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    ふゆふゆ

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    ふゆふゆ

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    大変お待たせ致しました。
    中白🌟🎈シリーズの主軸の全年齢版です。
    後編と最終話は同時に公開です。
    こちらは最終話、式当日のお話です。
    エロ有り全編は支部でご覧になって下さいませ。

    永遠に君に捧ぐ愛「うん、晴れて良かったね。青空が凄く綺麗。」

    カーテンを開けた白藤が窓から空を見上げて微笑んだ。

    「だな。梅雨真っ只中だし、雨が心配だったが、これは日頃の類の行いがいいからだな。」
    「そうかな?」

    小首を傾げた白藤にそうに決まってんだろとにっと笑い、そのまま白藤に口づけた。



    式場になるゲストハウスにミモザとスミレも連れて、式場入りした中山と白藤の控え室がノックされた。
    ドアを開ければ、二人の両親たちと受付を頼んだ咲希、玄田、百合子、瑞希が顔を覗かせる。

    「よっ!おめっとさん、中山、白藤さんも!」
    「こんにちは~!お兄ちゃん、るいお義兄ちゃん!結婚おめでとう~!」
    「来たよ。おめでとう、類、司。」
    「結婚おめでとう~!晴れて良かったね、類、中山さん!」

    口々に挨拶をされて中山と白藤は目を合わせて、微笑んだ。

    「ホンマにおめでとう、類。」
    「おん。おおきに母さん。」

    しずしずと白藤に近づいてきた白藤の母は白藤の頬を撫でて、白藤は微笑む。母の目には少しだけ光る物があった。

    「父さん、泣くんはやない?」

    もう既に号泣している様子の父に白藤は呆れた顔をする。

    「やってなぁ!!」
    「白藤さん、気持ちは分かる!!」
    「中山さぁん…、」

    白藤の父の肩を抱いた中山の父の目にも涙。
    そのまま抱き合って泣き出した父二人に中山が呆れた顔をして、白藤は肩を竦めた。

    「っ!?」

    瞬間中山の背中が勢いよく叩かれ、中山は勢いからつんのめる。怒りながら振り返ればそこには。

    「お袋、何すんだ…っ!」

    自身の母が瞳に涙を浮かべて立っていた。

    「司、類さんこつ、ほんなこつ幸しぇにしんしゃい!!」
    「…ん、分かっとー。」

    学生の頃から母には沢山迷惑を掛け、心配を掛けた。
    だからこそ、母が誰よりこの結婚を喜んでくれていることが分かった為に中山は頷いた。

    「お袋、今まで心配ばっか掛けてすまんかった。」
    「もうよかばい。」

    明るく笑う母に中山は目を細めた。



    式本番。
    先ずは新郎である中山が入場した。
    薔薇を持ち、バージンロード側に座ってくれている12人の位置を確認した中山はその相手に一人ずつ近づいていく。
    ダーズンローズセレモニーは式について二人で話し合っている時に絶対に取り入れると決めた。
    これは中山が白藤にプロポーズをした際に薔薇の花束を渡したことが理由だ。
    12本の薔薇は意味を加味して二人で渡して貰いたい相手を話し合って決めた。

    「中山さん、おめでとう。」

    柔らかに微笑む、オーナーの奥様。差し出された薔薇を受け取る。オーナーの奥様には感謝を。感謝は白藤がオーナー夫妻に思っている事で、どっちに渡すかを悩んでいた。

    『感謝してるのは俺も同じだ。けど俺はーーーーー…。』
    『それ、凄く素敵だと思う。』

    ふわっと微笑んだ白藤の顔が浮かんだ。

    「おめでとうございます、中山さん。類くんを頼みますね。」

    次にオーナーからも祝辞を貰う。ありがとうございますと礼を述べ、必ず幸せにしますと返し薔薇を受け取る。オーナーには誠実の薔薇を渡した。それは中山自身の気持ちだ。白藤の幸せを何より願ってくれているオーナーたちに対する中山の誠意。
    次の薔薇を持っているのは瑞希。

    「はい、おめでとう、中山さん!!」
    「ありがとな。暁月。」
    「いえいえー!」

    瑞希には幸福を渡した。それは白藤の瑞希への気持ち。

    『瑞希には幸福を頼みたくて。』
    『何でだ?』
    『うん?だって司くんへ贈った婚約指輪も結婚指輪も作ってくれたし。』

    白藤は楽しそうに笑っていた。 
    ずっと白藤を心配してくれていた昔馴染み。
    そして指輪を作ってくれた事への幸福と礼。そして瑞希の奥様と幸せにと言う願い。
    次に持っているのは明子。

    『信頼は咲音編集長に渡したいんだ。』
    『司くんが咲音編集長をそれだけ信頼してるってこと?』

    小首を傾げた白藤に中山は頷いた。
    明子が自分を欲しいと言ってくれて今がある。
    その隣には海斗。

    『あと尊敬は始音先輩に渡したい。』
    『それはどうして?』
    『あの人の有り方は本当は俺が成りたかった姿なんだ。』

    そう言えば白藤は大層驚いた顔をしていた。
    海斗の裏表もなく、分け隔てもない優しさ。そのせいで彼は随分と苦労しているが、それでも笑顔を絶やさない。
    あれは本当は中山自身が成りたかった大人であった。
    学生の頃に色々あって自分は歪んでしまったが。

    「おめでとう、中山くん!」
    「幸せにね、中山くん。」

    二人からも祝辞を貰い、中山は礼を述べる。
    そして次。次に持っているのは日野。

    『真実は日野に渡したい。』
    『日野さん!?』
    『今の分野に異動して、改めて思ったんだ。結局俺はあいつが羨ましかっただけだってな。』

    こちらにも大層驚いた顔をしていた白藤を思い出して、少し笑ってしまった。

    「貴方が僕に薔薇を託すとは思っていませんでした。」
    「俺のケジメって奴だな。今まで悪かった。」
    「いいえ、僕も態度が悪かったのは事実です、おめでとうございます、中山さん。」

    感謝すると薔薇を受け取った。
    次に薔薇を持っているのは玄田。

    『努力は玄田に渡していいか?』
    『うん、大丈夫だよ。でも何で努力なの?』
    『あいつの仕事の仕方だ。あとあいつとダチになった関係。』

    玄田も仕事が出来る方だが、玄田は常に努力を怠らない。
    それは尊敬に値することだが、それ以上に中山の中での玄田のイメージは学生の頃。
    人と深く馴れ合うつもりがなかった大学の頃の中山。
    そんな中山に飽きずに話し掛け続け、その上で玄田は中山の本性を見抜いた。だが、それでも友になろうとしてくれた。
    そんな玄田に気を張らなくてもよくなった中山は気がつけば玄田に気を許していた。
    言うなれば玄田の粘り勝ちのような状態で今の関係になれたのだ。

    「これさ、タグには仕事の仕方とか最もらしいこと書いてるけど、俺が努力なのってもしかして学生の頃?」
    「大正解だ。よく分かったな?」
    「まあ自覚ありますし?」

    にんまりと目を細めた玄田が腕を立てたので、その腕に腕をぶつけて薔薇を受け取る。

    「おめでとさん。」
    「サンキュ。」

    次に持っているのは千代と百合子。

    「おめでとうございます、中山さん。とても素敵な結婚式ね。」
    「感謝する、鳳。」
    「はい、おめでと。類のこと絶対に幸せにしてよね?」
    「分かってるっつーの。」 

    千代には栄光、百合子には永遠。

    『千代さんには栄光、百合子には永遠でもいい?』
    『それって鳳財閥の栄光と草薙にも永遠に幸せになって欲しいって願いか?』
    『うん。』

    穏やかに白藤は微笑んでいた。
    薔薇を二人から受け取り、次。

    「はい、お兄ちゃん!どうぞ!本当におめでとう~!」
    「ありがとな、咲希。」

    咲希から薔薇を受け取る。

    『咲希ちゃんには絶対希望がいいな!』
    『それは大賛成だ。』

    咲希の薔薇は希望。それは今までの一歌と咲希の関係。
    そして咲く希望と言う名を持つ咲希だからこそ、咲希に希望を渡して欲しかった。
    そして最後の2本は自身の母と白藤の母に頼んだ。

    「おめでとう、司さん。」
    「類さんのこつ、大事にしんしゃい。」

    白藤の母には愛情。

    『愛情、僕の母さんに渡してもいい?』
    『ああ、寧ろ類のお義母さんより似合う人居ねぇだろ。』

    白藤に誰よりも深い愛情を持って大事にしてくれていた白藤の母。そして。

    『情熱は俺のお袋に渡すわ。』
    『いいと思う。お義母さん温かい人だもん。』
    『それもそうなんだがーーーーー、』

    中山が母に情熱を渡したかった理由。
    それは中山の母は幼い頃や学生の頃、中山に何時も全力で向き合って、ぶつかってくれていたことにある。
    白藤の母に礼を返し、自身の母に分かっていると返して、薔薇を受け取った。
    合計12本の薔薇を受け取り、前に立つ。
    そのまま入口を振り返った。
    ドアが開く。白藤の父とタキシードでフェイスアップベールを被っている白藤の姿が見えた。
    白藤は父の腕に腕を回してバージンロードを歩き出す。

    (類、今までで一番綺麗だ。)

    思わず見惚れてしまった中山の前に白藤と父がやってくる。

    「司くん。類をよろしゅう頼んます。」
    「はい。」

    頭を下げた白藤の父に頭を下げ返し、白藤に手を差し出す。

    「今までおおきに、父さん。」

    白藤が花が綻んだように微笑む。ほんのりと白藤の瞳には光る物があった。瞬間、父の涙腺は崩壊したらしく涙を流した。

    「類、今までで一番綺麗やで…。司くんと幸せにな…。」
    「おん。」

    頷いた白藤が中山の手を取った。
    並んで少しだけ歩き、中山がしゃがみこみ膝を立て、白藤に薔薇の花束を差し出した。

    「感謝、誠実、幸福、信頼、希望、愛情、情熱、真実、尊敬、栄光、努力、永遠。12の誓いを込めて、ダーズンローズを類に贈る。絶対お前を幸せにする。」

    花束を受け取った白藤はその中で一本選び、中山のポケットに差し込んだ。

    「全て捨てがたいけれど、やっぱり僕は此れがいい。永遠に続く愛。だから【永遠】の薔薇を贈ります。」

    クスクスと笑う白藤に中山は思わず目を細めた。

    (やっぱり類は永遠を選んだか。これは俺と類の願いだからな。)
    「では、これより結婚式を執り行います!」

    文学の時の編集長に司会を頼んだ為、編集長が開会を宣言した。
    では誓いの言葉をと言う声に従い、中山と白藤は誓いの言葉を書いた冊子を広げた。
    顔を見合せて先ずは中山から口を開く。

    「類さんと出会って色々な事がありました。恋を忘れていた僕に人を愛すると言う感情を思い出させてくれたのは類さんだ。僕は不器用なので、類さんを傷つけたことは数知れずです。ですが、類さんはそんな僕をずっと支え、一途に愛してくれています。僕はそんな類さんがこの世で一番愛おしく大切で、大事にしたいと思っています。これからもずっと僕の傍で笑っていて下さい。」

    二人で決めた言葉なのに、改めて口に出すと照れてしまう。久方ぶりに照れから耳が赤くなっている中山に白藤はくすっと笑った。

    「司さんは恋と結婚を諦めていた僕にもう一度恋をさせて下さりました。色んな司さんの表情を見る度にどんどんと司さんを好きになっていく。素直に甘えられて、愛を話せるのも返せるのも司さんが初めてなのです。司さんはとても不器用なのですが、それでも何時でも僕を真っ直ぐに愛してくれる司さんを僕は支えたいと思っています。寄り添って歳を重ねて行きたい。これからもずっとよろしくお願いいたします。」

    ふわりと幸せそうに微笑む白藤に中山は目を細める。

    (ああ、本当に綺麗だ。)

    今一度、顔を見合せた中山と白藤はまた頷き合い、口を開く。

    「私たちは皆様に見守られながら、本日正式に夫婦となります。まだまだ未熟な私たちではありますが、これからも温かく見守ってください。20✕✕年6月24日 新郎 中山司、新婦 類。」

    盛大な拍手が起こり、中山と白藤はまた顔を見合せ幸せそうに微笑みあった。

    「では皆さん、後ろをご注目下さいませ!!」

    編集長の声がして一斉に全員が振り返る。

    「ここで登場、司さんと類さんの家族。犬のミモザくんと猫のスミレくんです!」

    スタッフがドアが開き、中山と白藤のタキシードと同じタキシードを着ているミモザとスミレが現れる。スミレにはきちんとベールもついていた。

    「え、凄い…。」

    その事に気づいた誰かが小さくそう溢した。
    2匹の背中にはリュック型の薔薇のリングピロー。
    因みにタキシードは結婚式をすると決め、ミモザとスミレをリングドッグとリングキャットにすると決めてから、タキシードを決めて直ぐに白藤が自作した。
    どんどんと出来上がっていくタキシードに中山が驚いてたのは余談だ。

    『いや、類、お前マジで出来ない事ねぇだろ?』
    『それは前から言ってるけど出来ることだけだよ?それにミモザとスミレにもタキシード着て欲しいしね。』

    作業のために眼鏡を掛けて、柔らかに微笑んだ白藤に中山は改めて惚れ直した。
    お互いのイメージカラーのミモザと菫があしらわれた揃いの首輪をつけた2匹はお互いに顔を見合せ、頷く。
    指輪をつけられない2匹の結婚指輪ならぬ結婚首輪。それをつけ、中山と白藤と同じ格好をした2匹は寄り道する事もなく真っ直ぐと中山の元へと走って行く。
    参列者は可愛いと写真を撮り出す人、驚いている人、納得したように頷いている人がおり、それを見ていた白藤はまたクスッと笑みを溢した。

    「ミモザ、スミレ、こっちだ。」

    中山が手招けば、2匹は駆け出す。
    2匹を受け止めた中山が目を細めた。

    「大役ありがとうな。ミモザ、スミレ。」

    どうだ!褒めろー!と言わんばかりに胸を張っているミモザと嬉しそうに返事を返したスミレの頭を撫でる。2匹の背中からリングを受け取った。
    今一度2匹の頭を撫でてから指輪を持って白藤の傍へ。2匹も中山に着いてくる。

    「ふふ、スミレ、ミモザ。持ってきてくれてありがとう。」

    白藤がしゃがみこみ、2匹の頭を撫でた。
    そのまま中山と白藤の足元に座り込んだミモザとスミレにやはり可愛いと言う声がしている。

    「では、新郎新婦、指輪の交換です!」

    編集長の言葉でミモザが持ってきた、リングピローから白藤の指輪を取る。そのまま白藤の白魚のような手を取り、指輪を通していく。
    婚約指輪と違い、薬指にぴったりと嵌まった指輪。
    お互いに思わず笑みが溢れた。

    (ふふ、今度はぴったりだ。)
    (測ったし、あってて当たり前なんだが、ちょっと安心すんな。)

    今度は白藤から中山の薬指へ通していく。
    その後に今一度中山がもう一つ指輪を白藤の薬指に通した。婚約指輪であったそれ。

    (やっぱ不恰好だが、それでも。)
    (これは僕らの願いだから。)

    エンゲージカバーセレモニーと言うのは式を計画した時にこれも入れると二人で決めた。
    結婚指輪の上に婚約指輪を嵌めることなのだが、これは"二人の愛と絆に永遠に蓋をする"と言う意味がある。何より永遠を願っている二人にはこれ以上に似合うセレモニーもないだろう。
    そのまま見つめ合い、お互いに微笑み合う。

    「それでは誓いのキスをして頂きましょう!」

    その言葉で白藤の手を握った中山が白藤に顔を近付けていく。
    白藤も自然と目を閉じて顔を少しだけ傾けた。二人の影が重なる。
    その光景が綺麗と言ったのは誰だったのか。
    ミモザとスミレも嬉しそうで、尻尾を絡めて寄り添いあっている。
    ゆっくりと顔を離し、揃いの指輪見せた二人に盛大な拍手が贈られた。
    その瞬間、立ち上がり尻尾を千切れんばかりに振って跳ねるミモザとやはり嬉しそうに鳴いたスミレに一同が和んだのだった。
    結婚証明書とペンを差し出され二人は順番に名前を書いていく。

    「立会人署名なのですが、再度ミモザくんとスミレくんの出番です!」

    その言葉に白藤がスミレを抱き上げ、中山がミモザを抱き上げる。
    朱肉を差し出され、中山と白藤はまた顔を見合せて、ミモザとスミレの前足を優しく持った。
    朱肉を2匹の前足につけ、証明書に押印。
    しっかりと肉球の跡がついた結婚証明書に微笑む。

    「では、ご披露頂きましょう!」

    2匹の署名である肉球の跡がついた結婚証明書を2匹を抱き上げたまま参列者に見せた。
    また盛大な拍手が起こる。

    「今、おふたりは皆様の前で真実の愛をお誓いになりました。みなさま方、おふたりのご結婚をお認めいただけますでしょうか。ご賛同の方は、今一度拍手をお願い申し上げます。」

    先程より大きな拍手が巻き起こる。中山と白藤は柔らかに微笑み合った。

    「ありがとうございます!ご参列の皆さまのご承認をいただき、めでたく新郎司さん、新婦類さんの結婚が成立いたしました!20✕✕年6月24日、新郎司さん、新婦類さんご夫妻のご誕生です!!ご結婚誠におめでとうございます!みなさま改めて、盛大な拍手をお願い致します!!」

    盛大な拍手は収まる事は無く、白藤はただただこの空間に幸せを感じていた。
    全員温かく、自分たちの幸せを願ってくれている。

    (本当に僕は恵まれてるな…。)

    視界が少しだけ滲んだ。

    「類。」

    それに気づいた様子の中山が心配そうに声を掛けるが大丈夫と白藤は微笑んだ。

    「そうか。」

    中山が目を細めて微笑む。

    「ただいまをもちまして、新郎司さん、新婦類さんの人前結婚式を結びといたします。本日は誠におめでとうございます!!それではおふたりには、ウェディングロードをお進みいただき、ご退場いただきます。皆さまその場にご起立いただき、祝福の拍手でお見送りください!ご結婚おめでとうございます!!」

    編集長の閉会の言葉で、ミモザを床に降ろした中山は白藤に腕を差し出し、白藤はスミレを床に降ろして中山の腕に腕を回した。
    その際に咲希に名前を呼ばれて手招きされた2匹は大人しく咲希の元へ。

    (何も言わなくても咲希のとこに行くんだから、本当に賢いな。)

    思わず感心してしまった中山だった。
    退場の際にも全員からのフラワーシャワーや祝辞を貰い、笑いながら礼を返す。
    一度控え室へ戻り、今度はガーデンへ。
    アフターセレモニーの開幕だ。
    式はゲストハウスで行ったため、ガーデンに出た瞬間、今度はリボンシャワーで出迎えられる。
    これは何より人との縁を大切にしたいと思う二人だからこそ、選んだ。

    『大切な人たちと縁を結ぶだって、凄く素敵。』
    『だな。』

    白藤は昔からだが、白藤と付き合いだしてから如何に人との縁が大事なのかを中山は知った。
    アフターセレモニーも恙無く進んでいく。
    ブーケトスはブーケプルズにした。ブーケは咲希の元へと渡り、咲希は咲き誇ったひまわりのような笑顔を浮かべる。

    「いっちゃんと結婚出来るかなぁ…。」

    そう言った咲希に出来るよ。と白藤が微笑む。咲希はうんと頷いた。
    因みに話題の一歌は仕事があり、今、この場に居ないが披露宴からの参加になる予定だ。
    ブーケプルズの後はブロッコリートス。ブロッコリートスは最初はいいだろと中山は返したのだが、頬を膨らませた白藤に面白そうなのに?と言われて仕方なく中山は頷いたのだった。

    (類のお願いには勝てねぇんだよなぁ。)

    投げる姿勢でやり取りを思い出して中山は小さく笑う。
    投げたブロッコリーは風に煽られ、何故か百合子の方へ飛んで行き、思わず受け止めた百合子の腕の中へ。

    「…へ?」
    「マジか。」

    百合子が抜けた声を出して、中山も思わず溢す。
    一斉に周りが笑いだし、百合子は顔を赤らめ、思わずブロッコリーで顔を隠す。そんな百合子の傍に千代が駆け寄る。百合子が顔を隠すように千代を抱き締めて、そんな百合子の背中を千代は優しく撫でる。

    「まああれはあれでいいんじゃない?」

    クスクスと笑った白藤にだな。と中山もにっと歯を見せて笑う。

    「多分草薙が夫になるんだろうしな。」

    中山の言葉に百合子が顔を真っ赤にしてちょっと!!怒ったように返してまた一斉に笑いだす。
    その後にバルーンリリースで全員に風船が配られる。
    一斉に手放された風船が天高く昇っていく。

    「凄く綺麗。」
    「ああ、そうだな。」

    寄り添い空を見上げた。そして次は集合写真。

    「集合写真の撮影始めますね。」

    ふわっと微笑んだショートボブで何処か小動物を思わせる彼女は杏に紹介されたカメラマンだ。
    話によると杏の恋人らしい彼女の声で集合写真を撮る。
    何度かシャッターを切って、とある一枚に満足そうに頷いた良い写真が撮れましたと微笑む彼女は写真を二人に見せて来た。

    「どうですか?」
    「うん、光の加減とか凄く素敵だね。ありがとう小豆さん。」
    「白井に紹介されただけあるな。」

    いえと少し照れた彼女は式も素敵な写真が撮れましたし、披露宴も素敵な写真を撮りますね!と言う彼女に感謝して、そのまま披露宴へ。
    中山と白藤がミモザとスミレを連れて入場して、席につく。
    二匹は中山と白藤の膝に座る。

    「司会を頼まれたのは新郎の親友であるこの俺、玄田旭が失礼致します!」
    「いや、ダチだが、親友とは思ってない。」
    「ひっでぇ!!なら俺は何だよ!」
    「悪友。」

    きっぱりと言いきった中山にみなさん聞きました?一つ笑いを起こさせた玄田にやっぱ頼んで良かったなと中山はふと笑みを浮かべる。
    白藤も隣でクスクスと笑っている。

    「とまあ、じゃれ合いは此処まで。では中山夫妻の結婚披露宴を開宴致します!先ずは二人の挨拶お願いします!」

    挨拶をして、列席してくれた事への感謝を二人で述べて頭を下げる。
    自己紹介をして、主賓である中山と白藤の父たちがスピーチ。
    それでもやはり泣いてしまった白藤の父に白藤が父さん泣きすぎだよとクスクスと笑っている。
    準主賓である二人の母たちがスピーチをして、乾杯の音頭は本来は白藤の父だったのがあまりにも泣きすぎているため、急遽中山の父へ。
    乾杯と言う声と共に一斉に乾杯と声を掛けて、会食が始まった。
    シェフの彰人とパティシエの杏からの料理説明を聞きながら、個々に歓談を楽しむ。美味しいと言う声がちらほら聞こえてきており、嬉しそうな杏と頬を綻ばせている彰人に白藤に中山も目を細めた。

    「良かったな、類。全員喜んでくれてる。」
    「うん。東くんのお料理と白井さんのデザート美味しいから。頼んで良かったな。」

    写真を撮っているこはねに少しだけ手を振る杏にこはねも振り返しているのが目に入った白藤はふと笑みをこぼす。
    因みに冬弥は丁度全国ツアー中で地方に居る為、参列出来ないと申し訳なさそうに直接連絡が来たのは余談になる。
    その代わりに冬弥はビデオレターを贈ってくれた。
    ビデオレター自体は彰人と杏と最後の打ち合わせをしている時に彰人から渡された。
    ケーキが運ばれてきて、ケーキ入刀の時間に。
    ケーキ入刀をして、ファーストバイトはお互いではなく、苺を白藤がミモザに、中山がスミレに食べさせたことで、全員が笑顔になった。
    そして中座。ミモザとスミレを連れて一度退席。その際にシッターにミモザとスミレをお願いした。列席者には暫し歓談を楽しんで貰い、お色直しした中山と白藤がまた会場へ。

    「では新郎新婦のテーブルラウンドです!」

    順番にテーブルを回って行き、キャンドルを灯していく。
    その際に改めて祝辞を貰ったり、撮影したりと列席している全員と話をする。
    そしてイベントや余興へ。
    一番驚かれていたのは一歌の生演奏ではあったが、各々楽しんで皆笑顔なことに白藤はやはり幸せそうに笑った。
    そして披露宴も大詰め。
    白藤が両親への手紙を読むために立ち上がる。
    一つ一つ感謝を述べて、微笑む。

    「沢山心配かけて本当にごめんなさい。けれど僕を此処まで育ててくれて本当にありがとう。」

    そう締め括った白藤に父はまた号泣して、もう貴方と言いながらも母の目にも涙。そんな両親を見て白藤も遂に泣いてしまった。

    「母さん、父さん、ホンマにありがとう。大好きやで。」
    「おん、母さんも類の事が大好きやよ。司さんと幸せになるんよ…。」

    白藤を抱き締める母に白藤も腕を回す。
    そのまま花束贈呈へ。花束に入れる花は中山と一緒に考えた。
    白藤の母には白のルピナス、赤とピンクのカーネーション、白とピンクのガーベラ、白のカスミソウ。白とピンクの淡い可愛らしい花束。

    『白のルピナス、意味は常に幸福、思いやり、母性愛。別名昇り藤。これは絶対に入れた方がいいと思うぞ。思いやりと母性愛はお義母さんにぴったりだろ?それに類の名字は白藤だしな。』
    『前から思ってたけど、司くんって本当に花言葉と花に強いよね?』
    『ん、まあ編集やってると色々と知識入れてる方が得になるから、それに花に関しては資料で読む機会も結構あんだ。』

    花束の花の意味。赤のカーネーションは母への愛、母の愛、純粋な愛、真実の愛。ピンクのカーネーションは感謝、気品、温かい心、美しい仕草。白のガーベラは希望、純潔、律儀。ピンクのガーベラは感謝、崇高美。カスミソウは清らかな心、無邪気、幸福、感謝、親切。全て自分たちの気持ちとイメージで組んでもらった。

    「全部母さんへの僕の気持ちや。司くんと選んだんや。」
    「類…。」

    白藤の母には涙が浮かんでおり、今一度白藤を母は抱き締めて、白藤も抱き締め返す。
    そして中山の母には白を基調とした花束。差し色として紫と赤が入っている。
    カモミールとカンパニュラ、白と紫のトルコキキョウに、そして白藤の花束と同様に赤のカーネーション。

    『カモミールは絶対入れるし、メインにしたい。』
    『それはどうして?』
    『俺のお袋への一番の気持ちだな。カモミールの花言葉はーーーー、』

    ふっと笑った中山に白藤は目を細めて、そっかと微笑んだ。

    「メインになってるカモミール、あなたを癒すの他に逆境に耐える、苦難の中の力って意味があるっちゃ。」

    中山の言葉に母は目を丸くした。

    「お袋、学生の頃にほんなこつ迷惑かけてすまんかった。ずっと心配させた。」

    瞬間、中山の母の瞳に涙が浮かび、口許を覆って泣き出した。

    「ええっちゃ。」

    ふわりと微笑んだ母に中山が目を細めた。
    他の花の花言葉はカンパニュラは感謝、誠実な愛、共感、節操、思いを告げる。これは何より中山が誓いを立てたい事で気持ちだ。そしてトルコキキョウ。白は永遠の愛、思いやり。紫は希望。荒れていた学生の頃。誰よりも心配を掛けて、何度怒られたかももう覚えていないが、そんな自分を見限らず、何度でもぶつかってきてくれた母には最大限の感謝を…。
    そして中山と白藤は場所を入れ換えて、今度は中山が白藤の父へ、白藤が中山の父へと自分たちが産まれた年のワインをプレゼントした。

    「司くん、ホンマに類を頼むで…?」
    「分かってます、お義父さん。」
    「もう父さん、ホンマどんだけ泣くねん。」

    ボロボロ泣いている白藤の父に中山がしっかりと頷き、そんな自身の父に呆れる。 

    「類さん、ほんなこつバカ息子やけん、しっかり手綱握ってな。」
    「はい、頑張ります。」
    「親父、一言余計っちゃ。」

    中山の父のバカ息子と言う言葉には確かに深い愛情を感じとって白藤は微笑んで頷く。中山は父の言葉に唇を尖らせる。
    贈答を終えますと言う玄田の進行に従い、挨拶。
    先ずは中山の父が挨拶をして、そして中山が口を開く。

    「皆さま本日はご多用の中、僕たちふたりのためにお集まりいただきまして、ありがとうございました。このように盛大な披露宴を行えましたのも、ひとえに皆さまのおかげと心より感謝申し上げます。また今日の日を支えてくださった会場スタッフの皆さまにも、この場を借りてお礼を申し上げます。」

    頭を下げ、先ずは職場関係の方を見る。

    「職場の皆さま、今後は大切な家族を守るため、一層気を引き締めて業務に励む所存です。これからもご指導よろしくお願いいたします。」

    今一度頭を下げて、続いては友人たち。

    「友人の皆さま、今日の余興、仲間の良さをあらためて感じました。これからも困ったときには助け助けられる関係として、変わらぬお付き合いをお願いします。」

    また頭を下げ、続いては家族。

    「親族の皆さま、幼い頃から良くして下さいまして大変感謝しています。この日を迎えるまでの間にいろいろなことがありました。これまでに彼を沢山傷つけて泣かせてしまったのですが、」

    白藤の方を向いて白藤と顔を見合せる。白藤はふわりと中山に微笑みかけた。

    「お互いに素直に謝れる、思いやりのある関係を築くことができました。そのおかげで今では何でも話し合えるようになり、より一層絆が深まったと感じております。未熟なふたりではございますが、今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。」

    中山が今一度頭を下げて、白藤も頭を下げる。
    盛大な拍手が巻き起こった。
    そして玄田の退場ですと言う進行に従い、会場を後にして、見送りに備える。
    その際に今一度ミモザとスミレも連れてきた。
    ギフトの準備も終わらせて、列席者たちが出てくるのを待った。一人一人に礼を言いながら、ギフトを渡していく。ギフトは無難なコーヒーにした。
    最後の一人を見送り、全員で息を吐き出す。
    ミモザとスミレは小首を傾げていたが、引き上げしないとと言う言葉でまた全員が動き出す。

    「取り敢えず先に着替えだな。」
    「だね。」

    手早く着替えを済ませて、荷物の回収。
    ご祝儀や貴重品、祝電、芳名帳の確認。レンタル品の返却は咲希と両親に頼んで、今一度確認を済ませてから会場を出る。出れば既にタクシーは到着していた。
    中山は両親と咲希にタクシーに乗ってくれと声を掛け、タクシー代は咲希に預けた。

    「親父、お義父さん。ミモザとスミレを家に連れて一旦帰るので先に店に。俺の名前で予約を取っているので。」
    「咲希ちゃんがお店を知ってるのでお願いします。」

    午後からの式だった為に友人たちとは二次会はしないことを選び、遠方から来てくれている親族と食事をする事を二人は選んだ

    「はーい、まっかせて!!」

    ニコニコ笑った咲希に頼んだと中山が頷く。
    中山の父はミモザを撫でながら、ミモザとあまり遊べなかった事にがっくりと肩を落としている。

    「親父、ほんなこつミモザ好きすぎっちゃ。」

    呆れた様子の中山にミモザが可愛すぎるのが悪いと言い出した父に更に呆れた顔をした。
    スミレが僕は?と言わんばかりに父にすり寄り、キュンキュンした様子の父はスミレも可愛い!!と抱き上げ、スミレは嬉しそうにすり寄った。

    「スミレは本当に人たらしの魔性の男の子だな。」

    クスクスと笑った白藤に中山はそこも類に似てるんだよなと思いながらも口には出さず、もう連れて帰るぞと父に言えば、悲しそうに眉を下げた。

    「親父とお袋、観光ついでに2日ほどこっち居るんやろ、その間にまたミモザとスミレに会いにくれば良かっちゃん。それに明日、一回俺らん家、来るんやろ?」
    「ほんなこつええんか!?」

    そんなに遊びたいのかと中山が呆れた顔をする。

    「あ、なら、お兄ちゃん!明日と明後日アタシがミモザちゃんとスミレちゃん預かろっか!?お父さんたちアタシの家に泊まるし!!」
    「あー、そうだな。親父どんだけミモザと遊びたいんだって気もするが…。」

    類、良いか?と言う問いに白藤は頷く。

    「なら今日は連れて帰んぞ。」

    それでやっと納得したらしい中山の父に盛大なため息をつき、タクシーに乗った両親と咲希と分かれて自分たちの車へ。

    「いや親父、ミモザのこと好きすぎだろ。」

    車に乗って、エンジンを掛ける前に中山はハンドルに伏せて、また盛大なため息。

    「お義父さん、本当にミモザを気に入ってくれてるよね。けど司くんの家、咲希ちゃんやお義母さんを含めて皆、本当に動物好きだもんなぁ。」
    「まあ俺が異質なんだ。俺は好きでも嫌いでもねぇし。」
    「ミモザとスミレは可愛がってるのに?」

    少し悪戯っぽい笑みを浮かべた白藤にそれはまた別だろと拗ねたように唇を尖らせて返す。

    「司くんもちゃんとうちの子可愛い症候群発症してるよね。」
    「そりゃそうだろ、やっぱ可愛いし愛着湧くっての。」

    ふっと笑った中山にそうだねと白藤は口元に拳を当てて微笑んだ。
    自宅に帰ってきて、ミモザとスミレの足を拭き、上がらせる。
    軽く手だけ洗っているとはいえ、インクが付いている為、明日はシャンプーだなと思いながら、白藤は荷物を取り敢えず玄関へ。

    「ミモザとスミレは出したままでも平気だろ。ゲージ開けてりゃ。」
    「うん、賢いからね、2匹とも。」

    頷きながら今一度ミモザとスミレを白藤が呼ぶ。
    何?と聞いているようにお座りして白藤を見上げた2匹に大人しくお留守番しててくれる?と問いかけた。
    返事するように鳴いた2匹の頭を撫でて、両親と咲希を待たせている店に向かった。
    披露宴が午後からだった為に軽い物と気軽な雰囲気の為に選んだのは大衆居酒屋の個室だ。友人たちとは別の二次会に近い物だ。
    店に着き案内された個室からは既に笑い声。
    中に入ればもう出来上がってる白藤の父と中山の父の姿。
    白藤の父は泣き上戸で類が類がと泣いており、そんな白藤の父の背中を勢いよく叩きながら大口を開けて笑っている中山の父の姿。
    中山の母と白藤の母は我関せずと言わんばかりに二人で話をしている。

    「あ、お兄ちゃん、るいお義兄ちゃん!いらっしゃい!」
    「いや、阿鼻叫喚じゃねぇかよ。」
    「もう父さん…。」

    にぱっと笑った咲希の頬も既にほんのり赤く酔っていることは明白だ。
    ドン引きした中山と額に手を当てて大きなため息をつく白藤。

    「類、こっち来ぃな。」
    「司もこっちっちゃ。」

    手招く母たちの近くに腰を下ろしながらどうしてこうなったと聞けば、父二人の酔いが回るのが随分と早かったらしい。

    「お母さんたちも最初は止めたんだけど、もうお父さんもるいお義兄ちゃんのお父さんも聞かなくてお酒がぶ飲みするから放置しちゃったの。」

    母たちを見ればこっくりと頷く。

    「るいお義兄ちゃんのお父さんはるいお義兄ちゃんが結婚した事が嬉しい反面寂しくて、お父さんもお兄ちゃんが所帯持てた事が本当に嬉しかったみたいだよ。またるいお義兄ちゃんは本当に良い人だって永遠と言ってた!」

    にこにこしている咲希に顔を見合せる。

    「まあ親父にはお袋ほどじゃねぇけど心配させたのは確かだし、お義父さんに関して類の事が本当に可愛いみてぇだから納得ではあるが…。」
    「父さん、僕を娘みたいに溺愛しすぎなんだよ…。息子なのに。」
    「まあ俺と違って、類みてぇな息子だったら可愛がって当然だろうよ、また類一人息子だし。そうですよね、お義母さん。」

    苦笑してる中山に白藤がまた大きくため息をつく。
    そのまま白藤の母に話し掛けた中山に白藤の母は頷く。

    「司さんもかわええに決まっとるんやけど。」

    中山の母を見ながら優しい声で話す白藤の母に中山の母は頷く。

    「結局自分のお腹痛めて産んだ子はかわええっちゃ。」

    咲希もねと咲希の頭を撫でながら言う中山の母に咲希はえへへと嬉しそうに笑った。

    「けどうちと中山さんの司さんへのかわええの種類がちゃうのは確かやね。」
    「類さんも晴れて義息子になったっちゃけど、正直うちも義娘みたいに思っちょるね。類さんはかわええっちゃ。多分それが正解っちゃ。」

    それって僕って息子ってより娘みたいってこと?と何とも複雑な顔をしている白藤に中山は妙に納得してしまう。

    「娘とは一回も思ったことあらへんよ。類はちゃんと男の子や。母さんが一番知っとるよ。」

    白藤の母が白藤の頬を撫でて目を細める。

    「類は誰より優しい男の子や。」
    「…母さん。」

    そのまま一度白藤の頬から手を下ろして微笑んだ白藤の母。

    「優しいからこそ誰よりも幸せになって欲しいって事じゃねぇの?」
    「…司くん、」
    「おん、司さんの言う通りや。」

    目を閉じて口角を上げた白藤の母は頷く。

    「その大役を俺に任せてくれて、本当に感謝しています、お義母さん。類は俺が絶対に幸せにします。」

    それを見た中山は改めて白藤の母へと頭を下げた。

    「ええ、司さん。類をあんじょうよろしゅう。」
    「はい。」

    しっかりと母の顔を見て頷いた中山に白藤の顔が赤くなる。
    中山の母はそんな自分の息子の姿に思わず涙が滲んだ。

    (あの司が、)

    自分の息子が決して平穏な学生生活を送っていた訳じゃないことを知っている。
    それを助けられなかった自分たちは息子がどんどん変わっていくのを見ている事しか出来なかった。
    勿論自分たちに出来る最大限のことはしていたが、息子とぶつかる事の方が多く、高校卒業と同時に家出も同然で上京した息子を此処まで変えてくれたのは紛れもなく、息子の傍に居る彼なのだ。

    「類さん。」
    「はい?」
    「うちんのバカ息子、ほんなこつよろしゅう。」

    少し滲む視界。白藤は中山の母の目に光る物があることに気付き、そんな母の手を握って口を開いた。

    「はい、僕が必ず司くんを支え続けます。」
    「ありがとう…。」

    微笑んだ中山の母に白藤も微笑み返した。

    「お兄ちゃん、るいお義兄ちゃん、そろそろ何か頼んだら?」

    良いタイミングを見計らい咲希にそう声を掛けられて、中山はそうだなと目を細めて頷いた。
    それからは和やかに食事は進む。気がつけば夜も更けていた。

    「そろそろ解散するか。」
    「そうだね。タクシー呼ぶね。」

    中山が声を掛けて白藤が携帯を取り出す。

    「母さんたちは今日新幹線で帰るって言うてたけど…。」
    「お父さんがあんな状態やったら帰られへんわ。お父さんがお酒飲み出した時点で駅前のビジネスホテル取ったわ。」
    「まあ、せやろな…。どないする?僕が送って行こか?」

    机に伏せって寝てしまっている自分の父と中山の父に苦笑した。
    それは助かるなと苦笑する母に分かったと白藤は頷く。

    「お袋、咲希と一緒に親父運べるか?」
    「無理っちゃろ。」
    「やろな。」

    中山も問えば中山の母と咲希は首を横に振る。
    それに頷いた中山に白藤が声を掛ける。

    「ならお義母さんと咲希ちゃんたちは司くんが送って行って?また咲希ちゃんの家に迎えに行くから。タクシーは取り敢えず1台だけ呼ぶね。」
    「頼むわ。」

    お酒は飲めない白藤が車を運転するので、車で来ていた二人。
    その為、多少は飲んでいる中山に中山の両親と咲希をタクシーで送って貰うことを選んだ。
    タクシーが到着して、中山は白藤に車の鍵を渡す。

    「頼むわ。」
    「うん。」

    タクシーに自分の父を抱えて乗り込んだ中山と咲希と母を乗せて、白藤が頭を下げる。

    「また少ししたら司くん迎えに行くので、お願いいたします。」
    「うん、るいお義兄ちゃんも気をつけてね?」
    「ありがとう、咲希ちゃん。」

    手を振ってタクシーを見送り、中山の自家用車に父を抱えて、母も案内する。

    「ちょっと司くんの車だから煙草臭いかも。ごめんな、母さん。」
    「ええよ。」

    後部座席に父を放り込み、母が乗る。
    運転席に座った白藤が何処のビジネスホテル?と問い掛ける。
    母がホテル名を言い、あそこかと頷いた白藤がシートベルトを確認後、車を発進させた。
    安全運転で運転する白藤に母は自然と微笑む。

    「類。」
    「ん?何?」
    「何回も言うんやけど、司さんと幸せにな。」

    バックミラー越しに母と目を合わせた白藤は目を細めて頷いた。
    ホテルの部屋まで父を運び、ベッドに父を寝かせた白藤が問い掛ける。

    「母さんらは明日、何時に帰るん?お義母さんらはあと2~3日居るらしいんやけど。」
    「せやね、お父さんのせいで1日帰るん遅なったし、今日こんだけ飲んだんやったらお父さん直ぐに動けんやろから、明日の夕方やろか。見送り来たいと思ってるんやったらええよ。」

    また司さんとミモザちゃんとスミレちゃんと里帰りしてきてや。と母は微笑む。
    驚いたように目を丸くしてから白藤は目を細めて頷いた。

    「…おん。」
    「類。」

    母が手招き、白藤を抱き締める。

    「あんたはお母さんの一番の宝物や。いつまでも大好きやで。」
    「おん、僕も母さんが大好きや。勿論父さんも。母さん、ホンマにずっと心配させて堪忍な…。」
    「それも、もう何回も言うとるけどええんよ。」

    母の愛情にまた視界が滲む。そんな母の背中に腕を回して少しだけ涙した。それから暫く抱き締め合って、母が白藤を解放する。

    「ほなまたね、類。行ってらっしゃい。」

    肩に手を添えた母が慈愛たっぷりで微笑みかけた。

    「おん。母さん、僕を此処まで育ててくれておおきに。行ってきます!」

    そんな母に涙を拭い、白藤は花が咲くように笑った。
    そのまま入口から出ていった白藤を見送り、母は笑う。

    (類のここまでの半生はホンマに色々あったけど、あないに幸せそうな顔、久し振りに見たわ。司さんのお陰やね。おおきに司さん。)



    タクシー代を払い、父を抱えて降りた中山は咲希の家の客用布団に父を転がす。

    「親父、ほんなこつ飲み過ぎや。」

    はぁと大きなため息をついた中山に感謝を述べた母に別に良いがとふっと微笑む。

    「俺がお袋と親父にずっと心配掛けとったんは事実やし。」
    「お兄ちゃんが此処まで変われたのはほんなこつるいお義兄ちゃんのお陰っちゃね。」

    咲希に茶を手渡された中山はせやなと頷く。

    「類が居たっちゃから、俺は本来の俺に戻れたんや。」
    「…せやね。」

    幼い頃よりやはり多少の違いはあれど、中山が変わる前の性格に今が近いのは母が何より分かっていた。

    「ほんなこつ類さんには頭が上がらんっちゃ。母さんらが頑張っても戻せんかったあんたの本来の性格を引き出して…。今のあんたは優しい真面目な子ぉやった時のあんたや…。」
    「おん。それは否定せん。やから類は俺の唯一っちゃ。」

    まあ全部が全部と言う訳でもない。学生の頃の自分も自分を形成する一つなのだ。それも白藤が教えてくれた。学生の頃の自分も否定しないでと。白藤が言ってくれたのだ。

    「やから、俺は類を大事にせな。」
    「ばってん、今のあんたやったら大丈夫っちゃ!」

    快活に笑う母に中山は目を細める。
    母に言われたら、白藤と違う意味で安心する。

    「お袋、俺を此処まで育ててくれてありがとうな。」
    「どういたしましてや。」

    そこでチャイムが鳴った。はーいと返事をした咲希がインターホンに出る。

    「お兄ちゃん、るいお義兄ちゃんが迎えに来たよ!」
    「ああ、直ぐ出るって言ってくれ。じゃあお袋、行ってくる。」

    行ってらっしゃいと見送られ、咲希に戸締まりの事を言って中山は出ていく。

    「お母さん、ほんなこつ良かったとね。」
    「本当っちゃ。」
    (司、類さんをほんなこつ大事にしんしゃいね…。)



    「類!」
    「お帰り、司くん。」

    入口に立っていた白藤を呼べば、花が綻んだように微笑む。

    「じゃあ帰るか。」
    「うん。」

    差し出された手を白藤が握った。
    家に帰れば、ミモザとスミレが玄関でお出迎えしてくれた。

    「ただいま、ミモザ、スミレ。」
    「わふっ!」
    「んにゃー。」

    2匹を撫でて自宅へ上がる。

    「ミモザとスミレにご飯上げなきゃね。」
    「だな。」

    頷いたミモザとスミレにちょっと豪華なご飯を上げてから片付けだが。

    「祝儀とかは明日でも良くねぇか。」
    「まあ確かにね。ちょっと疲れちゃったし。あ、でも!」

    結婚証明書のみ取り出した白藤がテレビ台の上に飾る。
    ミモザとスミレの承認肉球マークがついたそれを見て、満足そうに頷いた白藤に愛しさが募る。

    「入籍自体はもうしてるんだが…。」

    後ろから白藤を抱き締めた中山が耳元で優しく囁く。
    白藤もその腕に手を添え、頬をほんのりと染めて頷いた。

    「これでやっと夫婦だな。」
    「…うん、そうだね。」

    結婚指輪は結婚式から着けると決めていた為に揃いのシルバーリングが嵌まった左の手を重ねる。

    「これからもよろしくな、類。」
    「うん、こちらこそだよ、司くん。」

    そのまま見つめ合い、自然と顔が近づいて行く。
    重なった唇。直ぐに離れたがまたもう一度。何度も口付けを交わす。
    中山の手は白藤の服の中へ。白藤は吐息をこぼす。

    「このまま初夜するか?」
    「…ん、けどお風呂、入りたい、な…。」

    背中から覗き込まれ、上目遣いとほんのり色づいた頬で白藤が口を開く。

    「一緒に入るか?」
    「…いいよ…、入ろ…?」

    中山の色が混ざった低音で囁かれ、白藤は潤んだ瞳で頷いた。上等と口角を上げた中山が白藤をそのまま抱き上げる。

    「わっ!?」
    「このまま風呂行くぞ。」

    かぁと頬を赤らめた白藤はこくんと頷き、中山の首に腕を回した。



    ピピピと鳴るアラームに意識がゆっくりと浮上していく。

    「…ん、」

    もぞもぞと手を動かして携帯を探す白藤だったが、自分が見つけるより先にアラームが止められた。

    「…ん?」
    「類、はよ。」

    声を掛けられて、白藤もしっかりと意識が覚醒してきた。
    目を開ければ、腕枕をしてくれている中山に愛しさがこもった眼差しを向けられて、頬を撫でられた。

    「…ぉは、よ、司く…ん…、」

    何時もより妙に恥ずかしくなり思わず中山の胸元に顔を埋めれば、笑いながらそのまま抱き締められ、中山の胸板に手を添える。

    「はは、どうした?」
    「…どうしてだろ、何か凄く恥ずかしくて、」
    「夫婦になった初めて朝だからか?」
    「…かも、?」

    やっぱ可愛すぎ。俺の奥さん可愛いわ。と楽しそうに甘く囁く中山にまた顔が赤くなる。
    その際に自分の左の薬指に2個指輪が嵌まっている事に気づいた。

    (…そっか、僕、本当に司くんのお嫁さんになったんだ。司くんが旦那さん、なんだ…。)

    改めて自覚して恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ち。そしてあまりの幸福で思わず瞳が潤んだが、笑みが溢れる。

    「…えと、司くん。これからもよろしく、ね…?」
    「ああ、こちらこそ。」

    赤い顔でおずおずと顔を上げれば、中山の顔が寄ってくる。
    白藤は目を閉じてそれを受け入れた。
    柔らかな感触が唇に触れて、離れていく。

    「なあ、類。」
    「何?」
    「一回だけ良いか?」

    それが何か直ぐに分かった白藤は更に顔を赤らめて、小さく呟く。

    「…司くん本当に絶倫だよぉ、」
    「駄目?」

    甘えたような中山の顔と声。

    (そんな顔と声、ズルい。)

    白藤は潤んだ瞳で首を横に振る。

    「…駄目、じゃない。今日は特別、だよ…?」

    その言葉に中山は目を細めて、白藤を組み敷く。
    赤い顔とうるうると潤む瞳で見上げてくる白藤があまりにも可愛い。
    胸元に寄せられた手には自身の薬指にも嵌まっている揃いの指輪がある。

    (類が。俺の嫁があまりにも可愛すぎる。こんなん我慢できねぇって。)

    新婚だし初日だしいいよな?なんて免罪符をつけて中山は白藤に覆いかぶさった。



    だがこうして日常が巡っていく。
    それでも中山は白藤を心底愛しているし、白藤も永遠に中山に恋をしている。
    プロポーズ前から結婚まで色々あった2人はこれからもこうして愛を紡いでいく。

    そう、この愛は永遠に君に捧ぐ愛だ。

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