一緒に旅をさせて頂いている○○ですとある大きな街の宿に宿泊していたツカサとルイは、次に行く街を決める為にマップを開いていた。
「む?メッセ?」
ツカサがメッセが届いている事に気付いた。
「ギルドからの依頼かい?」
「いや、違うな。此れは…」
ルイが首を傾げて問い掛けたのを否定しツカサはメッセをタッチした。
「サキだな!?」
「サキって確かツカサくんの妹さんだよね。最初はサキさんと旅をするんだったんだよね?」
目を瞬いたルイにああ。と頷いたツカサがメッセに目を通して、何ぃい!?と叫んだ。
ツカサの声量に驚いたルイが思わず耳を押さえる。
「急に叫んでどうしたんだい?」
呆れながらルイが問い掛ければ。
「サキも旅立ったらしい。サキの幼馴染み二人と。」
「え、そうなのかい?確かサキさんって。」
以前ツカサに聞いた話では元々はサキと二人で旅をする筈だったが、出発する少し前にドクターストップが掛かり旅を断念。そしてツカサ一人で旅立ったらしい。
「ああ、だが一年経過を見て、ドクターからOKが出たらしい。故に騎士志望のイチカとシホを巻き込んで旅立ったみたいだ。今、オレは何処に居るの?会いたいな!と言う連絡だ。」
ツカサの出身の村からはかなり遠く離れたこの街は、旅立ったばかりのサキたちでは来れないレベル基準の街だ。
「それなら一番最初の街に転移しようか?」
「えっ、いいのか!?」
「うん。僕もサキさんに会ってみたいし、此処はまた転移で戻ってくればいいしね。何なら一度僕も里帰りしたいかも知れない。」
「それはオレも付いて行っていいのか?」
ツカサがおずおずと問い掛けて来たので、良いに決まっているじゃないかとルイは微笑んだ。
「挨拶、だね。」
にんまりと笑ったルイにツカサはハッとした後に顔を真っ赤にした。
ルイはそんな意識しなくてもとクスクス笑ったのだった。
「サキさんに連絡してくれるかい?」
「ああ!!」
サキに連絡をすれば最初の大きな街はあと3日程で着くらしい。
「それならば、明日に転移しておこうか。」
「ああ、頼む。野営中だろうから、気を付けるようにも言っておかねば。」
夜も更け始めている。
だが、久方ぶりにサキと会える事がツカサは嬉しいのであった。
頬がほころんでいるツカサが可愛くルイはまたくすりと笑みを溢して、ツカサを呼ぶ。
「む、何…、っ!?」
ちゅっとリップ音を立てて頬にキスしたルイにツカサは目を丸くしてまた顔を赤く染める。
「嬉しそうなツカサくんが可愛くてつい。」
クスクスと笑うルイは続ける。
「やることもやってるのに、ツカサくんはいつまでも初だねぇ?そんなツカサくんが僕は好きだよ?」
「それはそれ!!此れはこれだろう!?」
赤い顔で文句を言うツカサにルイはまたクスクスと笑ったのだった。
「ところでツカサくん。」
ベッドに座っているツカサににじり寄り、ツカサの肩に顔を乗せたルイにツカサが赤い顔で固まる。
「今日、どうするんだい?」
吐息多め、艶やかに笑い掛けてきたルイにツカサは唾を飲み込む。据え膳状態のルイをそのまま押し倒したツカサはルイを見下ろす。
「当然、スるに決まっているだろう?」
目を細め、男臭く笑うツカサにルイの胸が大きく音を立てる。
(先程まであんな初な反応していたのに、こうして急に雄になるの本当にズルい。)
ツカサの首に腕を回せば、ツカサの整った顔が近付いてくる。ルイはそれを見て目を閉じたのだった。
翌日、宿屋から出た二人はルイの転移魔法で最初の街に戻ってきた。
サキたちが此処にたどり着くまではあと1日有るために本日泊まる宿を探す。
宿自体は直ぐに見つかった、旅立って初めて泊まった宿だ。
旅立ったばかりでまだお金もあまり無い冒険者たちにも良心的な値段の宿。
「当時は高いと思っていたが、今の宿の平均額に比べたらやはり此処は安いな。」
「そりゃあ、この辺り出身の冒険者が辿り着く一番最初の大きな街の宿だからね。ギルド登録もこの街だ。そう考えると僕らのレベルは随分と上がったね。」
ツカサくんが戦闘狂だからなぁとからかい口調のルイにだからそれは語弊があると言っているだろう!!とツカサは文句を言う。
ツカサとルイのレベルは既に上限に近く、近い内に上限突破をギルドに申請する予定と言うのは余談である。
「ねえ、ツカサくん。妹さんが着くのは明日だろう?なら今日は此処でデートしないかい?」
「!、それはいい考えだな!」
ぱちっと目を瞬いたツカサが嬉しそうに歯を見せて笑った。
「デートするならこの格好は相応しくないよね?」
ルイが辺りを見回してとある店のウィンドウを見て悪戯っぽく笑う。ルイが指を鳴らせば、何時も着ている戦闘服ではなく、そのショーウィンドウのマネキンとよく似ている服になっていた。これならば一般の旅行客に見えるだろう。
「流石だな、ルイ。店の商売が上がったりだな?」
「言ってもこれは一時的な物だし、今日の夜には戻るよ。本当に欲しいなら買わなきゃ、お店に申し訳ないだろう?」
ふっと笑ったツカサに悪戯っぽく笑ったルイはツカサの腕に自身の腕を絡めた。
「行こう、ツカサくん。」
「そうだな!」
デートで店を冷やかしながら、思い出話に花を咲かせた。
当時はああだった、こうだったと話ながら笑い合う。
「こうしてみると色々面白い店もあったんだな?」
「そうだねぇ。あ、魔術書の店。」
「入るか?」
「うん、入りたいな。」
連れ立って店内へ入る。
その店にある魔術書は全てルイは履修していたが、やはり心が踊る。
嬉しそうなルイを見て、ツカサは目を細めた。
「やはり最初の大きな街だから戦闘に役立つような魔術書が多かったね。最初に手に入れていたら後々魔術師が楽になりそうな魔術書が多い。けどやはり相応の値段だ。」
「確かにこの辺りの商品にしては値が貼っていたな。まあギルドもあるし、依頼をこなせば貯まる金額と言ったところだな。」
「この街を拠点に暫くとどまれるようにだね。」
そうだなと頷くツカサがあと小さくこぼす。
「どうしたんだい?」
「いや、この街に腕利きの研ぎ師が居るから、剣のメンテを頼もうかと思ってな。」
「なるほど。いいんじゃないかい?なら武器屋に行こう。」
きょとんとしたルイにツカサは顎に手を置いて空を見る。頷いたルイが促し、ツカサも頷き返して武器屋に向かう。
「あ、剣は念じれば手元に現れるよ?」
「そうか。」
頷いたツカサが念じれば、何時ものツカサの剣が現れる。それを持ち、武器屋の扉を開けた。
気難しそうなこの街の武器屋のおやっさんが顔を上げた。
「兄ちゃんたち、ここは旅行者が来るような店じゃねぇぞ。」
「今はこんな格好をしているが、旅行者ではないんだ。この剣を研いでくれないか?」
ツカサが手元の剣を差し出す。受け取ったおやっさんはほうと剣を眺める。
「よく使い込まれているな。兄ちゃんのかい?」
「ああ。頼めるか?」
「良いだろう!良い剣だなぁ。」
楽しそうなおやっさんが研ぎながら問い掛けてきて、ツカサは会話を楽しむ。
楽しそうなツカサに今度はルイが目を細めた。
「兄ちゃんなかなか戦闘好きみたいだが、そっちの美人な兄ちゃんは苦労してんじゃないのか?兄ちゃんのパートナーだろう?」
「ふふ、まあそれなりに。」
「何だと!?」
不満そうなツカサにルイは続ける。
「でもそれがツカサくんですし、僕はそんなツカサくんが旅するのが好きなんです。楽しいし飽きないです。」
「そうかい。兄ちゃん良いパートナーを持ったな。」
「ああ、自慢のパートナーで最高のパートナーなんだ。」
ツカサの真っ直ぐな言葉にルイは思わず照れてしまう。ツカサはそんなルイに気付いており、目を細めた。
ツカサとルイの様子に気付いた様子のおやっさんも目を細めた。
それから暫く。
「兄ちゃん、終わったぞ。」
「ああ、感謝するぞ、おやっさん。」
研がれた剣を見て、ツカサは目を細めた。
「よく斬れそうだ。本当に感謝するぞ!!」
「また来てくれな。」
「ああ!」
料金を支払い店を出る。
切れ味を試したいのかうずうずしている様子のツカサにルイはクスクスと笑う。
「試し斬りに少し街を出るかい?」
「いいのか!?」
目をキラキラさせたツカサにまた吹き出したルイは口を開く。
「だってツカサくん、切れ味を試したくてうずうずした顔をしているんだもの。ギルドに直接依頼を見に行ってみるかい?」
「ああ!!」
ワクワクしている様子のツカサに今の変化の魔術を解いたルイは行こうと微笑んだ。
ギルドにやってきたツカサとルイは手早くクリア出来そうな依頼を見る。
「ああ、あれはどうだい?」
「何れだ?」
ルイが指差した依頼を確認したツカサはいいな!!と歯を見せて笑う。
(ツカサくんのその顔、大好きなんだよなぁ。)
「じゃあギルドに受けると言おうか。」
受付に言い正式に依頼の受諾をして、その依頼のダンジョンへ向かう。
一度踏破したことのあるダンジョンの為、ルイの転移魔法でダンジョン前へ。
「じゃあ行くぞ!!」
「ああ、準備は出来ているよ。」
マントを翻したツカサが駆け出し、ルイも後を追った。
ダンジョン内の魔物を斬り伏せつつ、依頼の素材の魔物を探す。
魔物を斬り伏せているツカサの顔は随分と楽しそうだ。
(研がれて切れ味が上がってるんだろうなぁ。本当に楽しそうだな、ツカサくん。)
そう言う所が戦闘狂なんだよなぁと思いながら、ルイは支援に徹する。
目的の素材を回収してダンジョンを撤退。ツカサはまだ奥に行きたそうだったが、ダンジョン攻略をしていたら明日までに帰ってこられない可能性がある。
ダンジョンの出口でどうだい?と問い掛けたルイに、ツカサは楽しそうに口を開く。
「ああ、最高の切れ味だ!!おやっさんは流石だな!!」
「それは良かった。」
ツカサが楽しいなら何でもいいかとルイは目を閉じて口角だけで笑った。
「さて、街へ帰るよ。汗かいちゃったからお風呂入りたい。」
「ああ、頼む!」
頷きルイの魔法で街へ戻る。ギルドに依頼の品を届け、宿へ戻る。
「じゃあ僕はお風呂に行くよ。」
「ああ!」
頷いたツカサを確認してルイは共同の風呂へ。ツカサは剣の手入れ。
丁寧に手入れして、此れからも頼むぞと剣を撫でた。
翌日。
「お兄ちゃ~ん!!」
もうすぐ着くよ!とサキから連絡を貰い、街の入口付近でサキたちを待てば数分後にサキたちの姿が見えた。
ツカサが声を掛けるより先にサキが大きく手を振る。
「サキ!久しぶりだな!!」
「えへへ、本当に久しぶりだね!!」
駆け寄ってきたサキがツカサの手を握ったが目を丸くした。
「お兄ちゃんの手凄く固い!?お兄ちゃん今、レベル…。」
サキがツカサのレベルを見て大きな目を更に大きくした。
「98!?もうすぐカンストだね!?」
「ああ、だからもう少ししたらギルドに上限突破申請する予定だぞ。」
すっごい…と思わず漏れた様子の声。そんなサキにツカサは溌剌と笑う。
「イチカとシホも久しぶりだな!サキに付き合ってくれて感謝するぞ!!」
サキの後ろに居たイチカとシホにも歯を見せて笑ったツカサにイチカとシホは挨拶をして首を横に振った。
「あれ?」
キョトンとしたサキがツカサの後ろで微笑んでいるルイに首を傾げる。
「ねぇ、お兄ちゃん!あの人がるいさん??」
「そうだとも!紹介しよう!オレの最高の相棒でパートナーのルイだ!!」
後ろを振り返ったツカサが紹介する。
「初めまして、サキさん。ツカサくんと旅をさせて貰っているルイ=カミシロと言うんだ。」
「初めましてるいさん!!アタシ、サキ=テンマって言います!!お兄ちゃんがお世話になっています!!よろしくお願いします!!」
ツカサから手を離したサキはそのままルイの両手を握って上下に振る。
元気いっぱいのサキにルイは目を丸くした。
(ふふ、やっぱりツカサくんの妹さんだね。)
思わずルイも自然に笑みが浮かんだ。
この日は一日サキたちと過ごし、翌日。
次の街へ旅立つサキたちと別れる。
どうせならツカサも一度実家に帰るとのことで、先にこの街から近いルイの出身の村へと先に向かうことにしたのだ。
最初はルイの村へは転移魔法で移動する予定だったが、転移魔法の制約として術者自身が一度訪れた場所と言うものがあるためツカサの村へは転移は出来ない。ならばツカサがルイの村までも歩こうと言い、ルイはそれに頷いた。
「これも旅の醍醐味だろう?」
にっと笑ったツカサにそうだねとルイはふわりと微笑んだ。
3日ほど掛けて、ルイの村へとやってきた。
ルイの村は魔術師を多く輩出していることもあり、村人も魔術師が多そうだ。
その中でルイは久しぶりだなと色んな村人に話し掛けられていて、ルイもその相手の名前を呼んで返す。
「えらく話し掛けられるな?」
「ふふ、小さな村と言うのもあるけれど、幼い頃から僕の魔力が多くて高かったから、村では少しばかり有名だったからだと思うよ。」
「ああ、やはりルイの魔力は多いんだな。そんな気はしていたが。」
そしてルイが根っからの天才気質な事もあり、幼い頃から人を楽しませるような魔術を自分で生み出して、村人を笑顔にさせていたことも一つの理由である。
「着いたよ、ツカサくん。」
ある一軒家でルイが立ち止まる。
「あ、ああ。」
ルイの家だと思うと思わず緊張してしまう。
何れルイとは結婚したいと思っているツカサは此処でルイの両親に認められなくてはならない。
「そんな緊張しなくても。」
クスクスと笑ったルイがただいまと家のドアを開けた。
「お帰りルイ、久しぶりだね!」
「母さん、ただいま。」
部屋の奥から魔女であろうルイによく似た女性が出てきて、微笑み掛ける。
「ルイ!帰ったんだね!!」
「父さんもただいま。今日は家に居たんだね。」
「ルイが帰ってくるなら当然だよ!!」
「ちょっ、父さん苦しいよ!」
続いて学者であろうこれまたルイによく似た男性が出てきて満面笑みを浮かべて、ルイを抱き締める。
それだけで何れだけルイが両親に愛されているのかが分かる。
「ルイ、後ろが一緒に旅してるツカサくん?」
ルイの母がそう問いかけてきて、父に抱き締められたままそうとルイは頷く。
「そうなんだ!僕のパートナーのツカサくんだよ!」
「は、初めまして!ルイと旅をさせて頂いているツカサ=テンマと言います!!」
頭を思いきり下げた。
「ルイから話を聞いてるよ、いらっしゃいツカサくん。ルイが何時もお世話になってます。」
ふわりと微笑んだルイの母と違い、ルイの父からはチクチクとした視線を感じていたツカサはえ、ええ…と苦笑した。
(ルイのお父さんからの視線が痛すぎるんだが…?オレは何かしただろうか…?)
「君がツカサ君か。ほう…?」
ツカサをじろじろと見たルイの父は口を開く。
「君にまだルイを嫁にやるつもりはないからね?」
「っ!!」
にっこりと微笑んだルイの父からの圧が凄く、思わず汗をダラダラとかくツカサにルイが顔を赤らめた。
「父さん、何言ってるんだい!?」
「もう貴方!ルイがツカサくんに取られるのが嫌なんでしょうけどそんな事言わないの!」
ルイの母の名前を呼んで、唇を尖らせたルイの父はぎゅうぎゅうとルイを抱き締める。
そんなルイの家族を見たツカサは思わず笑ってしまう。
この短時間でルイが何れだけ両親に愛されているかが伝わった為だ。
更にじとっとした目でツカサを見てきたルイの父にツカサは笑ってしまって申し訳ないと頭を下げて、今一度しっかりとルイの父を見て、真面目な顔で口を開いた。
「…改めて、オレはツカサ=テンマと申します。ルイと一緒に旅をさせて頂きながら、結婚を前提にお付き合いをさせて頂いています。」
ツカサの結婚と言う単語にルイは顔を真っ赤にした。
(ツカサくん、結婚も考えてくれてたんだ…、初めて知った…。)
「まだ認めて貰えないでしょうが、何れお父様に認めて頂けるように精進していく次第です。」
口元に笑みを浮かべながら跪き、胸元に手を当てて頭を垂れたツカサにルイの父は目を丸くした。ふらっとルイから離れ、心底悔しそうな顔をしてルイの母に抱きつく。
「ツカサ君が格好良すぎて悔しい。まだルイを嫁にやりたくないのに、許してしまいそうになる。」
「はいはい。ツカサくん、この人は放って置いて大丈夫だから、上がって、ね。」
呆れた顔をして自身に抱きついているルイの父の背中を叩いたルイの母はそのままツカサに微笑み掛けて上がるように促す。
抱きついている父を引き摺り、奥に戻っていく母を見送り、ツカサが立ち上がれば、くんとマントを引かれる。
潤んだ瞳と赤い顔で自身を見てくるルイにどうした?と問い返す。
「本当に結婚、考えてくれてるのかい…?」
「ああ、だから必ずルイのお父様に認めて貰えるように精進するとも。」
「…そっ、か、うん。」
嬉しそうにはにかんだルイが愛しく、ツカサは目を細めた。
何だかんだ言いつつも歓迎されて、翌日。
見送りに出てきてくれたルイの両親に胸に手を当てて頭を垂れたツカサが微笑む。
「お邪魔しました。」
「また帰ってくるね。」
嬉しそうな顔をして手を振る息子にルイの両親は目を細める。
「またツカサくんと帰って来るんだよ、ルイ。」
「うん。」
ルイの頬に触れた母にルイは目を丸くしてはにかむ。
「ツカサ君。まだ結婚は認められないけど、ルイをよろしく頼むよ。」
苦笑したルイの父にツカサは目を丸くした後にええとしっかりと頷いた。
「ルイは必ずオレが守るとこの剣とお父様たちに誓います。」
鞘に収まっている剣を父に差し出したツカサが今一度と胸に手を当てて頭を垂れた。
家を出ていったツカサとルイを見送り、ルイの父はまたルイの母を抱き締めた。
「本当にツカサ君が格好良すぎて悔しいんだけど、ハニー…。」
「はいはい。」
落ち込んだ様子の自分の旦那に呆れながらルイの母は背中を叩いた。
「取り敢えずお父様に少しは認めて貰えたようで何よりだ。」
「…父さん、多分もうツカサくんのこと認めてると思うよ?」
「そうだと良いんだがな。」
困ったように笑ったツカサの腕にルイは幸せそうにはにかんで自身の腕を絡めた。
3日ほど歩き、今度はツカサの村へとやってきた。
ツカサもルイと同様に色んな相手に話し掛けられている。
「ツカサくんも色んな人に話し掛けられているね?」
「む?ああ、オレの村は騎士を多く輩出しているんだが、オレの父がそこそこに有名な王宮の騎士なんだ。だから期待はされているのだとは思うぞ。因みに母は魔女なんだ。オレにはあまり魔力はなかったが、サキは母の魔力を受け継いで魔力はそこそこに強いんだぞ。」
「なるほど、だからサキくんは魔術師志望なんだね。けどツカサくんはお父様の血を濃く受け継いでいるからあの戦闘センスなのかな?」
納得したようなルイにツカサはだと思うぞと頷く。
「まあ母の血のお陰でオレにも多少は魔力はあるんだが、実用出来る程はないんだ。」
「けどツカサくんはどうして冒険者を選んだんだい?」
ルイが首を傾げて問い掛けてきて、そう言えば言った事が無かったな。とツカサは目を細めた。
「切っ掛けはサキなんだ。サキが幼い頃は身体が弱かった事は言ったことがあっただろう?」
「うん。」
「元気になったら色んな所を旅したい、色んな物に触れて、そして見たいんだとサキは幼い頃から言っていてな。少しずつ体調も安定して旅をしようと約束したんだが、旅立てる年齢になる一年前にまた少し体調が悪化してしまってな、ドクターストップが掛かったんだ。サキの体調が安定したらと一緒にとオレは思っていたんだが、サキがオレに先に色んな物を見て触れて、アタシに教えてとそうお願いしてきたんだ。」
だからオレだけ先に旅立ったとツカサは目を閉じた。
ツカサの目指した切っ掛けに目を丸くしたルイはそっかと目を伏せた。
「だから、サキが旅立てるようになってオレはとても嬉しいんだ。」
「ツカサくんはサキくんと旅をしたいとは思っていないのかい?夢だったんだろう?」
「む?今か?今はそうだな。ルイと旅をする方が楽しいんだ。この前会ったサキもイチカとシホと旅立っている方が楽しそうだった。オレはルイと旅をするのが好きだし、サキはきっとまたイチカとシホと居れることが嬉しいんだと思うぞ。ホナミは村の教会のシスターだから旅立てなかったようだが、連絡はまめに取っているとサキは言っていたしな。」
ツカサの言葉には嘘はなく、純粋にそう思っているようだ。
「不安にさせただろうか?オレはルイから離れる気はないぞ?ゆくゆくは結婚もするとも。」
ツカサが覗き込むようにルイを見上げてきて口角だけで微笑む。
そんなツカサにドキッとしてルイは顔を赤らめて頷いた。
ツカサはそのルイの顔を見て目を細めた。
「あれ、ツカサさん?」
聞き慣れた声にツカサは目を瞬く。
「トウヤか!久しぶりだな!!」
「ええ、本当にお久しぶりですね。」
ふわりと微笑む泣きぼくろ印象的な美人な男にルイは目を瞬く。
「ルイ、紹介しよう。オレの弟分になるトウヤ=アオヤギだ。トウヤ、こっちがオレのパートナーのルイ=カミシロだ!トウヤも戻ってきていたんだな!」
「ええ、俺の相棒のアキトと共に少し里帰りしてきてるんです。えっとよろしくお願いいたします、カミシロさん。」
トウヤが隣に立っている男を紹介する。
男は不機嫌そうにツカサを睨んでおり、ルイは何となく二人の関係を察する。
と言うことは自分も不安にならずともいいだろう。
「アキト。俺の恩人で兄のような存在のツカサ=テンマさんだ。ツカサさん、こっちが俺の相棒でパートナーのアキト=シノノメです。」
「紹介に預かった、ツカサ=テンマだ!アキトだな、よろしく頼む!」
「どうも。」
手を差し出したツカサの手をやはり何処か不機嫌そうに握り返したアキトにルイは苦笑する。
そこまで敵対心を剥き出しにせずともツカサにはルイが居るのだが、アキトは自分とツカサの関係に気づいていないようだ。
「トウヤ、ノワールは元気か?」
アキトと手を離したツカサがトウヤに問い掛ける。
「ええ、元気です。今は俺の家の私有地に居ますよ。」
「そうか!それは何よりだ!」
ツカサが満足そうに頷く。
積もる話もあり、随分と盛り上がって暫く話していたツカサとトウヤだが、痺れを切らした様子のアキトがトウヤの首に腕を回してツカサを睨んだ事により、ツカサも察した様子で長時間呼び止めて済まなかったなと苦笑した。
「行くぞ。」
「あ、アキト…?」
戸惑っているトウヤの肩を掴んで半分引き摺るようにアキトは連れていく。
「すまん、ルイ。トウヤにも久しぶりに会えたのが嬉しくてな…。」
困ったように笑っているツカサにルイは大丈夫だと首を横に振った。
それにホッとした顔をしたツカサが行くかとルイを促した。
そのままそこそこに大きな一軒家の門を開けた。
「ルイ、此処だ。」
「あ、うん。」
戸惑いながら頷いたルイが門を潜った。
ドアを開けたツカサに奥からサキと同じピンクのグラデーションが掛かった魔女服の女性が出てくる。
「お帰りツカサ。」
「ただいま、母さん。」
ふわりと微笑んだサキに良く似たツカサとサキの母はルイを見た。
「貴方がツカサと旅をしているルイくん?」
「初めまして。僕はルイ=カミシロと言います。ツカサくんと旅をさせて頂いています。」
頭を下げたルイにツカサは続ける。
「ルイと結婚を前提で付き合っているんだ。ルイは公私共に最高のパートナーで相棒でな。」
「ちょっ、ツカサくん!?」
まさかそのまま紹介されるとは思っておらず焦ったルイだったが、ツカサとサキの母ははいはい、知ってるわよ。と笑った。
「サキからも連絡を貰った時にるいさん凄くいい人だった!!って聞いているし。ルイくん、何時もツカサがお世話になっているわね。上がってちょうだい。」
ツカサの母に知ってると言われたのもとにかく驚きだったがルイは戸惑いながら返事を返してツカサの家へとお邪魔した。
夕飯までには時間があるためにツカサがルイに声を掛ける。
「ルイ、少しだけ出掛けよう!オレの村に来たら絶対連れて行きたかったところがあるんだ!」
「うん?いいよ、行こう。」
ツカサが楽しそうに言う為にルイは頷く。
ツカサの母に声を掛けたツカサはルイを連れて家を出た。
ツカサの案内に従い、ルイが後をついて行っていると。
「あれ、ツカサくん?」
「む、レンか!久しぶりだな!!少し背が伸びたか?」
「うん!ちょっとだけ伸びたんだよ!」
にこにこ笑っている少年にルイが首を傾げる。
「ルイ、紹介しよう!騎士を目指しているレン。レン=カガミネだ。」
「初めまして!ボクはレンっていうんだ!!あなたは?」
「初めまして、レンくん。僕はツカサくんと旅をさせて貰っているルイ。ルイ=カミシロだよ。」
ルイくんだね!よろしくね!!と手を差し出して来たレンの手を握り返した。
「帰ってきてるんだったら、ツカサくん!剣の練習に付き合って!!」
「む、それは構わんが、明日でもいいか?今日は用事があってな。」
「うん!大丈夫!!明日、約束ね!!」
手を振るレンと別れて、また歩きだして暫く。
少しだけ山登りをすれば、開けた場所に出る。ふわりと優しい風がルイの頬を撫でた。
そろそろだなと呟いたツカサがルイを呼び、指を差す。
「わぁ…」
思わず感嘆が漏れたルイにツカサが満足げに頷いた。
地平線に沈んで行く太陽。目の前に広がるのは広い海だ。
そう言えばツカサの村は騎士を多く排出していると有名な村だが、絶景が見られる事でも有名だった。
今は魔物も多く、言うなれば国の端のような場所で動線も無いため訪れるのは冒険者くらいのようだが。
「綺麗だろう。」
「うん、とても…。」
「サキも此処が大好きでな、世界にはこんなところが沢山あるんだよね、アタシも見てみたいなといつも言っていた。此処もオレが冒険者を選んだ理由の一つなんだ。オレもこのような場所が沢山見たいと思っている。」
ツカサが絶景があると聞くと少し難しい場所でも行こうとしていた理由を知ったルイはそっかと目を細めた。
「ねえ、ツカサくん。連れて来てくれてありがとう…。」
「ああ。」
目を細めて頷いたツカサにルイはまた口を開く。
「これからもこんな場所を沢山見に行こう。これからもよろしくね。」
「ああ、こちらこそだ!!」
にかっとキラキラと輝く太陽のように笑ったツカサにルイは花がほころんだように笑ったのだった。
太陽が沈む間際にルイと名前を呼ばれて、ルイはツカサを見た。
ツカサはルイをじっと見ており、察したルイは目を閉じて少しだけ顔を傾けた。
直ぐに唇に触れた柔い感触、直ぐに離れたそれ。
キスなど何度もしているはずなのに妙に照れてしまい、二人で照れながらくしゃりと笑った。
ツカサの実家に帰ってくれば、食卓の上には豪勢な料理の数々。
目を丸くしたツカサとルイは顔を見合わせる。
「今日はツカサが帰ってきて、未来のお嫁さんを連れて帰ってきたんだからお祝いよ!」
楽しそうなツカサの母にツカサとルイは妙に照れてしまう。
「さ、座って頂戴、ルイくん!ツカサもほら!」
「お邪魔します。」
「母さん、めちゃくちゃテンション高くないか…?」
ルイが頭を下げて椅子に座り、ツカサは自身の母のテンションの高さに戸惑いながら椅子に腰掛けた。
ツカサの母は嬉しそうに微笑んだのだった。
その後、ツカサの父も帰ってきて、ツカサの父にも認められたルイは気が抜けたように笑っている。
そんなルイを見て、ツカサも自然と口角を上げて笑っていた。
翌日。レンの鍛練に付き合ってから、夕方。
「ルイくん、また来て頂戴ね。」
「はい。」
「ツカサもまた帰ってきなさいよ?」
「分かっているとも。またルイと帰ってくる。」
ツカサの母はルイに微笑みかけ、ツカサの方を振り返る。
母の言葉にしっかりと頷いたツカサに母は満足げに頷く。
「身体に気をつけてね。」
「ああ。」
目を細めた母に頷き、ルイの方を向いたツカサにルイが頷く。
呪文の詠唱を始めたルイの足元に魔方陣が浮かび、ツカサもその魔方陣の中へ。
「行ってくるぞ、母さん。」
「お邪魔しました。」
真っ直ぐ母を見つめてきたツカサとふわりと微笑んだルイの姿が消えたのを確認したツカサの母は行ってらっしゃいと微笑んだのだった。
サキと逢う為に戻る前の街に戻ってきた。
「帰って来たね。」
「ああ。さて、今日の宿を探しに行くか。」
「そうだね。」
にかっと笑ったツカサにルイも微笑みながら頷く。
「次は何処に行くんだい?」
「そうだな…、それも宿に入ってから決めるか。」
並んで歩きながら本日の宿を探し始めた。