか?)

    二人は大変楽しそうに笑っており、おやと首を傾げる。
    アキトは分かりやすいが、トウヤの表情がまるで…。

    「あれさぁ、アキトくん、絶対トウヤ様が好きだよねぇ。」
    「ミズキ。」
    「いや、それを言ったら恐らくトウヤ様も同じ気持ちだと思いますよ。トウヤ様のアキトくんを見ている瞳に熱を感じます。」
    「ルイ。」

    オレの横に立って面白そうに目を細めるミズキと口元だけで微笑むルイ。

    (前と変わって、いる…?そうか、前はこの国に訪れたり、トウヤとも親しくなっていない。それにアキトやミズキ、そしてイチカたちも居なかったからな。)

    それが良いことなのか悪いことなのか、今のオレでは分からない。だが、こうなるとサキとトウヤの結婚も無くなるだろうな。
    それならサキが命を落とす心配もないのかも知れない。
    だが、絶対同盟は組んでおくべきだ、この国と。
    だが父上には任せたくない。どうするべきだ…?
    此処で考えても良い案は浮かびそうにない。だが…。

    (トウヤもアキトも幸せそうだ…。)

    あの笑顔を奪いたくない。そう思い、オレはルイとミズキを連れてその場を離れた。
    この国の滞在も本日で終わる。明日には自国へと戻るのだ。それなら、この国の市場を覗いておきたい。
    そう願い出れば、直ぐに馬車の準備をされて、市へと連れて来て貰った。
    この街の市は活気が有るわけではないが、質がいいことは直ぐに分かった。
    流石腕利きの職人たちが多く居る国だ。
    そして件の宝石。これも大変美しい。澄んだ深い蒼。まるで海のような美しい色だ。

    (確か、別の大国の王子がこの宝石を使った結婚指輪で注目を浴びた筈だ。拵えが美しく職人技が光り、宝石も大変美しかったから。)
    「…本当に美しいな。」

    出来れば前も見たかった。
    まあそんな事を言っても仕方ない。今回は見れたのだから良しとしようではないか。
    そして、ふと横を見れば。

    「…これは。」

    シンプルだが大変美しい拵えが施されている懐中時計。時計の蓋には小さな件の宝石があしらってある。

    (ルイにプレゼントしたい。受け取ってくれるだろうか…。国の街で見た物も良かったのだが。)

    今回は買える。だが…。

    「どうかなされましたか、ツカサさん。」
    「トウヤ。あ、いや…、」

    じっと懐中時計を見ている事が気になった様子のトウヤに話し掛けられる。

    「この時計のある人にプレゼントしたいのだが、受け取ってくれるのかと思ってな…。」
    「そのある方はツカサさんが思慕している方なのですか?」
    「!」

    まさか言い当てられるとは思わず、目を瞬く。

    「…鋭いな。」
    「あ、いや。そう言う訳ではないんです。今回は偶々…。」

    下を向いてしまったトウヤに今度はこちらがどうした?と問い掛ける番だ。

    「…俺も最近自覚をしたので、ツカサさんと立場が同じだから、気付けたと言うか…。」

    ツカサさんが思慕をしている方も身分差があるんですよね。と確信を持ったように問い掛けてくるトウヤには叶わないと思った。

    「…ああ、実はそうなんだ。」
    「やはり。因みにそれはルイさん、でしょうか?」

    まさか言い当てられるとは思っておらず、また目を丸くした。

    「良く分かったな…?」
    「あ、これも偶然、なんです。ツカサさんがルイさんを見ている顔が愛しさと辛さが混ざった顔をしていたから。俺が…。」

    押し黙ってしまったトウヤにアキトの事かとふと思う。

    「続くのはアキトに感じる感情と似ているから。か?」
    「…え、どうして…?」
    「オレもお前とアキトの様子を見ていたからな。」

    驚いたように顔を上げたトウヤにオレも返す。

    「…そうだったんですね。」

    申し訳ありません。貴方の従者に俺は何て感情を抱いてしまったんでしょうか。泣き笑いのような自嘲を含んだ笑みをトウヤは浮かべる。

    「いや、トウヤは悪くない。その感情は決して悪じゃないんだ。恋なんて理屈じゃないだろう?」
    「…ツカサさん。」

    潤んだ瞳のトウヤに微笑みかける。

    「だが、そう言うと言う事はアキトが何かしてしまったか?」
    「…俺が悪いんです。アキトに明日でお別れだからと告白したんです。決してどうこうなりたいと言う気持ちではなくて思い出の一つとして。俺が自分の気持ちを整理する為にしたんです。俺は第三王子だから、王位を継ぐことはありません。ですが何処かの大国の姫に婿入りすることになるでしょう。」

    トウヤ曰く、好きだと告げた瞬間アキトは何とも複雑な顔をしたらしい。
    そして、フるでもなくこの告白劇自体を無かった物にしたらしい。聞かなかったことにする、だからトウヤ様も告白なんかしてない。そうだろ?と。
    そりゃあそうだろう。アキトはトウヤを好きなのだから。
    此処でアキトがトウヤをフれば、これで終わってしまう。恐らくアキトは分かっているのだ、自分はどう頑張ってもトウヤと結ばれない。そして、フッたらトウヤは自分を忘れると。だから、少しでもトウヤに爪痕を残したいのだ。前のオレと良く似ている…。
    少しでもルイに爪痕を残したかったオレと。
    アキトがトウヤをフらずに聞かなかった事にした理由、それは何れ何処かの国へ婿入りするトウヤの心にずっと自分が居たいからだ。
    アキトは一途な奴だから、きっと一生トウヤを好きだ。そして多分、純潔を守るんじゃないだろうか、結婚もしないだろう。それはあまりにも辛すぎるだろう…。
    ズキッと自分の心臓が痛む。どうにかアキトとトウヤを幸せにしてやれないか。以前はトウヤとサキだったが…。今回は…。
    そしてオレは覚悟を決める。オレの今の考えを…。

    「…トウヤ、途方もない話だが、少し聞いてくれないか?」
    「?」

    従者も付けずに場所を移してトウヤに話す。
    あり得ない話だから、従者にも聞かれたくなかった。
    これが後程、また一つの危機に対しての意識改革を起こさせる事をこの時のオレはまだ知らない。

    「…先ず前提として、オレは一度死んでいるんだ。そして今、人生をやり直している。」
    「…え?」
    「信じられないだろうが事実なんだ。」

    トウヤが唖然とした顔をしてオレを見た。
    そりゃそうだろうなと苦笑する。
    一つ一つ、今と前の違いについての話をする。
    トウヤは驚きながらも真剣に聞いてくれて、息を吐き出した。

    「そして此処からが本題なんだが、」

    自分の国を立て直し、革命を起こそうとしていることを告げた。

    「オレが王になった暁にはトウヤとアキトを何とかしてやりたいと思っている。だから、どうか、オレに協力をしてはくれないだろうか…?」
    「…。」

    トウヤの顔をじっと見た。

    「…分かりました。是非、協力をさせて下さい。ツカサさんの革命に。」
    「トウヤ、感謝する。」

    誠心誠意頭を下げた。あ、いえとトウヤが顔を横に振ったところで、周りの視線にハッとした。

    「…囲まれています、ね。」
    「だな。人攫いだろうか…。」

    王子が二人、従者も付けずに話していた為、格好の餌食だろう。

    「トウヤ、走れるか。」
    「ええ。行けます。」

    相手の隙をついて、トウヤと共に走り出す。
    此処より人が多いところ、ひいては近衛兵たちのところへ何としても逃げなくては…。
    必死に駆ける。息が上がる。瞬間、トウヤが何かつまづいて転けてしまった。

    「トウヤ!!」

    慌てて駆け寄り、走れるかと問うがそれより先に先程自分達を囲んでいた人攫いたちに囲まれてしまう。
    手間取らせやがってと言う声がする。
    万事休すかと思いきや、目の前にはネネの姿。

    「ネネ…?」
    「大丈夫ですか、ツカサ様、トウヤ様。」

    微笑んだネネはメイド服の裾を捲り上げ、太ももに付いていたのは…。

    (小型銃!?)

    そのまま周り男たちの肩を撃ち抜いていく。
    大立ち回りをしたネネに男たちがふらふらと逃げて行く。

    「麻酔銃です。直ぐに倒れてこの国の騎士団に捕まるでしょう。騎士団には連絡をしたので。」
    「ネネ、お前そんなに強かったのか…?」

    初めて知った事実に唖然とするオレに、ネネはオレとトウヤの前にしゃがみこむ。

    「わたしは王妃様に拾われた身ですから。王妃様にいざというときはツカサ様を守れと命を受けています。」

    その事実は初めて知ったんだが…?
    そしてオレはネネが実は母上付きの侍女でかつ母上の手足として諜報活動をしていることを後程知ることになる。
    もしかして前もそうだったのか…?
    だから母上は毒を盛られることも知っていた…?
    前は侍女の顔など覚えていなかった為に、前にもネネが周りにいたのかを覚えていない。いや、オレ、本当にダメすぎないか?

    「ですが、従者も付けずにあの様な事をするのは感心致しませんよ、ツカサ様。」
    「…え、あ、もしかして、」
    「申し訳ありません、お話は聞いておりました。ツカサ様が急に変わられた理由も納得致しました。どうかわたしにも一枚噛ませては頂けませんか?」

    微笑んだネネにオレは思わず頷いていたのだった。
    そんなこんなで結局懐中時計も買えずにそのまま城へ戻ったオレは協力者を得て、少しだけ肩の荷が降りた気がした。

    (だが、いつまでもネネに守って貰う訳には行かないだろう。オレも強くならねば。)

    此れがオレが宮殿の剣の稽古を受ける事になったキッカケだ。
    そして身分を隠した上で騎士団に入団するのはもう少しだけ未来の話。
    知恵も付け、肉体も強くなれば格段にオレの生存率は上がる事になる。
    オレの今の目標は父王に王座を降りて貰い、国を立て直し、そしてルイと共に天寿を全うする。それだけだ。

    そして無事に国へ帰ってきて直ぐに言われていた舞踏会が行われた。
    トウヤとも再会し、そして次の段階へ。

    「…では俺は次はサキさんと求婚すればいいのですか?」
    「ああ、将来は必ずアキトと結ばれるようにするし、取り敢えず形だけでもトウヤの国を繋ぎ止めて起きたいんだ。何としても。同盟はオレが王になってからにする。父王には任せたくない。」

    形だけでサキとトウヤを婚約させて、国同士の繋がりを強固にしておきたい。
    その事をトウヤに話せば、トウヤは直ぐにサキに求婚をしてきてくれた。
    父上はやはりこの婚約を切ろうとしたのだが、そこはオレがまとめた利点に沿い、認めさせた。
    実際オレ本人が国へ行って見てきた物なのだから、頷かざるを得なかったらしい。
    晴れて婚約者となったサキとトウヤにサキの死を回避できた事に安堵する。
    だが、何故サキが以前は呪われたのかの理由は未だに分かっておらず、もやもやとするが、今はどうすることも出来ない。

    それから月日は流れ、オレは14になっていた。
    変わらずにルイたちは傍に居るし、トウヤとも良好な関係を気付けている。
    トウヤとサキも以前として婚約者のままだ。
    一つ変わったとすれば、レンもきちんとオレの従者にしたことだ。
    そしてオレは身分を隠して、髪も染め、騎士団への入団を決意したのだった。
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