Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ふゆふゆ

    @prsk_18_3L

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🌟 🎈 🐈 🐕
    POIPOI 43

    ふゆふゆ

    ☆quiet follow

    大変お待たせ致しました。
    中白🌟🎈シリーズの主軸の全年齢版です。
    後編と最終話は同時に公開です。
    こちらは後編、顔合わせ食事会から式前日までのお話です。
    エロ有り全編は支部でご覧になって下さいませ。

    君と永遠の愛を誓う前に 後編正月が過ぎて仕事が始まった。

    「いよいよ、明日だね。」
    「顔合わせな。」

    夕食後の茶を飲みながら、白藤が不安そうに大丈夫かな…と呟く。

    「まあお義母さんと俺の両親は気難しいタイプではないが…。」
    「…不安要素は僕の父さんだよね。ごめんね、面倒臭くて。」

    少しだけ言い淀んだ中山に白藤は額に手を当てて、小さくため息を吐く。
    あれは中山の自業自得だが挨拶時に結婚させんと言い、それに白藤は反抗して半分喧嘩の様になった事が一つの不安要素ではある。

    「いや、お義父さんが類が可愛くて仕方ねぇのはあれだけで分かったしな。酒付き合ってる時も大半は小さな頃から今でも類の何処が可愛いかだったぞ。まあ俺としては類の小さい頃の話が聞けて楽しかったが。」
    「あれは父さん余計な事言い過ぎだよ。」

    言われた事を思い出した白藤は口元を押さえて顔をほんのり赤らめた。

    「個人的にはご近所や果ては出掛けた際に道を聞かれた外国人観光客に天使って言われてた事が面白かったな。」

    まあ類が小さい頃から天使のような愛らしさと可愛さを持ってた事はよく分かる。今度は類の小さい頃の写真見せて貰いてぇなと中山はくっくっと笑う。

    「あと面白くなかったのはまあ百合子と小さい時は一緒に風呂に入ってたとかだが。だから結婚するなら結局は百合子ちゃんになると思ってたって話な。」
    「司くん、顔。」

    あからさまに機嫌が悪くなった中山に白藤が止める。

    「あれはちゃんと止めたでしょ?司くん笑顔引きつってたから。まあ父さんは気付いて無かったけど。」

    まあそれだけ司くんの表情作りが上手かったからなんだけど。と苦笑する白藤。

    「言っとくけどあれは本当に小さい時の話だよ、百合子が幼稚園で僕が小学1年の頃の話だし、僕も百合子も本当に一回もお互いを異性として見たことないんだから。」
    「まあそれは百合子とも話して分かってるが、面白くはねぇんだよ。」

    唇を少しだけ尖らせた中山にそんな拗ねないでよ、司くんと白藤はまた苦笑したのだった。

    「どうしたら機嫌直る?」
    「抱き締めさせろ。」

    腕を広げた中山に仕方ないなぁと白藤も中山の腕の中へ。
    むぎゅむぎゅと白藤を抱き締める中山にもーと言いながらも白藤は大人しく抱き締められたまま。
    その瞬間、白藤のセーターの中に中山の冷たい手が入ってきて、首筋に顔を埋められ吸われた。

    「んっ、ちょっと司くん今日はダメ!!約束したでしょ!!」
    「ちっ。」

    舌打ちをした中山に舌打ちしてと今度は白藤が頬を膨らませたのだった。



    土曜。仕事は一時間程早上がりをさせて貰った。
    迎えに来たスーツを着た中山の車に乗り込む。

    「お帰り類。ほら、上着。」
    「うん。ただいま司くん。ありがと。」

    差し出されたスーツの上着を受け取り、カーディガンを脱いだ白藤がスーツを着直している時に携帯が音を立てる。
    しっかりスーツの前を止めて、白藤は携帯を見た。

    「母さんたち、今東京に着いたって。」
    「なら急がねぇとな。お袋たちもさっき店に着いたって連絡来たんだ。けどこのまま院のバス停に咲希迎えに行くぞ。」

    そのままタクシーでお店に行ってとメッセを打つ白藤が料亭の名前と住所を送って顔を上げた。

    「お義母さんたち予定よりちょっと早かったんだね。」
    「ああ、前倒しで行動したみてぇだ。まあ俺の方は福岡で飛行機だからな。天気は荒れてねぇけど、来れなくなっても困るって思ったんじゃねぇかな。」

    まあお袋たちは店の前で待ってて貰ってる。と中山は横目で白藤を見た。

    「待たせちゃってるの?それは不味いね…。店に入ってて貰う方が良かったんじゃ。」
    「いや、親父が大分緊張してるらしい。多分先に入ったら酒に逃げるだろうってお袋も分かってるから了承してくれた。潰れたら元も子もねぇしな。」

    不安そうな顔をした白藤をフォローした中山にあー…と白藤は苦笑した。

    「それに咲希も心配だし、俺に迎えに行けってよ。まあ時間によっては迎えに行くつもりだったが。」
    「なるほど。駅から料亭までは30分程掛かるからギリギリかな、此処から咲希ちゃんの大学が15分程だもんね。」
    「ああ。」

    だから、法廷速度に引っ掛からねぇ範囲で飛ばすぞと中山はアクセルを踏み込んだ。
    咲希の院の最寄りのバス停に着けば、咲希がこっちこっちと言わんばかりに手を振っている。
    スムーズに路肩に車を停めた中山が後部座席の鍵を開ければ、何時もよりスーツに近い綺麗めな服を着た咲希が後部座席に乗り込んで来た。

    「お兄ちゃんお迎えありがとー!るいお義兄ちゃんこんばんは!」
    「こんばんは咲希ちゃん、勉強お疲れ様。」
    「るいお義兄ちゃんもお仕事お疲れ様!」

    ありがとうと微笑む白藤に咲希がえへへと笑う。

    「咲希シートベルト大丈夫か?」
    「うん!」
    「なら少しだけ飛ばすぞ、お義母さんたちが来るまでには着いときてぇからな。」

    はーいと返事をした咲希を確認して、中山はアクセルを踏み込んだ。
    料亭に着き車を停めて、車から降りる。
    入口には着物を着ている中山の両親が立っていた。
    どうやらギリギリ白藤の両親が着く前に辿り着けたらしい。

    「お母さーん!お父さんも東京にいらっしゃーい!!」
    「咲希、数日ぶりっちゃね。」

    咲希が母へと抱きつき受け止めた母の会話で里帰りをしていた事が分かる。

    「お久しぶりです。お義母さん、お義父さん。」
    「類さんもゴールデンウィークぶりっちゃね!元気しとった?」

    柔和に微笑んだ中山の母にええと白藤が微笑む。

    「いや、親父、どんだけ緊張しとーと?」
    「しぇんほうが無理っちゃろ!!類さんのご両親に逢うんやぞ!?」

    ガチガチの父に中山が呆れた顔を向ける。
    噛みつくように返した父に中山は肩を竦めた。

    (やっぱり司くんとお義父さん良く似てるな。)

    自身の実家に挨拶に行ったときの中山と今の中山の父の状態は良く似ており、白藤は思わずくすっと笑みを溢していた。
    そんな緊張しないで大丈夫ですよと白藤がフォローを入れた所でタクシーがこちらへと向かってくる。
    中山たちの傍で止まったタクシーから着物姿の白藤の両親が出てきた。

    「こんばんは、遅なって堪忍な。」

    苦笑した白藤の母に白藤は大丈夫やと返す。
    そして自身の父の顔を見た白藤も先程の中山と同じ様に呆れた顔をした。

    「いや、父さん。顔ガチガチやん。緊張しとんの?」
    「そうやねん、東京が近づく度にこの状態になっていったん。ちょお遅れたんもお父さんが緊張して乗り物酔いしたからなんやわ。」

    また苦笑した母、白藤は顔がまだ少し青くガチガチに固まっている自身の父に更に呆れた顔をする。
    因みに中山の父はそんな白藤の父の顔を見て仲良く出来そうだとぼんやりと思っていた。

    「改めてこんばんは。初めまして中山さん。類の母どす。よろしゅうたのんます。」
    「こちらこそ、初めまして白藤さん。こんばんは。司ん母ばい。よろしゅうお願いします。」

    しずしずと頭を下げた白藤の母に中山の母も頭を下げ返し、手を差し出した。その手を握り返した白藤の母。
    それに両母共にお互い微笑んだ。

    「そちらは?」
    「初めまして白藤さん!司の妹の咲希と言います!兄がお世話になっております!」

    白藤の母が小首を傾げて咲希に問い掛け、咲希も頭を下げて笑う。

    「ほうなん。咲希さんも初めまして。よろしゅうね。」

    微笑み返した白藤の母は咲希の態度に好感を持ったのだった。

    「あー、私は司の父になる。よろしゅう。白藤さん。」

    頭をかいて後頭部に手を当ててぺこぺこと頭を下げた中山の父に白藤の父もハッとした顔をした。

    「こちらこそすいませんなぁ。私は類の父になります。よろしゅう中山さん。」

    つられてぺこぺこと頭を下げた白藤の父は此処で何となく中山の父と話が合いそうだと思った。

    「挨拶も終わったので、店に入りましょう?」

    白藤が全員に声を掛けた。
    店内に入れば仲居がこちらへやって来た。

    「予約した中山です。」
    「ああ、中山様ですね、ようこそおいで下さいました。お部屋に案内しますね。」

    先頭に立った中山が仲居に声を掛けて、仲居が柔らかに微笑んで、個室へと案内してくれる。
    ではお料理を運びますねと微笑んだ仲居が一度襖を閉めた。
    ビールとソフトドリンクと料理が乗った膳が運ばれてきた。
    両家並んで頭を下げ、中山がグラスを持って、音頭を取る。
    乾杯と言ってグラスを合わせてから、顔合わせ食事会が始まった。
    上手く中山と白藤が間を取り持って徐々に話も盛り上がってくる。
    気がつけば両家はきちんと打ち解けたらしく、母同士の所に咲希。父同士も自然と雑談をしていた。

    (うん、大丈夫そう。良かった。)

    そんな様子を眺めてほっと息をついた白藤。
    中山はそんな白藤に気付いて声には出さず、口だけで良かったなと微笑んだ。
    そんな中山に白藤もふわりと笑って頷いた。
    数時間の食事会が終わり、料亭を出た両家は店の前で今一度話し出す。

    「白藤さんが良かったらもう一件行かんか?」
    「ええですね!」

    父たちはまだ飲むようだ。

    「あー、親父たちが心配だから俺が着いていくわ。類とお義母さんは先に帰ってください。俺、ザルですしね。よっぽどの事がないと酔いませんから。」

    本日は白藤の両親が家に泊まり、中山の両親は咲希の家に泊まることになっているのだが。

    「あ、ならお兄ちゃん!お父さんたちが飲む間、みもざちゃんとすみれちゃんに会いにお兄ちゃんとるいお義兄ちゃんの家に行ってもいい!?もう少しるいお義兄ちゃんとお義母さんとお話したいし!」
    「咲希、」

    目をキラキラさせた咲希を止める母だったが、そりゃまあいいけどな。と中山が頭をかいて白藤を呼んだ。

    「類。」
    「何?」
    「親父たちがどんくらい飲むか分かんねぇから、時間見て、咲希の家にお袋と咲希を送っていってくれねぇ?」
    「うん、いいよ。大丈夫。」

    微笑んで頷いた白藤に類さんごめんねと中山の母が謝る。

    「いいえ、全然構いませんよ!母さんもええやろ?」
    「おん、大丈夫よ。私もまだ中山さんと咲希ちゃんとお話してみたいわ。」
    「母さんもこう言ってますし、是非。」

    申し訳なさそうな中山の母はありがとうと礼を言って微笑んだ。

    「じゃあ類、頼んだ。」

    白藤に車のキーを渡した中山からキーを受け取れば、中山は父たちを追って駆け出す。
    白藤が車に案内した。
    鍵を開ける前に白藤が咲希に問う。

    「咲希ちゃんが助手席に座る?」
    「うん!」
    「了解。」

    鍵を開けて母二人と咲希を促して、三人が乗り込んだのを確認して白藤も車に乗り込む。

    「シートベルト大丈夫ですか?」

    全員に問い掛けて頷いたのを確認して、じゃあ発進させますと白藤が微笑んだ。

    「そう言えばるいお義兄ちゃんの運転する車には初めて乗るかも。」
    「基本的に運転は司くんだからね。これも司くんの車だし。」

    咲希の言葉に白藤がくすっと笑う。

    「それに司くんの方が僕より運転が上手いからね。あ、でも僕もちゃんと安全運転だから安心して。ちゃんとゴールドだから。」
    「お兄ちゃんがゴールドなのは知ってたけど、るいお義兄ちゃんもゴールドなの!?凄い!!」

    拍手した咲希に白藤がまたくすり。

    「るいお義兄ちゃん、美人だしスタイル良いし頭良いし優しいし器用だし料理上手だし気遣いも上手で、免許もゴールドって本当にハイスペックだよね。出来ない事ないんじゃないの?」
    「んっふふ、それ司くんにも良く言われるけど、出来る事だけだよ?同じ事言うんだから、やっぱり咲希ちゃんは司くんの妹だね。」

    くすくす笑う白藤にだってるいお義兄ちゃん本当にハイスペックなんだもん!と言う咲希にありがとと微笑む。
    そんな咲希と白藤のやり取りに母たちは顔を見合わせて目を細めたのだった。
    車を車庫に停めて、エンジンを切った白藤が着きましたと言い、自宅の方へと上がる。
    中へ入り、ミモザとスミレを出した白藤は暖房とホットカーペット、テレビを点けてお好きな所で寛いで下さいと微笑む。

    「お茶用意するので。」

    手を洗ってお茶の用意を始めた白藤に手伝おうかと母たちが言うが大丈夫ですと言い、遠い所から来て貰ってるのでゆっくりして下さいとやはり微笑む。
    咲希がみもざちゃんすみれちゃん、あたしと遊ぼ!!と2匹に声を掛ければ、スミレは今一番のお気に入りのおもちゃであるクリスマスプレゼントを咲希に差し出す。

    「すみれちゃん、おもちゃ持ってきてくれたの!?賢いね!!」

    ナデナデされたスミレは誇らしげににゃあと鳴いた。
    咲希が2匹と遊び始めたのを見て、白藤はくすっと笑ったのだった。

    「類さんはほんなこつ司には勿体ない良か子っちゃね。」

    小さく呟いた中山の母に白藤の母は司さんも誠実で真面目な方やと私は思いましたよと返す。
    驚いたような中山の母は挨拶に来た時に話された話を軽く話す。

    「私らに今まであった事を不利になるんも厭わずしっかり話した上でなお結婚させて下さいって仰ってくれて、まあ私は類が司さんと一緒に帰ってきた時点でこの人やったら類任せてもええわて思いました。」

    司さんと帰って来た類は今までで一番幸せそうやったと白藤を慈しむように見た白藤の母にそれは私んとこもやと中山の母は返す。

    「うちのバカ息子は学生ん頃はほんなこつ不誠実に過ごしとったっちゃけど、」

    そこまで息子が追い詰められているのに私らは何も出来なかったと目を伏せた中山の母。

    「初めて結婚したい思とる相手やって類さん連れて帰って来て、」

    帰って来た息子は今までで一番落ち着いていて、幼い頃の息子を思い出した。
    そしてまた東京に帰る日の朝に白藤と一緒に帰って来た息子は憑き物が落ちたかのようにスッキリした顔をしており、ああ、やっと本来の息子の性格が戻ってきたんだと確信した。
    それは白藤が傍に居る事に他ならず、きっと息子にとって白藤は唯一無二の存在なのだと確信したと話す。

    「類さんは司にはほんなこつ勿体ない相手っちゃけど、司には類さんしかおらんと思とると。」
    「中山さん…、」

    白藤の母は中山の母を呼び、そんなんうちもですわと返す。

    「類は昔っから恋愛運が悪ぅて、傷ついたんも数知れずなんです。やけど、お父さんと喧嘩してでも絶対司さんと結婚するんやって返して、反抗したんどす。」

    反抗する程中山の事が好きなんだと確信して、その後に話しても息子本人も中山しかあり得ないと思っているんだと思ったと同時に、きっと中山は何処までも深く愛情を息子に注いでいるのだとも確信した。
    今までの相手に息子の深い愛情に釣り合うだけの愛情を息子に返してくれていた相手などいなかった。

    「類は昔から何処までも人に尽くすタイプなんやけど、類の様子から司さんはそれを全部受け止めて、その上で愛情を返してくれとんやなって思て、類には司さんしかおらんわと思たんどす。」

    そうなのかと返した中山の母にええと白藤の母は微笑んだ。

    「どっちにとってもそう思うとやったら、きっと二人は運命っちゃね。」
    「私もそう思います。」

    お互いに今一度微笑みあった母たちに白藤がお茶どうぞと声を掛けた。

    「類さん、ありがとうね。良かっちゃん、司との馴れ初め聞かせて欲しいっちゃ。」
    「あ、アタシも聞きたーい!!」

    ミモザとスミレと遊んでいた咲希が目を輝かせた。



    大衆居酒屋に入った中山と父たちは個室に案内された。

    「取り敢えず一杯目は」

    ビールだ!!とハモった父たちに中山はいや仲良くなりすぎだろと呆れた顔をする。
    店員にビールを頼んで運ばれてきたビールで乾杯してぐっと呷る。
    美味いという言葉もハモった父たちは話し始める。
    それを聞き流しながら、父たちを見守った。
    料亭で飯を食べてきたにも関わらず色々頼む父に大丈夫かと心配になりつつやはり見守る。
    話が弾んでいる父たちのストッパーを時々しつつ、中山も度々相づちを打つ。
    大分父たちの酔いが回り始めた頃に白藤の父が泣き出し、中山はぎょっとする。

    「お義父さん?大丈夫ですか?(お義父さん泣き上戸だったのか…。)」
    「司くん!!」

    がしっと両肩を掴まれ、中山は目を白黒させた。

    「類を俺の可愛い類をほんに幸せにしたってな…!!実際司くんの親である中山さんに会うて、類がホンマに司くんの嫁に行ってまうんやと思たら涙が…、」

    更にボロボロ泣き出した白藤の父。

    (お義父さん、本当に類が可愛くて仕方ねぇんだな…、分かってたが…。)
    「ええ、俺の持てる力を全て使って類を幸せにします。」

    しっかりと頷いた中山に中山の父が同意するように大きな声を出す。

    「白藤さん!!気持ちは分かると!!類さんは司に勿体なかくらいええ子っちゃ!!ほんなこつうちのバカ息子の嫁に来てくれるんは奇跡と!!」
    「うるせぇよバカ親父!!類が俺なんかには勿体ねぇ相手っつーことは俺も自覚してんだよ!!」

    父の言うことにカチンと来た中山が父に振り向き怒鳴り返す。

    「それでも俺には類しかいねぇんだよ…。類じゃねぇと駄目なんだよ、俺は…。」

    その後にぼそっと呟いた中山の言葉はきちんと白藤の父の耳に届いていた。

    (司くんはホンマに類を愛してくれとる。司くんやったら類を絶対幸せにしてくれる。)
    「…司くん、類と出会うてくれてホンマにありがとう…。類を愛してくれてありがとうな…。」

    ボロボロと泣きながら微笑んだ白藤の父に中山はしっかりと目を見て返す。

    「俺こそ類と出会わせてくれて本当にありがとうございます。俺は挨拶した時にもお話したように類を沢山傷つけました…。だけど、そんな駄目な俺に大事な一人息子である類を任せて下さって、本当にありがとうございます。」

    類は必ず幸せにすると誓います。
    結婚を許して下さり、誠にありがとうございます。
    両手をついて頭を下げ、また父の顔を見てきた中山の目は真っ直ぐで誠実で、中山なら息子を本当に大事にしてくれると白藤の父は確信する。

    「よろしゅう、司くん。」

    そんな息子と白藤の父とのやり取りを見守っていた中山の父は自然と笑みが溢れていた。
    今の息子は幼い頃の息子だ。
    勿論高校から今の息子も息子だが、今は親である自分に噛みつくし、口も悪く憎まれ口も叩いて小憎らしい。
    だが昔の息子の性格は真っ直ぐで真面目。そして素直な子だった。
    そんな素直な息子の性格がひねくれてしまうような大きな事が中学であったのだから仕方ないのだが、自分たちが戻せなかった本来の性格を引き出してくれた白藤にはただただ感謝しかない。
    ひねくれ、斜に構えていた息子が白藤しか居ないと白藤じゃないと駄目だとそう言いきるぐらいに息子は白藤を愛している。
    それが父には嬉しかった。

    「っ!?」

    バシッと息子の背中を叩いた父にてぇな!!何しやがるバカ親父!と怒鳴る息子に父は大口を開けて笑いながら話す。

    「今の司やったら大丈夫と!類さんを絶対幸せに出来るっちゃ!!」

    父の言葉に中山は目を丸くした。
    父に振り返れば父の目に光る物がある事に気づく。

    (親父にも心配掛けたからな…。けど、)

    父の言葉が純粋に嬉しかった。

    「ああ、ぜってぇ幸せにする。」

    中山は目を細めた。



    父たちが潰れた為に中山ははぁと溜め息をつく。

    「親父もお義父さんも止めても聞かねぇんだから…。」

    料金を支払い、タクシーを呼ぶ。
    運ぶのは店員にも手伝って貰い先ずは咲希の家に父を送る事にした。
    咲希のマンションの前でタクシーに待ってもらい、父を抱えてマンションの入口へ。
    そこでちょうど咲希と母を送って来た白藤と会った。

    「類。」
    「司くん。」
    「あ、お兄ちゃん!お帰り~!!」
    「父さん飲み過ぎっちゃ、ほんなこつもう…、」

    母が呆れた顔をして額に手を当てる。

    「もしかして父さんも潰れてる?」
    「ああ、親父たち止めても聞かなかったからな。今、タクシーに待ってもらってる。」

    はっとした白藤が中山に問い掛けて中山が頷く。

    「ホンマにもう…」

    白藤が溜め息をつき、続ける。

    「司くん、ちょうど帰って来てるんなら、車で帰るでしょ?父さん回収してくるよ。」
    「ああ、頼むわ。俺はバカ親父を咲希の部屋に運んでくる。」

    頷いた白藤がタクシーの方へ。
    タクシーの運転手に事情を話し、料金を支払い父を引っ張り出す。
    そのまま腕を肩に回した白藤は父を抱えて車へ。
    それを確認後、中山もマンションの中へ。
    エレベーター待ち時間に咲希が中山に問い掛ける。

    「るいお義兄ちゃんって意外と力持ちだったりする?」
    「そりゃ本は紙で重いからな。」
    「あ、そっか!るいお義兄ちゃん華奢だし、物腰も柔らかいからそんなに力ないように思ってたよ、アタシ。」
    「まあ類が華奢なのは否定しねぇけど、ちゃんと成人男性ぐらいの力はあるぞ。」

    そっかぁ。と言う咲希が、けど時々なんだけどと続ける。

    「るいお義兄ちゃんが男性ってこと忘れそうになっちゃう。女性とは思ってないんだけどね。」
    「いや、何だよそれ。」
    「あれだよ!性別:るいお義兄ちゃん!」

    咲希の力強い返しに中山が吹き出す。
    ツボッた中山がくっくっと笑い、そんな自身の息子と娘の会話に母も目を細めたのだった。
    父を咲希の家に送り届け、布団に寝かせて中山は家を後にする。
    マンションの前でエンジンを切って待っていた白藤に悪いと謝り、助手席へ乗り込んだ。

    「大丈夫だよ。」

    ふわりと微笑んだ白藤に咲希の言葉も強ち間違いじゃねぇかもなと呟く。

    「何が?」

    きょとんとした白藤が問い返す。

    「いや、さっき咲希がな?」

    先程の咲希の言葉を白藤に教えた。

    「性別:僕?」
    「ああ、咲希曰く時々類が男ってこと忘れそうになるんだと。女とは思ってねぇけどってよ。」

    んで、確かに類は男っぽくはねぇよなって、だが女って訳じゃねぇしと中山がくっくっと笑う。
    やはり多少酒が入っているから随分と笑い上戸になっている様子の中山にちょっと複雑だなぁと白藤は苦笑したのだった。
    自宅へ帰宅すれば白藤の母も先程の中山の母と同じように呆れた顔をする。

    「ホンマにもう!明日知らんで!」

    怒ったような白藤の母。
    布団を敷き、父を寝かせた白藤は母さん先にお風呂入ってきてやと微笑む。

    「ええの?」
    「おん。司くんもいいよね?」
    「ああ。遠慮なく入って来て下さい。俺も少しだけ酔い覚ましてから入りたいですしね。」

    頷いた白藤が中山に問い掛け、中山も頷く。
    ならとお先に失礼するわと微笑んだ母が風呂へ向かうのを見て、白藤は問い掛ける。

    「司くん、お水いる?」
    「ああ、頼むわ。」

    水を汲んで差し出してきた白藤から受け取り、コップを傾ける。
    そのまま白藤は冷蔵庫を確認した。

    「父さんの事考えたら、明日の朝はしじみのお味噌汁の方が良さそうだけど、しじみ買ってないんだよ、多分。」
    「あるか?」
    「いや、やっぱり買ってないね。」

    なら大根あるし大根おろしでみぞれ雑炊かなぁ…と顎に手を当てる。

    「それかキャベツと梅干しの和え物と鶏団子とネギの味噌汁かなぁ…。あとバナナとか。」

    どうしようかなぁ…と呟く白藤に中山は感心する。

    「やっぱ類はスゲェな…。」
    「急にどうしたの?」

    ぱちっと瞬きを一つした白藤にいやと中山は返す。

    「冷蔵庫の中の物見て、直ぐに二日酔いに向いてる料理が思い付くんだもんなって思ったんだよ。」

    類なら急な来客でもパパッとなんでも作れんだろうなって、料理上手ってやっぱ強ぇな。と中山が褒めてきて白藤は思わず照れる。
    その可愛さに可愛いなと中山は目を細めた。

    「キスしてぇけど、今はお預けだな。」

    そのまま白藤の耳元で甘く囁く。

    「お義父さんとお義母さんが帰ったら目一杯イチャイチャしような?」

    その意味が分かった瞬間、また顔を真っ赤にした白藤は司くんのバカ!と怒りながら軽く中山を叩いた。
    中山はそんな白藤にケラケラと笑う。
    それから直ぐにカチャと言う洗面所が開く音がして、離れる。

    「お風呂おおきに、司さん、類。」
    「いいえ、湯加減どうでした?」
    「ええぐらいよ、おおきに。」
    「んじゃあ類が先に入って来いよ。俺は休みだが類は仕事だったしな。」

    中山が白藤の母に問い掛けて、母は柔らかに返す。
    それに良かったと返して、今度は白藤を促した。

    「ありがと、じゃあ先に入らせて貰うね。」

    ふわっと微笑んだ白藤が洗面所に向かう。

    「お義母さん何か飲みますか?」
    「ほんならお冷貰おか。」

    分かりましたと返事をして水をコップに汲んで渡す。

    「司さん、お父さんがまた迷惑かけて堪忍な。」
    「いえいえ、うちの父も同じだったんで、大丈夫です。」

    鼾をかいて寝ている白藤の父を横目に見た母。
    そんな父に鼻をヒクつかせているミモザとスミレが見える。

    「司さんが類の婚約者になってくれてホンマに嬉しいわ。」

    目を細めた白藤の母に中山は瞬きを一つ。
    そんな中山に母は続ける。

    「類がな、司さんの話をする時、ホンマに嬉しそう幸せそうでな、うちも嬉しかったんよ。」

    あんな幸せそうな息子は見たことないと語る母。

    「GWに帰ってきた時も思てたんやけど。更に幸せそうで安心しとるんよ。おおきに司さん。」
    「いいえ、こちらこそ俺なんかに類をまかせて下さって本当に感謝しています。必ず類はもっと幸せにしますから。」

    微笑んだ母に中山も微笑み返したのだった。
    その後他愛のない話をしていた中山と母だったが白藤が上がってきて、中山に声を掛けて来た為に入れ違いで中山が風呂へ。
    白藤がコップ一杯の水を汲んで一気に飲みきり、母が持っていたコップを回収して洗い出す。

    「類。」
    「母さん何?」

    きょとんとした息子に母は微笑み、頬を撫でる。

    「司さんと幸せになるんよ?」

    その言葉にぱちっと瞬きを一つ。
    その後くしゃりと笑い、照れたように頷いた息子に母はまた目を細めたのだった。



    翌日。
    やはり二日酔いで顔色が死ぬほど悪い父に母と息子は心底呆れた顔をした。

    「すみません、俺がもっとしっかり止めれば良かったんですけど。」

    苦笑した中山に母と息子は司くん(さん)は悪くないからと返す。

    「あだだっ!いや、俺の自業自得やねん。ホンマに司くんは何も悪ないから。中山さんとのお酒がめちゃめちゃ楽しかってん。けどほんに司くんお酒強いねんな、俺と中山さんと同じくらい呑んでたやろ?」
    「昔から酒は強いんです、俺。」

    少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべた中山にそうなんかと父は返す。

    「はい、父さんには此れな。」

    とんと机に置かれたのはみぞれ雑炊と漬物。

    「司くんは二日酔いじゃないけど、一応これね。」

    置かれたのは昨夜白藤が言っていたキャベツと梅干しの和え物と鶏団子とネギの味噌汁、白米。

    「わざわざ別の料理作ってくれたのか?」

    目を丸くした中山に今日は母さんが居るからねと微笑んだ。

    「手伝ってくれておおきに母さん。お客さんやのに手伝ってもろてごめんな。」
    「ええんよ。久しぶりに類とお料理出来てお母さん嬉しかったわ。」
    「ふふ、僕も久しぶりに母さんとお料理出来て楽しかったで。」

    微笑み合う母と息子である白藤に中山は自然と笑みが溢れていた。
    この日は白藤も暇を貰っていて、全員で少しだけ東京観光と言う予定だったのだが、中山の父も白藤の父も二日酔いでダウンしており、結果昼食を取ってから解散と相成った。
    先ず新幹線の白藤の両親を改札まで見送り、飛行機で帰る中山の両親を空港へ送る。
    ゲートをくぐった中山の両親も見送り、咲希を自宅へ送る。
    大人数だった為に急遽レンタカーを借りた分を返して、車で帰宅した。

    「本当に怒涛だったね。」

    くすくすと笑う白藤が運転お疲れ様、司くんと微笑んだ。

    「類。」

    手招く中山に何?と白藤が近づけば、ぎゅうと抱き締めてきた。
    そんな中山の背中に腕を回して、ぽんぽんと叩く。
    そのまま白藤にキスしてきた中山に応えて、何度も唇を触れあわせれば、するりと背中を撫でられる。

    「…っん、」

    小さく身体を跳ねさせた白藤がするの?とほんのりと染まった頬と上目で問い掛けてくる。

    「駄目か?一回だけ。」
    「一回だけだよ?」

    潤んだ瞳の白藤に今一度口付けて、白藤を抱え上げた。



    顔合わせを済ませてから準備も山場になってきた。
    本日も彰人の店へ食事に来ていた中山と白藤。
    理由は一つ彰人に頼みたいことが有るためだ。
    白藤が厨房が落ち着いてきたタイミングで彰人に話し掛けた。

    「何スか、白藤センパイ。」
    「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」
    「内容によりますし、オレに出来ることならいいっスけど。センパイには世話になってるし。」

    手を洗って顔を上げた彰人に中山と顔を見合わせた白藤が口を開く。

    「東くんと白井さんに僕らの披露宴で出すお料理をお願いしたくて。」

    その言葉に目を丸くした彰人とデザートを運んでいた杏が固まる。

    「…え、」
    「え、え!?嘘!!白藤さん私たちで良いんですか!?」

    抜けた声が出た彰人と目を丸くして少し興奮したように杏が問い掛けてくる。

    「うん。と言うより二人だからお願いしたくて。」
    「此処の飯も美味いからな。」
    「そう。是非僕たちの披露宴に来てくれる人たちにも食べて貰いたいんだ。」

    口角だけで微笑んだ中山とふわりと微笑んだ白藤。

    「嘘!うそうそ!!彰人!引き受けよ!!ね!?」

    お盆を置いた杏が興奮したように彰人にまくし立て、唖然としていた彰人がハッと我に返った。

    「本当にオレの料理で良いんスか?折角の晴れ舞台だろ…?」
    「東くんのお料理が美味しいから頼んでるんだよ。駄目、かな…?」

    困ったように眉を下げた白藤に息を飲んだ彰人が白藤の顔を真っ直ぐに見てきて頭を下げた。

    「謹んで受けさせて下さい。」

    彰人の言葉に中山と白藤は顔を見合わせて頷く。

    「よろしくね。」
    「頼む。期待してる。」
    「はい!!」
    「必ず期待に応えれるような料理にする。」

    満面の笑みを浮かべて頷く杏と真っ直ぐ二人を見てきた彰人に二人も自然と笑っていた。

    「あ、白藤さん!少し聞きたいんですけど、前撮りとか当日に写真撮りますか?」

    杏の言葉に目をぱちっと瞬いた白藤はまだ決めてはないけどと返す。

    「良ければなんですけど、撮るなら一人心当たりがあって!」

    杏の言葉に白藤は中山の顔を見る。
    中山は白藤の好きにしたらいいと微笑んでおり、それならと頷いた。



    式については雫と相談しつつ、呼ぶゲストや招待状、席次。
    彰人と杏と料理、もてなすお酒、引き出物、引菓子、タキシード等々色々決めながら日々は目まぐるしく過ぎていく。
    その中でリングドッグとリングキャットなるものが有ることを知り、それをミモザとスミレにやらせたい!と思うことも当然で、小物を等々を作りながら、平行してミモザとスミレのタキシードを白藤を作り出すのには中山も開いた口が塞がらない。

    「出来た!!!」

    そう言って見せて来たのは初めて作ったとは思えない代物だった。

    「え、スゲェ…え?初めて作ったんだよな?これ、俺らが式で着るタキシードじゃねぇか…。刺繍とかも完璧かよ。」
    「えへへ、瑞希にアドバイス貰ったりして作ったんだ!まさか正月に言ってた着物より先にタキシード作ることになるとは思ってもみなかったよ。」

    ニコニコと笑っている白藤に中山は本気で問い掛ける。

    「…いや、類が凄すぎて開いた口が塞がらねぇんだけど…、本当に類に出来ねぇことねぇだろ…?」
    「だから作ってる時にも言ったけど、何でも出来る訳じゃなくて、出来る事だけだよ?」

    苦笑した白藤の携帯がメッセージを受信した。
    メッセージを呼んだ白藤の目がキラキラと輝く。

    「司くん!」

    手招きした白藤が携帯を見せてきて、中山も思わず頬が綻んだ。

    「何時取りに行く?」
    「来週の日曜?日森さんとの打ち合わせが終わった後かな。」
    「いいぞ。」

    小首を傾げた白藤に中山が頷いた。



    日曜日。
    中山と白藤は雫との打ち合わせ後に瑞希の店へとやってきた。

    「二人ともいらっしゃーい!おまたせ!!」

    ドアを潜ればカウンターにいた瑞希が大きく手を振る。
    カウンターに近づけば、瑞希は出来立てほやほやのリングを見せてきた。
    二人の希望を忠実に再現してくれたシルバーリングはキラキラと輝く。
    ちゃんと内側に二世の誓いも掘ってあり、凄く素敵と溢した白藤は潤んだ瞳でありがとうと微笑んだ。

    「ここまで希望を叶えてくれて本当に感謝する。暁月の職人技に感服した。」
    「ふっふっふっ、もっと褒めてくれても良いよ~!と言いたいところだけど、大事な昔馴染みの類とその相手の中山さんだよ、気合い入れるに決まってるじゃん!」

    ドヤ顔をした瑞希が白藤の手を握って口を開く。

    「類、本当に中山さんと幸せになってね。」
    「…うん、ありがとう、瑞希。」

    ポロっと一筋涙が伝った白藤に泣かないでよ、類~!と瑞希は笑った。



    瑞希の店を後にして、自宅へ車を走らせてる最中に中山が口を開く。

    「なあ、類。式は24日にしたけど、入籍。6月5日にしねぇ?」
    「…え?」

    きょとんとした白藤に目を細めた中山は車を少しだけ路肩に停めてサイドブレーキを上げ、白藤の方を見た。
    そのまま中山が少しだけ携帯を弄って、とある画面を見せてきた。
    とても有名な可愛らしいキャラたちと自分と中山の名前。そして真ん中バースデーと言う文字。

    「…真ん中、バースデー?」
    「ああ。俺も弊社への持ち込み。漫画家志望の方を対応した時に初めて知ったんだが。」

    中山曰くその文字を見て、その漫画家志望の方が帰った後に調べてみたそうだ。

    「因みにその方はどうしたの?」
    「ん?題材は面白ぇと思ったけど、何分少しだけ話が粗くてな、もう少しだけ手直ししてもう一度持って来てくれって言った。」

    因みにこの中山が対応した漫画家志望の方。
    漫画は読み切り採用。掲載され連載、アニメ化等々で後々有名な漫画家になるのは余談でもう少しだけ未来の話だ。

    「で、どうだ?5日に入籍。考えてくれねぇ?」
    「…そんなの、」

    頷くに決まってると潤んだ瞳ではにかんだ白藤に中山は目を細めて、触れるだけのキスを落とした。
    そのまま再度車を発進させた中山にふにゃりと微笑んだ白藤はたまたまとある幟が立っているのを見た。

    「オーダーメイドのペットの首輪…?」
    「ん?」

    ぽつりと呟いた白藤の言葉に中山も聞き返す。

    「ねぇ、司くん。ちょっとこのお店に寄りたいな。」
    「いいぞ。」

    頷いた中山がハンドルをその店へと切った。
    こぢんまりとしている店で中へと入れば気のいい店員に声を掛けられた。
    話を聞いた白藤が中山の服を少しだけ引っ張る。

    「ミモザとスミレにも指輪の代わりになるもの作ったらどう、かな?」

    おずおずと上目に伺う白藤に、良いに決まってんだろと中山は目を細めた。
    そのまま作成依頼をした白藤は嬉しそうにはにかんだのだった。



    それから更に目まぐるしく日々は進んでいく。
    中山とミモザの誕生日も過ぎ、気がつけば既に6月。
    婚姻届を提出するために名前を記入する。
    夫の欄に中山の名前があり、妻の欄に自身の名前を記入した白藤は並んでいる名前に少しだけ瞳を潤ませた。

    「…僕、明日本当に司くんのお嫁さんになれるんだね。」
    「ああ。これからもよろしくな、類。」

    頬を撫でてきた中山に白藤はうんと涙を一筋流して満面の笑みを浮かべた。
    そんな白藤に中山も目を細める。
    入籍日は平日だった為に午後休を取った二人は一緒に役所に婚姻届を出しに行く。
    無事に受理されて、白藤は白藤類から戸籍上は中山類となり、名実ともに中山の妻となった。
    だが結婚指輪は式から着けると二人で決めた。
    この日に他にも色々な手続きを行えば、ちょうど頼んだ首輪も完成したと連絡があり、その足で首輪を引き取りに行く。
    車に乗って改めて首輪を確認した白藤は笑みを溢す。
    ミモザとスミレをイメージしたカラーの首輪にはミモザと菫の花が描かれている。

    「凄く素敵…。」
    「式までに間に合って良かったな。」

    中山の言葉に白藤はうんと満面の笑みを浮かべた。
    これは指輪を付けられない2匹の為の結婚指輪ならぬ結婚首輪。
    それが二人が入籍した日に届くとは何と幸福な事か。
    だがこれもきっと運命なのだろうと考えて、白藤はくすりと小さく笑った。
    帰宅した二人はミモザとスミレのゲージを開けて、二匹を呼んだ。
    小首を傾げながら近づいて来た二匹に、今着けている首輪を外す。
    そのまま本日に購入した二匹への結婚首輪を嵌めた。
    ミモザにはスミレのイメージカラーの淡い紫の革の首輪、スミレにはミモザのイメージカラーの淡い黄色の革の首輪だ。

    「うん、良く似合ってるよ、スミレ、ミモザ。」

    二匹の頭を撫でた白藤が目を細める。

    「お前らには結婚指輪ならぬ結婚首輪な。結婚おめでとう、ミモザ、スミレ。」

    二匹は結婚と言う意味は分かってはいないが、お揃いの首輪が贈られた事は分かった二匹が嬉しそうに鳴いた。



    式の準備も順調に進み、追い込みを掛けていたある日の土曜日の事。

    「まさかこのタイミングでクーラーが壊れるとは思って無かったね…。」
    「ああ、本当にな。」

    中山が額に手を当ててため息をつく。
    元々挙動は可笑しかったのだ、そろそろ変え時かなと言う話もしていた。
    ただまだ6月で、夏本番ではなく。今月は式もある為に買うのは来月にしようと話してた矢先の事。

    「修理会社に電話してみるか…。」

    中山が携帯で修理会社に連絡をするが。

    「ああ、そうなんですか。いえ、明日でも構わないので、様子を見に来て貰うことは可能ですか?」

    暫く修理会社と話した中山が電話を切り腰に手を当て大きくため息をついた。

    「今日は来れねぇらしい。予約がいっぱいなんだと。」
    「そうなの…?それは困ったね…。」

    また今日は一段と湿気が酷く蒸し暑い。
    窓を開けていても風すら吹いていないので、一切風が吹き込まない。
    扇風機を回してはいるが、熱風をかき回すだけでかえって体調を悪くしそうだ。
    またこの部屋は陽当たりもいい部屋で余計に蒸し暑い。

    「僕たちは我慢するとしても、ミモザとスミレが心配なんだよね…。」
    「だな…。」

    この時点でミモザとスミレはアジの開きよろしく大の字になってフローリングの床の上で落ちている。
    更に言えばミモザはハッハッと息を荒くして舌を出してしまっている。

    「意識して水分は取らせているけど、熱中症がね…。」
    「ミモザとスミレのクール用品買いに出るか?」
    「それでもやっぱり心配なんだよね…。」

    どうしようとため息をつく白藤に咲希に預けるかと中山が提案する。

    「咲希ちゃんか。そうだね、一回聞いてみて欲しいな…。」
    「分かった。」

    中山がまた携帯をタップして咲希に電話を掛ける。
    3コール程で出た咲希がどうしたのお兄ちゃん?と問い掛けてきた。

    「悪い咲希。急なんだが、ミモザとスミレを今日1日預かってくれねぇか?」
    『うん?それは全然いいんだけど、どうしたの?』
    「いや、家のエアコンが壊れてな。修理が来るのが明日なんだ。類が熱中症を心配してる。」

    ああ、なるほど!今日また一段と暑いもんねと納得した様子の咲希がOKだよー!!と快く引き受けてくれた。

    「サンキュ。直ぐに連れて行っても構わねぇ?既にミモザがバテてんだ。」
    『うん、OKだよ!!』
    「サンキュ。じゃあ連れて行くな。一時間ぐらいだと思う。」

    通話を切り、大丈夫だと告げた中山に白藤はホッと息を吐き出す。

    「じゃあ、咲希ちゃんに預けに行こっか。」
    「だな。」

    バテているミモザとスミレの用品の準備をして、二匹をキャリーへ。
    そのまま咲希のマンションに中山の車で向かった。
    咲希のマンションの近くの駐車場に車を停めて、エントランスを潜り、咲希の部屋の番号とチャイムを押す。

    『はーい!』
    「咲希、俺だ。司。」
    『はいはーい、鍵開けるねー!!』

    それから直ぐに奥に続く自動ドアが開き、エレベーターに乗って咲希の住む階のボタンを押す。
    エレベーターが目的の階に着き、エレベーターから降りて、咲希の部屋の前。チャイムを押せば直ぐに咲希が顔を覗かせた。

    「いらっしゃいお兄ちゃん!類お義兄ちゃん!ミモザちゃんとスミレちゃんもいらっしゃ~い!暑いでしょ、上がって上がって!」
    「ああ、邪魔する。」

    咲希に促されて、咲希の家の中へ入った。
    リビングに案内されて、お茶を出される。
    ミモザとスミレは自宅と違い、元気よく走り回っている。やはり涼しいのだろう。
    そんな姿に可愛い~!!とハートを飛ばしつつ、カメラを構える咲希に白藤は目を細めた。
    咲希はカメラを構えながら、式の準備はどう?と微笑んだ。

    「順調だ。」
    「そっかぁ~。いいな~、あたしも早く結婚した~い!」
    「咲希ちゃんはいい人は居ないの?」

    ぷくぅと頬を膨らませた咲希に白藤が問い掛ける。

    「残念ながら、今は居ないんだぁ…。」

    眉をハの字に下げた咲希にそっかと白藤は眉を下げる。
    中山は今はと言う咲希の言葉が引っ掛かって問い返す。

    「そういや咲希。お前一歌とどうなって…。」
    「…振られちゃったの。いっちゃんに。」
    「…は?」

    泣きそうな咲希と初めて聞いた中山は大層驚いたらしい。抜けた声を出した。

    「正確にはアタシがさよならしたの。いっちゃん今、凄く忙しそうで、アタシの事重荷になっちゃうかなって思ったから。」
    「…いや咲希、それは、」

    中山が何か言い募ろうした。話が見えない白藤のみ首を傾げていた。
    その瞬間、部屋にチャイムが鳴り響き鍵の回る音。そして焦ったような足音。

    「咲希!!」
    「…え、いっちゃん…?」
    「何このメッセ!また私の話も聞かずに一方的に決めて!!」

    そこにいたのは最近めきめきと実力を上げているシンガーソングライターの星川一歌の姿があった。
    白藤は思わず目を丸くする。

    「一歌。つーことは咲希、お前やっぱ、」

    はぁと中山が額に手を当てた。
    中山と咲希は星川一歌に驚いていない様子で白藤は目を白黒させた。寧ろ気安い感じがする。中山なんてあの星川一歌の名を呼び捨てにしており、目を丸くする。
    星川一歌はそのまま咲希の肩を掴んで、泣きそうな顔をした。

    「咲希は昔からそうなんだよ!何でも勝手決めちゃう!!」
    「だって、いっちゃん本当に忙しそうだからっ、」
    「確かに忙しいけど、私咲希の事が重荷だなんて思ってない!!」

    必死な星川一歌に咲希は言い連ねるが咲希は歯切れが悪い物言いだ。

    「ちょっと落ち着けお前ら!!」

    中山が咲希と星川一歌の間に入って引き離す。
    それで星川一歌はハッとした顔をした。

    「司さん…、」
    「ちょっと冷静になったか?」
    「…はい。」

    中山の名前を呼び返す星川一歌に白藤は更にぽかんとした顔をした。

    (あれ?司くんと星川一歌って知り合いなの…?)

    呆れた様子の中山と肩を落とした星川一歌。
    咲希は咲希で星川一歌の顔が見れないようで自身の腕を握って顔を逸らした。

    「お前らに何があったかは詳しく知らねぇけど、どうせ咲希が早とちりして、一方的に別れ切り出すメッセを一歌に送ったんだろ。」
    「…はい。」

    頷く星川一歌に中山は額に手を当てて、大きなため息。

    「咲希、お前昔からそうだが、それ悪い癖だって俺散々言ったよな?お前甘えるのは上手いくせに何でそう大事な事は一人で答え出して、相手の話聞かねぇんだ?」
    「…っだって、」

    泣きそうな咲希の頭を中山は撫でる。

    「一回ちゃんと一歌と話せ。俺と類はお暇するから。」

    こくんと頷いた咲希に中山は困ったように笑い、頭を軽く叩く。

    「じゃあ一歌、しっかりやれよ。咲希の手綱取れんのお前だけだから。」
    「はい!ありがとうございます、司さん!」

    しっかりと中山の顔を見て頷いた星川一歌を確認した、中山は咲希たちから離れる。

    「ミモザ、スミレ、咲希の事頼むな?」

    そう言ってミモザとスミレの頭を撫でた中山にミモザとスミレは返事をするように鳴いた。

    「類、帰るぞ。」
    「え、あ、う、うん?」

    そのまま白藤の手を掴んで中山はそのまま玄関へ。
    白藤は咲希と星川一歌が気になるようで心配そうに何度も振り返っている。

    「大丈夫だ。一歌に任せとけば。」

    そう言う中山の声は優しく、星川一歌への信頼を感じ取った。
    それに少しだけモヤッとする。嫉妬なんて久々だ。
    車に乗り、中山は口を開く。

    「類、勘違いしてるかも知れねぇから言っとくが。」

    一歌とそう言う関係だった訳じゃねぇからときっぱり言いきった中山に白藤はまた目を瞬く。

    「一歌は咲希の幼馴染みなんだ。その関係で俺も知り合いだ。それに昔っから一歌と咲希は相思相愛なんだよ。で、何回もこんな感じで喧嘩してる。咲希が早とちりして一方的に一歌に別れを切り出し、それに一歌が怒り俺が仲裁に入る。それから冷静になった一歌が咲希を説得して仲直りする。お決まりだ。」

    俺も一歌も割りと咲希に振り回されてんだよと苦笑した。

    「そうなの?」
    「そうなんだ。まあ、取り敢えず帰るか。あ、その前に腹減ったな。何か食いに行くか。」

    きょとんとした白藤に中山が頷き、車を発進させる。

    「多分、今回も暫く経ったら咲希から連絡入る。」
    「そう、なんだ…?」
    「ああ。」

    確信を持っている様子の中山に白藤はそうなんだとしか返せなかった。
    近場のファミレスで食事をしている際にピコンと中山の携帯がメッセの受信を告げる。
    そのまま携帯を見て、中山がふっと笑う

    「ほらな。」

    中山が白藤にメッセ画面を見せて来たので、それを見れば。

    『大変お騒がせしました。いつもごめんね、お兄ちゃん。いっちゃんと仲直りしたよ。』

    そのメッセの後に咲希と一歌が頭を寄せあって笑ってい撮っている自撮りが添付されている。

    「本当だ…。」

    そのまま中山はまた携帯を自分の方に向けて何か打ち込む。
    そしてそれを白藤に見せて直ぐに咲希から返信。

    『何時もご迷惑をお掛けします。今回もありがと、お兄ちゃん。』
    「本当にな。」

    肩を竦めながらも中山は優しい目をして画面を見つめた。そんな中山に胸がきゅんと鳴る。

    (お兄ちゃんしてる司くんが格好いい。)

    思わず頬が赤くなった白藤に気付いた中山がにんまりと目を細めた。

    「なあ、類。惚れ直したか?」
    「…直した。お兄ちゃんしてる司くんにキュンとした。」

    上目遣いで頬を染めた白藤が可愛すぎて、中山も反撃を食らう。

    「いや、類が可愛すぎて、反撃食らった。」
    「ふふっ、何それ。」

    クスクス笑う白藤はやはり可愛く、中山も頬を緩めたのだった。

    「けど司くん地味に芸能人の知り合い多いよね。青木くんも星川さんも芸能人だし。」
    「言うてその二人くらいだぞ?まあそれにべらべら話すことでもねぇしな。」
    「それはそうだけど。」

    そんな雑談をしながらゆっくりと食事をした。
    帰宅すれば、やはりむっとした暑さが部屋に籠っている。
    今一度、窓を開けて、扇風機を回した。

    「今、ちょうど一番暑い時間だな…。」
    「太陽が一番高い位置にある時間だからね…。」

    麦茶要る?と言う白藤の言葉に中山は頷く。
    二人分の麦茶を注ぎ、少しでも扇風機の近くとソファ側で朝から途中になっていた、式準備を再開しだす。
    と言ってもほぼほぼ完成はしつつある。元々二人とも前もってきちんと動くタイプの為にそこまで焦らなくても式までには全て作り終わる事だろう。 
    雑談をしながら、黙々と進めていたのだが…。
    チラッと中山が白藤を見る。白藤の首筋に伝う汗や麦茶を飲む時に動く喉仏やらに思わずムラッとしてしまった。

    「類。」
    「何、司く、」

    白藤にキスをした中山に白藤が目を丸くする。

    「んっ!?…ん、ふぅ、んんっ、」

    くちゅくちゅと濡れた音がして、とろりと白藤の瞳が蕩けて行く。
    そんな白藤を中山はソファに押し倒した。



    汗を流すついでに二人で風呂に入って行った行為で逆上せた白藤を抱えて風呂から上がる。
    窓を開け直せば雨が降りだしており、部屋の温度も多少下がっていた。

    「これならまあ扇風機回してたら、凌げそうだな。」
    「…ん、そう、だね。」

    疲れた様子の白藤の瞳は眠そうに蕩けている。

    「類、疲れてんだろうが、水分取ってから寝ろよ?」
    「…つかさくんのせいでしょ。」

    むぅと頬を膨らませた白藤にそうだなと中山は喉を鳴らして笑い、完全に氷が溶けてしまっている麦茶を白藤に口付けて飲ませた。

    「…まずい。」
    「まあそうだろうな。」

    けど、類捨てんの怒るだろ。と言う中山にそうだけどと白藤は返す。
    中山も残っている分を飲みきり、まっずと笑う。
    新たに注ぎ直した分を今一度白藤に飲ませたのだった。
    そのまま寝てしまった白藤をソファに寝かせ、再度途中になっていた作業を再開した。

    (けどまあ、俺がこんな事してんのが面白ぇな。)

    結婚とは縁が遠い人生で、自分も結婚する気など無かったし、自分は誰より結婚に向かないと思っていた。
    きっと中学までの自分だったら結婚も考えていただろうが、今の自分がその相手だけを愛すと言う図など思い描けなかった。
    それが白藤と出会い全て覆った。

    『立ち読みはご遠慮願います。』

    本当に一目惚れだった。
    まさに運命の出会いで、自分の唯一との出会い。
    それから沢山傷つけすれ違いつつも、こうして愛を育み、そして式まで辿り着こうとしている。
    ずっと傍に居て笑顔で支えてくれる自分の唯一。
    ソファで寝息を立てている白藤を見る。

    (ああ、本当に。)

    何て愛しいのか。

    「類、愛してる。」

    自然と笑みが溢れ、中山は自身の唯一の頬を撫でた。



    式の3日前になった。
    白藤は花嫁の手紙を清書していたのだが、じわりと視界が滲む。

    「類…。」

    中山が困ったように頭を撫でる。
    書き始めると白藤が直ぐに泣いてしまうため、思うように進んでいないのだ。
    前日まで掛かってしまうと当日に目が腫れてしまうため遅くても明日中には書き上げないとならないのだが…。

    「…ごめっ、司くん、」
    「謝らなくてもいいんだが、今日か明日までに書き終わらねぇとな。前日まで掛かると泣いた事で当日に目が腫れんぞ…?」
    「ん、分かってるんだけど、」

    ポロポロと泣きながらぎゅっとズボンを握った白藤に中山は小さく息をつく。
    中山はそのまま白藤を抱き締めた。

    「類の気持ちも分かるんだがな。」
    「司くんはもうスピーチとかは完璧なのに、僕はどうしても胸がいっぱいになっちゃうし、色々と思い出しちゃって…、」
    「うん。」

    白藤の言葉に相づちを打ちながら、中山は白藤の背中を撫でる。
    ポロポロと泣き続ける白藤はきゅっと中山の服を掴んだ。
    中山は落ち着くまで白藤の抱き締め続ける。

    「…ん、ごめん司くん、」
    「落ち着いたか?」

    こくんと頷いた白藤がまたペンを持つ。
    少しずつ書き進めては筆が止まっては泣いてしまう白藤をその度に抱き締めながら書き上げるのを中山は待ち続けた。
    最後の文字を書いた白藤がまたボロボロと泣き始めたので中山はまた抱き締める。

    「頑張ったな、類。」
    「ん、」

    こくんと頷いた白藤の手紙は所々涙で滲んでしまっているが、もう一度これを書けと言うのも酷だろう。

    「書いててこれなら当日読むとき大丈夫か…?」
    「…頑張る、」

    ぽつりと呟いた白藤に頑張れと返し、俺も傍にいるからなと中山は白藤の頭を撫でたのだった。



    そして前日。
    手伝ってくれるメンバーには明日よろしくと集合時間等を送り、両親にも連絡。
    持ち物等々も確認して一息つく。

    「…いよいよ明日だね。」
    「だな、何かあっという間だったな。」
    「本当に目まぐるしかったね。」

    これまでの日を振り返りながら目を細めた。

    「なあ、類。」
    「うん、なぁに?」

    改まったように名前を呼んだ中山に白藤は小首を傾げる。

    「いや、籍はもう入れてんだが、本当に俺で良かったのか…?」
    「あ、何それ。」

    ぷくっと頬を膨らませた白藤に中山は苦笑する。

    「いや、俺にはお前しかいねぇけど、本来は類なら選り取り見取りだろ?」
    「もう。」

    更にぷくっと頬を膨らませた白藤は中山に抱き付いた。

    「僕にも司くんだけなんだからそんな事言わないで。何回も言ってるけど、僕の重い愛に同じだけの重さの愛を返してくれてるのは司くんだけなの。司くんが初めてなんだから、もっと自信持ってよ。」
    「類、」

    名前を呼んだ中山に白藤は目を細めて、綺麗に微笑む。

    「司くん、ずっとずっと俺なんかって言ってるのはセフレみたいな時の事、僕を傷つけた事が尾を引いてるのは分かってる。」

    苦笑する白藤はまだ続けた。

    「けどプロポーズしてくれてからの司くんが誠実で真面目に僕に一途に愛を捧げてくれてるのはずっと感じてるし分かってる。僕の愛に釣り合ってないんじゃないかとか言うけど、司くんからの愛は僕の愛にずっとずっと釣り合ってるんだよ。これも僕ずっと言ってるよね?」
    「言ってる、が…、」
    「僕にも貴方だけ、貴方が僕の唯一なんだ。貴方だから好きになったし、貴方だから結婚したい。貴方をずっと支え続けたい。貴方の隣でずっと笑っていたい。ずっと貴方に恋してたい。」

    ふわりと微笑む白藤。

    「貴方に愛して欲しい。貴方を愛したい。貴方が、司くんが大好き。愛してる。貴方を、司くんを本当に。僕の唯一の人。」

    そう言って中山の額に口付けた白藤にじわりと中山の視界が滲む。

    「っ、」
    「不安、無くなった?」
    「わ、るい。」

    泣きそうな顔で苦笑と嬉しさが混ざった顔をした中山に白藤はまた綺麗に微笑む。

    「本当に、お前には敵わねぇな。」

    苦笑混じりに声を詰まらせて白藤を抱き締めた中山は白藤の肩に顔を埋める。
    少しだけ肩を震わす中山を白藤はぎゅっと抱き締めて慈愛の眼差しを向ける。

    (本当に格好いいのに可愛い人。不器用な人。司くん、貴方が大好き。愛してる。)
    「貴方が僕の唯一。好きな人、そして愛してる人で本当に良かった。僕を選んでくれて、僕をここまで深く愛してくれて、本当にありがとう。二人と二匹で幸せになろうね。」
    「っ、ああ、絶対幸せにする。」

    真っ直ぐ白藤を見つめてきた中山は少しだけ泣いていて、白藤は目を細める。

    (本当に愛しい人。)
    「司くん、愛してる。」
    「俺も類を愛してる。」

    そう言って目を細めた中山に白藤からキスを落とした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works