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    ふゆふゆ

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    逆行転生王ロゼ🌟🎈、思春期編 Part1
    あまりにも長くなってきているので、前編後編に分けます。
    先ずは前編。共に過ごす為の第一歩。
    ですが、王🌟には少々酷な関係になります。

    貴方と共に天寿を全うするためにⅡ 前編「身分を隠して騎士団に入団するぞ。」

    オレがそう言った瞬間、全員が一斉に驚いたようにオレを見た。

    「いや、ツカサさんあんた何言って…、」

    先ず最初に立ち直ったのはアキトのようで、アキトは呆れたように返す。

    「そうだよ、ツカサ様。ツカサ様は守られる立場でしょうが。」
    「そう言う事は我々が行いますから。」

    ミズキとルイが口々にオレを止めるが、オレの意思は揺らがん。

    「オレは本気だぞ。もっと強くなりたい。お前たちを守るためにも。」
    「お兄ちゃん…。」

    サキがじっとオレを見つめてくる。

    「お兄ちゃんがその目をしている時は絶対意思を曲げない時だね。」

    少し眉を下げたサキにああと頷く。

    「…分かった。じゃあアタシはお兄ちゃんの意思を尊重する。」
    「サキ!?いいの!?」

    驚いたようなイチカにサキは頷く。

    「けどお兄ちゃん、無茶はしないでね…?」
    「ああ、分かっているとも。ネネ。」
    「王妃様に伝えておきます。多分手を回して下さることでしょう。」
    「ああ、感謝する。」

    オレの革命についての話はいつの間にか母上に知られていた。恐らくネネが話したのだとは思うが、無理はしてはいけませんよと頬を撫でられて早くも数年。
    この革命について、未だにルイたちには話してはいない。
    だが基盤は少しずつだけど出来始めているのを感じていた。

    「あーもう、分かりました。んじゃあオレも付いて行きますよ。」
    「ボクも付いて行くよ、ツカサ様!」
    「ぼ、ボクも頑張るよ、ツカサくん!」

    賛同してくれたアキトとミズキ、レンに感謝すると微笑んだ。
    ルイは何とも言えない顔をしてオレを見ていた。

    「ルイ、」
    「…何ですか、ツカサ様。」
    「許してくれるか?」

    ルイに伺いを立てれば、ルイはため息を吐く。

    「…今の貴方、僕が何を言っても聞いてくれないでしょう。貴方の無茶は昔からだ。それに振り回されるのも馴れました。何年貴方にお仕えしていると思っているのですか。」

    ふいっと顔を逸らしたルイの一人称が私から僕に変わったのは数年前からだ。
    距離が近くなったのも確かなのだが、此処最近は何故かルイが冷たい。

    (何でだろうか。気持ちはバレていない筈なのに。)
    「アキトくん、ミズキ、レンくん。ツカサ様をよろしくお願いいたしますね。」

    幼い頃トウヤの国から帰国後直ぐに全員で剣の稽古始めて、早々にルイが武芸を諦めていたのは余談だ。ルイには武芸の才が無かったらしい。
    だがそれからどんどんとルイのオレへの当たりが強くなっている気がする。

    (…ルイ、流石のオレも凹むぞ…?好きな相手にそんな態度をとられたら…。)

    そんなこんなでルイとすれ違ったまま騎士団にアキト、ミズキ、レンと共に入団したオレは必死に訓練に食らいついた。
    王室でやる剣の稽古と本場でやる訓練は全然違うもののようだ。
    だが、自分が強くなっている自覚もある。
    ミズキとアキトには才があるようで、めきめきと実力を伸ばしている。

    (…くそ、レンはオレと同じくらいだが、ミズキとアキトには追い付けない。オレが守りたいのに。)

    多分これを言えば、アキトとミズキは自分たちがオレを守るからそれでいいでしょと言うことだろう。
    それでは駄目なのだが…。
    行き詰まってしまいぐっと歯を食い縛る。
    そんな訓練の合間に息抜きに街にお忍びで降りる。
    これももう慣れた物でオレは国民たちと身分を隠して仲良くやらせて貰っている。

    「お、マイルスじゃねぇか!」
    「マイルスさん、いらっしゃい。」
    「マイルス、お前騎士団に入ったんだって?」
    「どうだ?騎士団!」

    国民からはオレは何処かの貴族の坊っちゃんになっている。
    護衛を付けずとも一人で立ち回れるようにもなったので、今はもうミズキたちを連れて街に降りてはない。
    恐らくルイたちは気付いているのだろうが、黙認してくれているらしい。
    だが、リアルな民の声が聞けるこの時間は何物にも変えられない。

    「ああ!そうなんだ!いや、やりがいはあるぞ?厳しいが…。」
    「まあそう落ち込むなよ、マイルス!これ、持って行きな!」

    差し出された林檎に感謝すると笑い、受け取ると背中を励ますように叩かれて、痛いじゃないかと笑う。
    そんな中でもやはり聞こえてくる、王室への悪口。
    と言うより父王の悪口だ。
    そう言えば母上とサキは前から聞いていないが、気がつけばオレへの悪口は聞かなくなったなとふと考えた。
    オレの態度の改めが理由ならば嬉しいことはないがな。

    「今は王子様の方が随分としっかりしていると聞くが?」
    「王妃様の心を受け継いでおられるのだろう。」
    「早く王子様が国を継いでくれないだろうか。」

    その言葉に思わず頬が緩む。オレのやっていることは間違いじゃないらしい。
    だが、聞かなくなったなと思った矢先の事。

    「心を入れ替えたと聞くが本当か?」
    「玉座についたら王と同じ振る舞いをするのではないか?」
    「何せ王子様は幼い頃は我が儘放題だったそうだからな。人がそう簡単に変われる物か。」

    ぐっと歯を食い縛る。オレはまだ信頼されていない。
    もっともっと頑張らねばならない。
    そこで幼き日に見た懐中時計が目に入る。
    騎士団に入って多少の給金が出るようになり、自分で使えるお金が増えている。
    考えたら幼い頃のお金は結局国民の税だった為、買っても絶対にルイには受け取って貰えなかった気がする。

    (今なら買っても許されるだろうか…。ルイにプレゼントしても受け取って貰えるだろうか…。)
    「ん?マイルスさんじゃないか。どうしたんだい?その懐中時計を見つめて。」

    その店の店主に話し掛けられ、はっと我に返る。

    「あ、いや、これを好いている相手にプレゼントにしたいと思ってな…。」
    「ほう!いいじゃないか、マイルスさん!」

    何ならおまけしとくよと店主がウィンクを一つ。

    「いいのか!?」
    「ああ、好きな相手に渡すと言うのに心を打たれたからね!」
    「あ、けど待ってくれ、やはりそのままの金額で頼む。」
    「いいのかい?」

    驚いた様子の店主にやはりプレゼントなのだから、そのままの価値で渡したいのだと言えばそうかいと店主は目を細めた。

    「分かった、ならこのままの値段で売ろう!今日買って帰るかい?」
    「ああ、頼む。」

    店主が懐中時計を包み、オレに手渡してくるのを受け取って、礼を述べた。
    上手くいくといいねと言う店主にそうだなと笑い、オレは離宮に戻った。

    「ルイ、少し良いだろうか。」
    「何ですか、ツカサ様。」

    仕事をしているルイに声を掛けて、ルイに先程の懐中時計を差し出した。

    「…これは?」
    「…あ、いや、お前に受け取って欲しくて、買ったんだ。あ、きちんと騎士団で働いて自分で稼いだお金だぞ!?ポケットマネーと言う奴だ!!」

    瞬間ルイにじとっとした瞳で見られる。

    「また僕に黙って街へ降りましたね…?」
    「うぐ、す、すまん。それで、受け取ってくれないか?」

    おずおずと時計を差し出せば、ルイは首を横に振った。

    「いいえ、受け取れません。」

    きっぱりと告げられた言葉にショックを受けた。

    「…何故?」

    思わず震える声で問い返す。

    「…ツカサ様。僕は一介の執事に過ぎません。貴方に施しを受けられる立場じゃないのですよ。」
    「っ!」
    「ツカサ様。安易にこのような事をなさってはいけません。勘違いをさせてしまいますから。」

    そう言って綺麗に微笑むルイに気付く。ああ、今、一線を引かれてしまったと。

    「…お前に勘違いをして欲しくてやっていても、か?」
    「なりません。僕は貴方に使えている執事でしかありませんから。」

    ギリッと歯を食い縛る。

    「…分かった。時間を取らせてすまなかったな。」

    ルイに背を向けて、ルイから離れればルイが小さく呟いた。
    申し訳ありません、ツカサ様。僕は貴方には相応しくありませんから。その言葉はオレの心を酷く抉ったのだった。
    部屋に戻り、衝動的に懐中時計を投げてしまいそうになったがぐっと堪えて肩を落とした。

    (オレはルイ。お前と幸せになりたいのに。)

    オレの立場がルイとの未来を邪魔するのであれば、捨ててしまえと一瞬馬鹿な事を考えた。
    だが、今、オレがこの立場を捨てたら、国民たちはどうなる。あの暖かい人たちをオレは捨てるのか?

    (そんな事出来るわけが無いのだ。)
    「…くそ、」

    どうにもならずその場に座り込んだ。
    それからはルイに一線引かれた事を忘れるように騎士団の稽古に打ち込んだ。
    懐中時計は飾ると辛くなってしまうので、箱のまま鏡台の奥にしまい込んだ。
    そのお陰なのかアキトとミズキにも追い付けていると思う。オレたちを見てレンも焦っているみたいだから一度話をした。

    「ボクもアキトくんとミズキちゃんと一緒にツカサくんを守りたいのに…。」
    「レン、焦ったら良くないぞ。共に頑張ろうじゃないか!レンならやれる!!」
    「うん!!」

    これで迷いは晴れたようで、レンも徐々に腕を上げていくのは余談になる。
    そんな中で初めて騎士団の仕事で3日ほど遠征する事になった。
    それをサキたち伝えれば、許可できる訳ないでしょう!?とルイに怒られる。

    「だが、仕事だぞ?」
    「そう言う問題じゃありません!!貴方を危険な目に合わせる訳に行かないと言っているのです!!貴方、ご自分の立場を理解なさっていますか!?」

    ヒートアップしているルイにまあまあとミズキとアキトがルイを止める。

    「ミズキとアキトくんも何故止めないのですか!?レンくんもです!!君たちが今は一番ツカサ様の近くに居るでしょう!?」
    「いや、ボクたちはツカサ様の意思を尊重したいしねぇ。」
    「ツカサさんがやるって言い出したら聞かねぇの分かってるし。ルイさんも分かってんだろ。」

    ミズキとアキトがオレを庇うように前に立つ。持つべき物はオレを尊重してくれる従者だなと勝手に納得しながら頷く。

    「ボクもツカサくんの意思を尊重したい。ルイくん許して…?」
    「だから許可できる訳がないと、「ルイ、落ち着いて。」ネネさん…。」
    「ツカサ様の性格は分かってるでしょ?」
    「そうだよ、るいさん。お兄ちゃん頑固だもん。今のお兄ちゃんになに言っても聞いてくれないよ…。」
    「サキ様…。」

    ネネとサキにまでそう言われてしまえばルイはぐっと詰まった顔をする。
    イチカやシホ、ホナミも頷いており、ルイの味方はいないらしい。

    「でもお兄ちゃん、絶対無茶しないでね!!」

    サキのお願いに頷く。

    「ああ!オレが無茶しそうになったらミズキとアキト、レンが止めてくれるだろう!」
    「あれ、それボクたち任せなの?」
    「はぁ、もう…。分かりましたよ。あんたに何年支えてると思ってんだ。」
    「頑張って止めるね!!」

    ミズキの惚けた声とアキトの呆れた声。レンは可愛い。

    「ツカサ様はボクたちがちゃんと守るから、任せてよ、ルイ。」
    「ああ。ツカサさんに傷はひとつもつけねぇよ。」
    「ボクも約束する!!」

    ミズキとアキト、レンが頼もしすぎるんだが。オレは本当に恵まれているな。思わず自然と笑ってしまう。

    「と言う事だから、遠征には行くぞ?」
    「っ!」

    息を飲んだルイがオレを睨む。

    「もう勝手にして下さい!!僕は知りませんから!!仕事に戻ります!!」

    ルイが勢いよく閉めた扉を見つめる。ズキっと心臓が痛んだ。

    (オレが悪いんだろうが、やはり辛いな…。)
    「ツカサ様、元気出して、ルイがああ言ってるの、ツカサ様が大事だからだよ?」
    「…そうだと良いんだが。」

    この日からルイが更に余所余所しくなり、話し掛ける事も儘ならない。
    話し掛けても僕、忙しいので。と直ぐに離れて行ってしまう。
    変わらずズキズキと痛む胸。オレは何処で間違ったんだろうか…。
    前と同じにならないように努力しているのに、前より距離が出来ている。

    (何でだ…?どうしてルイとは上手く行かない…?他の事は順調なのに…何でなんだ…。)

    泣きそうになるのを堪える。
    オレはただルイと共に過ごしたいだけなのに…。
    これはやり直しが始まってからずっと変わっていないのに。
    こうしてルイとすれ違ったまま遠征に向かう日になってしまった。やはり離宮を出る際にルイは見送りにも来てくれない。また凹んでしまう。

    「マイルスくん、ロゼくんの事は一先ず置いとこう?」
    「そうだよ、近くの村に物資を届けるだけの普通の遠征ではあるけど、危険な事には変わりないんだよ、マイルス様。気を引き締めて。」
    「マイルスさん、ロゼさんは拗ねてるだけだって、気持ちを切り替えろよ。」

    騎士団の遠征用の馬に乗り、レン、ミズキ、アキトに囲まれて励まされ頷く。
    今は目の前の事に集中せねば。
    遠征自体は恙無く済み、その帰り道。
    とある馬車が動きを止めているのが目に入る。
    騎士団長及び他の団員もその違和感に気づく。

    「何か様子が可笑しいわね。」
    「団長、近寄ってみますか?」
    「ええ。」

    馬の進行方向を変えて、団長が馬車に近づけば、他国の王家の紋章がついている。

    「これは。」
    「フェニックス国の王家の紋章ですね。」

    ここでオレも思い出す。そう言えば、近い内にフェニックス国の姫が交流に来るんでは無かっただろうか。 
    母上も仰られていたし、オレの婚約者候補だと父王が言っていた。
    婚約者云々など前回は無かった気がするんだが…。それはこの際置いておく。
    馬車の中を見れば、藻抜け空だが。これは先程まで乗っていたのでは無かろうか。

    「これは緊急自体かも知れないわ。総員、フェニックス国の王家の者を探し出しなさい!」
    「は!」

    団長の指示に全員が敬礼をして、フェニックス国の王家の者を探しだす。
    散り散りになった団員にオレたちも行くぞとミズキたちに声を掛けた。

    「あれ、今度来る予定だった方たちか?」
    「恐らくな。早く見つけねば不味い。下手したら国際問題になる。」
    「それは大変だね…。」

    アキトの言葉に頷けば、レンは不安そうな顔をする。

    「だからこそ早く見つけるんだ!」

    馬の手綱を引き、尻を叩き身を屈めて駆け出す。
    それから数十分後。姫は存外あっさり見つかったが、恐らく盗賊、金品を盗むだけではあき足らず、女性に乱暴をするような下品な男たちに囲まれていた。聞こえてくる発言は品性を疑うような物ばかりだ。思わず顔をしかめた。
    ミズキとアキトもオレと同様で、レンは男たちを睨んだ。
    恐らく姫である二つ括りの桃色の髪の姫を二人の騎士が守っているだけで、形勢はかなり不利だ。
    二人ともかなり磨耗している様に見える。
    しかも騎士は二人とも女騎士らしい。白のショートの背の低い騎士は息を荒らげてフラついており、そんな背の低い騎士と姫である桃色の少女を守りながら、黒髪のショートの背の高い女騎士は一人奮闘をしているが、かなり息が荒いため、限界が近いことが分かる。

    「カナデちゃん、マフユさん、もういいよ!!あたしの為にもう傷ついて欲しくないよぉ!!」

    姫は泣きそうになりながら騎士たちを止めている。
    きっとあの姫はとても優しい心の持ち主なのだろう。
    自分のせいで傷ついている騎士たちを見ていられないのだ。

    「駄目、エム姫はわたしたちが守るから…っ!」
    「そう。私とカナデに任せて。」

    そうは言ったが黒髪の女騎士はふらりと体勢を崩す。

    「マフユ!!」

    背の低い騎士が彼女の名前を焦ったように呼んだ。
    それを見た瞬間、オレは馬から飛び下りて駆け出した。黒髪の女騎士を庇って盗賊の攻撃を剣で受け止めて弾いた。

    「わわ、ツカサくん!!」
    「もう!!ツカサ様は!!」
    「んとツカサさんは、後先考えねぇ人だな!!」

    ミズキ、アキト、レンも馬から降りて応戦する。
    ぐらっと傾いた黒髪の女騎士をミズキが受け止め、アキトも背の低い騎士を支えた。
    レンは姫に大丈夫?と問い掛けている。
    ミズキとアキトが女騎士たちを姫の横に座らせて、立ち回るオレを支援してくれた。
    盗賊を全員峰打ちにして、姫たちに大丈夫かと問い掛ける。
    大丈夫と頷く姫たちにほっと息を吐き出し、馬車に戻りましょうと声を掛けた。
    支えて歩きだした瞬間の事。

    「この野郎!!」

    一人の男が起き上がる。どうやら打ちが浅かったらしい。

    「ツカサさん!!」
    「ツカサ様!!」
    「ツカサくん!!」

    焦ったミズキたちの声がする。剣を出して応戦する間もなくオレは頭を思いきりその男に殴られていた。
    ぐらっとぐらつく視界、思わずその場に膝をつけば、もう一発頭に食らい、更に視界がぐらつく。

    「ツカサくん!!」

    レンがオレの前に飛び出て男の腹に思いきり峰打ちをかまし、男は倒れ込む。
    オレもそのまま意識を失ってしまったのだった。
    最後に聞いたのは焦ったミズキたちの声だった。



    「君たちがツカサ様を守ると言ったんだろう!?なのに何故ツカサ様が怪我をしているんだい!?」

    ルイの感情をむき出しにした怒っているような泣きそうな声が聞こえる。

    (そんなに怒ってるような泣きそうなような声を出して、どうしたんだ、ルイ…。)

    ぼんやりとする頭。
    体を包む柔らかな感触。
    オレはどうなったんだ…?
    盗賊と応戦してからの記憶が曖昧だ。
    ゆっくりと身体を起こす。

    「…っ、い、」

    ズキンと頭が痛み、思わず頭を押さえた。

    「お兄ちゃん!!お兄ちゃん大丈夫!?今、お医者さん呼ぶから!!」

    泣きそうなサキの声。

    「え、ああ?」

    状況が理解できずに反射で頷く。

    「ねねちゃん!!お医者さん呼んで!!」
    「畏まりました、サキ様。」

    オレはどうなったんだ?

    「ツカサさん、まだ頭がぼんやりなさってますね。何があったか覚えてらっしゃいますか?」
    「…ホナミ、いや、全く。」

    ホナミの問い掛けに首を横に振る。

    「ツカサさん、フェニックス国のエム姫様たちを助けて怪我をされたんですよ。」
    「イチカ…?」

    イチカの言葉に何となく思い出してくる。
    ああ、そう言えばそうだったな。

    「あ、医者来ましたよ。」
    「シホ。」

    シホの言葉に医者がオレに近づいてくる。

    「大丈夫ですか、殿下。」
    「多分、大丈夫だと思う…。」

    医者の言葉に戸惑いながら返せば、検査しますねと声を掛けられて、脈拍、血圧などを測られる。

    「脈拍等々安定されていますね、大丈夫だと思います。ですが頭を殴られていますので、数日は安静になさって下さいね。」
    「ああ、感謝する。」

    では私はこれでと離れていく医者がまた何かございましたらお声掛け下さいと頭を下げて、部屋を出ていく。そしてオレは思い出す。

    「っ!!エム姫たちは無事なのか!?女騎士の二人ともかなり磨耗していたが!?」
    「彼女たちは無事です、騎士団の皆様が王宮に案内されました。」

    ネネの言葉にほっと息を吐けば、そんな問題じゃありません!!とルイに大きな声で怒られる。
    思わずルイの名を呼べば、ルイがベッドの方近づいてくる。

    「貴方は本当に何を考えているのですか!?馬鹿なのですか!?」
    「っ、」

    返す言葉もなくぐっと詰まる。確かにオレの不注意でこうなっている。鍛練が足りなかった。

    「る、ルイ、落ち着いて、ボクたちが悪かったから。」
    「そうだとも!元々遠征を許しては無かったけれど、君たちが守ると言うから君たちにツカサ様を任せたのに、何故ツカサ様に怪我させているんだい!?」

    ミズキが謝りながら、ルイを止めるがルイが下を向いて大きな声で怒鳴っている。
    その言葉にアキトはばつが悪そうに顔を逸らし、レンは下を向いてしまう。

    「ルイ、落ち着いてくれ。そもそもこれはオレの不注意だ。ミズキたちをそんな叱らないでやってくれ。レンに至ってはきちんとオレを守ってくれたんだ。」

    更にルイがヒートアップする前に止めるように声を掛ける。

    「貴方はいつもそうだ!!」

    ばっとこちらを振り向いたルイは泣いており、オレを目を丸くする。

    「貴方が頭から血を流し意識を失っている状態で騎士団の皆様に連れて帰ってこられた時の僕の気持ちを考えたかい!?」
    「す、すまん。」
    「謝罪が欲しいんじゃない!!」

    反射的に謝ったオレにルイはまた下を向いて大きな声で怒鳴る。

    「…俺が貴方の傍に居れない時に怪我しないで。」

    怒鳴った時とは逆。切ない響きを持った声だった。ルイが俺と言うのも初めて聞いた。そのままその場に崩れ落ちて顔を覆って泣き出したルイにオレは戸惑う。

    「みんな、一旦お部屋出よ。多分お兄ちゃんとるいさんを二人きりにしてあげた方がいいと思うんだ。」

    サキが部屋の中に居る全員に声を掛ける。それに全員が頷き部屋を出ていった。
    部屋にはオレとルイの二人きりだ。
    オレは震えるルイの肩に手を添えて話し掛ける。

    「ルイ、泣かないでくれ…。ルイに泣かれてしまうとオレはどうしていいか分からない…。」
    「泣かせているのは貴方だ…。」

    嗚咽を溢すルイを衝動的に抱き締める。素直に抱き締められてくれたルイにふと最近のルイの態度の理由を察した。

    「…なあ、ルイ。オレの勘違いだったら悪いんだが…、」

    最近のルイの態度はルイがオレの傍でオレを守れないから、か?アキトたちに嫉妬した、のか…?
    と問い掛けてみた。ルイに武芸の才が無いのは、最初に剣の稽古を始めた時に分かっていた。
    剣の稽古をしているオレたちを複雑そうに見つめていたのも知っている。

    「そうだよ!!」

    もうやけくそのような言い方だ。

    「なあ、ルイ。これも勘違いだったらすまん。ルイはオレが好きか?その、恋愛感情で…。」
    「っ、」

    ぐっと詰まったルイの反応は紛れもなく肯定で。
    それに心が歓喜に震えた。

    「主君に対して、僕は何て感情を持っているのでしょうか…、申し訳ありませ…、「謝るな。」…っ!」

    自嘲を含んだ声でまた下を向いてしまったルイの言葉に被せるように返す。ルイはオレの顔を見た。

    「オレだってお前が好きなんだ。教会で初めて会った時からお前が好きなんだ。だから…、」

    しまい込んだ懐中時計を取り出してルイに差し出す。

    「だからこれをお前に渡したかったのに、お前が受け取ってくれなかったから…。」

    今度は受け取ってくれるか?と問い掛ければ、ルイはやはり首を横に振る。

    「受け取れません…。」
    「何故?」

    やはり受け取ってくれないルイに問い返す。

    「ツカサ様。貴方の事をお慕いしているのは事実です。だからこそ受け取れないのです。」

    泣き笑いのような顔をしたルイがまた下を向いてしまう。

    「貴方はこの国の王子です。何れ王座を継がれ、然るべき国の然るべき姫を娶り、世継ぎをなさなければなりません。それだと言うのに僕が懐中時計を受け取ってしまったら、貴方の気持ちを受け入れた事と同義だ。貴方は一途ですから、きっと僕が受け取ってしまえば僕しか愛さないでしょう。それは何年も貴方に支えているのだから分かります。」

    ルイの言う事は正しく、ルイと結ばれてしまったらきっとオレは姫と世継ぎをなす事は出来ないだろう。

    「僕はただの執事に過ぎません。性別も貴方と同じ男だ。世継ぎを産むこともままなりません。仮に僕が女性で貴方の世継ぎを孕めたとしても、僕は貧民街の出身ですから、貴方に決して釣り合わないのですよ。ツカサ様…。」

    はらはらと涙を流すルイにギリッと歯を食い縛る。
    どうしてこうもままならない?オレはルイと共に居たいだけなのに。
    だから勢いでこう言ってしまったのだ。

    「ならルイ…。国も立場も捨てると言えばオレと共に来てくれるのか…?」
    「…出来るならそうしたいと思います。ですが、貴方は国を、民を捨てられないでしょう?そもそも僕はそんな無責任な事を平気で言う貴方を好きになったりしません。今も苦しそうだ。」

    儚い笑みを浮かべたルイに何も言えなくなる。
    ルイと国民、天秤に掛けたとて選べる訳がない。
    いや、転生前のオレならきっとルイを取るだろう。国民などどうでも良かった頃のオレならば…。
    だが今は違う。マイルスとして街に降りている時に話す国民たちのあの笑顔と温かさをオレは守りたい。

    (だがそれで良いのか、オレ。オレはルイとやり直す為に戻って来たんじゃないのか…?)

    此処で選択を間違えばきっとオレは後悔する。
    どうしたら両方手離さずにいられる?考えろ、頭を回せ…。

    (…一か八かだが、トウヤとネネに知られているようにルイにも話してみるか…?)

    信じて貰えないかもしれない。呆れられてルイの気持ちはオレから離れていくかも知れない。

    (だが、このまま何も話さないままだとオレは後悔するんじゃないか…?)

    何も話さず、このままルイを手放して、国を継ぐのか?それで本当に良いのか…?
    答えは…否。

    「…なあ、ルイ。少しだけ話を聞いてくれないか?」

    ルイが不思議そうに首を傾げた。

    「それから懐中時計を受け取るかどうかを考えてはくれないか…?」
    「…それは狡いです、ツカサ様。頷くしかないではありませんか…。」

    困ったように眉を下げたルイに礼を言い、オレの夢のような本当の話を包み隠さずに全て話そう。
    オレの逆行前の行い、そして終わり。そしてこれまでの事。

    「……そう、だったのですか。時々貴方の年齢にそぐわない大人びた発言や行動、憂いた表情を浮かべる理由を理解致しました。」
    「…呆れてしまったか?」

    問い掛ければルイは首を横に振る。

    「…貴方はどうしてそこまで僕を?」
    「…初恋、なんだ。今も昔も、ずっとお前だけなんだ。」

    サキを喪ってから、更に厳しくなった帝王学や勉学のせいで表情をなくしたオレを母上は心配なさったのだろう。母上が教会からルイを連れてきてくれた。
    今は出会い方もあり、最初からとても丁寧な対応をされているが、昔のルイはとても天真爛漫だった。
    母上からきっとオレを励ますように、友だちとして振る舞うように伝えられていたのかも知れない。

    『ツカサくん!見ていてくれたまえ!!』

    あの手この手でオレを笑わせようとしてくれた。
    最初のオレはそんなルイが面倒臭く、対応も雑だった、そんなオレにルイは折れることはなかった。考えたらそれもきっと母上のお陰だったのだろう。
    そんなある日に城の庭の噴水でルイが腕を伸ばして居るのを見つけた。
    何をしているのだとオレが近付けば、足を滑らせたルイが噴水に落ちる。

    『お前、何してるんだ?』

    呆れたオレがルイに手を差し伸べれば、ルイの掌に、怪我をした小鳥がいた事に気付いた。

    『お前、その小鳥を助けようとして噴水に落ちたのか?』
    『…えっと、うん。』
    『あははっどんくさいな、お前!』

    少し照れた様子のルイのドジに思わず笑ってしまった。

    『ツカサくん、初めて笑ってくれたね。』
    『…ぁ、』

    ふにゃっと笑ったルイに胸が大きく高鳴り、顔が熱くなったのをよく覚えている。
    そこから小鳥の怪我が治るまでオレとルイで世話をした、その過程でどんどんとルイと仲良くなり、オレはどんどんとルイに惹かれていった。
    因みに小鳥は怪我が治ってからきちんと野生に返した。
    ルイが笑ってくれるなら、励ましてくれるなら、傍に居てくれるなら、それだけで辛い勉学も帝王学も我慢できた。
    母上もそれを見て安心していたのだろう。

    『ルイくんのお陰で笑顔が戻りましたね、ツカサ。母は安心しました。』
    『はい!ルイのお陰なんです!』

    そうですか。と頭を撫でられて、そしてあの言葉を言われたのだ。

    『ツカサ。ツカサはあの人のようになってはダメですよ。母が傍に居らずとも、サキが傍に居らずとも、決して道を踏み外しては駄目です。貴方にはルイくんが居るから、大丈夫ですよ。』

    そして、その夜に母上は殺された。
    勿論泣いた。サキに続いて母上まで喪って、泣くオレにルイはオレの手を握りこう言った。

    『僕が君の傍に居るよ。だから泣かないで、ツカサくん。ツカサくん、僕が君への態度を変えても最後まで君の味方だってことを忘れないで…。』
    (ああ、そうだ、思い出した。ルイはこう言っていたのに、オレは…。)

    これがルイが表でオレの対等な友人のように振る舞った最後の日だった。
    翌日からルイは敬語になり、オレの執事として振る舞うようになった。
    オレはそんなルイの態度で大層傷ついたのだ。まだ精神が幼かったオレはこう思っていた、傍に居るって言ったのに、どうしてそんな他人みたいな振る舞いをするんだ。裏切り者、と。
    今考えれば、母上が亡くなったことにより、父王の目が厳しくなった事や、後々王宮入りする予定だった後妻にオレが侮られない為にルイはオレを立ててくれていたのだ。これも今のオレだから分かる事だ。
    ルイがタメで話す。それだけで貧民街出身の孤児であったルイが王子であるオレを侮っているように周囲に見られるから。ルイの頭の良さは王妃である母上のお墨付きで、その能力を買われて拾われたというのも事実だったから。そして前のオレはとても幼く馬鹿な子どもだったので。

    (もしかしたらルイも母上が殺される事を母上から聞かされていたのかも知れない。ルイは母上が連れてきてくれたのだから。まあ今となっては真相は闇の中だ。)

    それでもルイが好きという感情はずっとあった。一種の愛憎だったのかもしれない。
    馬鹿なオレは、オレはこんなにルイを好きなのにルイはオレを裏切った、見放したと思い込んだ。
    サキを喪って、母上も喪って、傍にいるルイはオレに他人のような態度を取る。
    それでもルイへのこの感情は綺麗な物で居たかったのに、ルイは父王のお手付きになって、自分も後妻に純潔を穢された。
    もろもろが重なって当時のオレは限界だったのだと今になって気付く。
    そしてきっとオレの人の心が完全に壊れたのは、ルイへ伽を命じ、否定するルイをなし崩しに無理矢理汚した事だったのだと思う。

    『…こんな事辞めて、ツカサくん…、今ならまだ戻れるから…、僕は君とずっと…』

    あの後に続く言葉は何だったのだろうか。
    当時のオレはそれすらも聞きたくなくて、五月蝿いと黙っていろとルイの口を手で塞いだ。
    ルイを汚している際に聞いた友としてのルイの最初で最後の切実な願いをオレは踏みにじった。
    聞かない振りをして権力で傲慢に握りつぶした。
    立ち止まれば良かった、思い止まれば良かった。
    だが止まらなかった。
    あれでオレとルイの関係は完全に対等な友人から主と従者に変わってしまった。
    一度行えば、二度、三度と続き、オレは永遠とルイを権力で汚し続けた。
    汚している時にはらはらと静かに泣くルイに胸が痛まなくなったのは何時からだったのだろう…?
    それすらも分からないほどオレの心は壊れていたのかも知れない。

    『ツカサ様、いくら何でもそれは横暴すぎます、考え直して下さいませ。』
    『五月蝿い!!』
    『っ、』

    こんな事があっても、今思い出せばルイはずっとオレのストッパーをしようとしてくれていた。
    オレがルイの注意に耳を貸さなかっただけ。
    耳を塞いで、子どものように駄々をこねていただけ。
    そう、それだけだ。
    ルイの言葉はこの時のオレには全て言い訳にしか聞こえなかったから。

    「この事に気付いたのは、オレが処刑される前に見たルイの表情だった。」

    ずっとルイはオレを見ていてくれていたのだと。何度もやり直せるチャンスをくれていたのだと。
    全てを失ってからやっと気付いた。遅すぎた後悔。

    「…ツカサ様。」
    「勘違いはしないで欲しいのだが、前のルイと今のルイを同一視はしていないんだ。」

    正直に言えば最初はしていた。
    それでも出会い方から過ごす期間まで全て変えたオレは、前のルイと今のルイの違いに直ぐに気付いた。
    此処に居るのは今のルイで前のルイじゃない、それでもルイの優しさや根底はやはりルイなのだ。
    オレを一番に考えてくれて、オレを大事に思ってくれて、それでも好奇心は旺盛で知識欲も強い。
    前は知らなかった武芸が苦手な事や、先程のように怒りや悲しみなどの感情をむき出しにするルイは前は知らなかったルイで、そんなルイを知る度にどんどん今のルイを知りたくなって、好きになっていく。

    「なあ、ルイ。」

    ルイの頬に触れる。

    「オレを国に革命を起こそうと思っているのだ。」
    「…え、」

    唐突なオレの言葉にルイが目を丸くした。

    「父王は今までの振る舞いや行動はオレの前の人生から変わっていないのだ。」
    「そう、なのですか…?」
    「…あまり言いたくはないのだが、」

    オレがルイに行った行動は話したが、先程は詳しく話さなかった前回の父王のルイへの行動についても話す。

    「……ぁ、」

    ルイも思うところがあるらしい小さく呟いた。

    「何か思い当たる事があるのか?」
    「……不敬だと思っていたので、勘違いだと思おうとしていたのですが。」

    ルイ曰く、幼い頃からルイも含め全員に対しての父王の視線が厭らしい物ではあったらしい。
    ああ、やはりそうか。オレが離宮に住みたいと言った時から怪しいとは思っていたが…。

    「特にホナミくんには分かりやすいほど、厭らしい目をされておられました。」
    「…本人にはセクハラになるから言えないが、ホナミは発育が良いからな、器量良しであるし、大人しく賢い。」
    「ええ。」

    頷いたルイにそう言えば後妻もそんな感じの身体をしていた為に、父王の好みは女と言う事が明確に分かる身体なのだろう。
    母上はどちらかと言うとスレンダーだからな。

    「…因みにルイは何かされてはいないか?」

    前、ルイがお手付きになったのはこの頃だ。
    当時よりまだ幼いが、限りなく当時のルイに近い。

    「…そうですね、僕もホナミくんに限りなく近いと言えば近い、です。」

    苦笑を溢したルイ曰く、ミズキは明確にそれが分かっているようで、あの方、ボクたちにも厭らしい目して見てきてるけど、ホナミちゃんとルイへの視線が特に厭らしいよね。とホナミとルイに話したことがあるらしい。
    確かに今思えば、後妻のタイプは身体はホナミ、顔はルイと言ったところか。皆、顔は整っているため、全員に厭らしい目を向けているが、身体がタイプのホナミと顔がタイプのルイに対して特に厭らしい目を向けているのだ。

    「…やはりか。」

    額に手を当ててはぁとため息を吐く。何とかしないとならない。
    ホナミとルイに何かされる前に。

    「これで革命の話に戻るんだが。オレは父王に早々に玉座を降りて貰おうと思っている。やはり父王は国の頂点に立っていていい人間ではないのだ。国民たちも皆、父王の傲慢さに不満を持っているからな。それは街で沢山聞いている。まあオレがいい君主になれるのかは分からんが…。」
    「…大丈夫です、ツカサ様なら民に慕われるとても良い君主になれますよ。一度失敗もされているのですから。」

    柔らかに微笑んだルイに思わず胸が大きく高鳴った。

    「…信じてくれるのか?」
    「ええ。貴方は嘘をつきませんから。」

    目を伏せたルイを抱き締めたくなったが、懐中時計を受け取って貰えていないため、ぐっと拳を握る。

    「…そう、か。それで革命にあたり、ルイの知恵を貸して欲しい。」
    「僕で良ければ喜んで協力致します。僕は貴方に一生ついていきますから。」

    ルイが綺麗に微笑む。

    「……感謝する。そしてルイ、またこの時計の話に戻るんだが。」
    「…はい。」
    「国王になった暁にはアキトとトウヤの事を含め、色々と考えているのだが、やはりオレはルイを妻にしたいんだ。今世ではルイと共に天寿を全うしたい。世継ぎなどは今は何も浮かんではいないが、何とかして見せる。だから、どうかこれを受け取ってはくれないか。」

    時計を差し出しルイをじっと見れば、ルイは目を伏せた。
    ルイの手には躊躇いが浮かんで、受け取るべきか受け取らないべきかと迷っているようだった。

    「…ルイ。」
    「っ、」

    名を呼べば息を飲んだルイは図々しい願いを一つ、聞いて頂けますか?と問い掛けてきた。

    「何だ?オレに出来ることであれば何でもする。」
    「ツカサ様、ありがとうございます。」

    先ずは礼から入ったルイは続けて口を開く。

    「…やはり僕は貴方の妻にはなれません。」
    「…そう、か。」

    明確に振られ思わず下を向いてしまう。

    「…やはりツカサ様はきちんと然るべき国の姫様を娶られるべきです。そして世継ぎを。」
    「…ああ。」
    「…ですが、」

    ルイの手がオレの持っている時計の箱に延ばされた。

    「…え、」
    「こちらは受け取らせて頂きます。貴方の気持ちも。」
    (…と言う事、は…?)

    ハッとした。

    「…ルイ、それは正妻を向かえた後は愛人でいいと言う事になる、が…?」
    「…ええ。それで構いません。貴方の気持ちは充分に伝わりました。ですが、先程も申しましたが、僕は男です。どう頑張っても貴方の子を為せませんから。」

    苦笑したルイに唇を噛む。

    「貴方はこの国の王子でございます。この国と国民を守る義務があります。」
    「…そう、だな。」
    「だから、国民たちの事を一番に考えて下さいませ。」

    ルイの話しは正論でしかない。
    オレはオレの国の民たちの事をしっかりと考えなければならない。

    「…ルイ、もう一つ確認していいか?」
    「はい。」
    「…姫を娶った後もオレはお前を一番に愛してもいいのか?」

    ルイは目を伏せる。

    「……それはツカサ様のお心です。僕に口出しする権利はございません。ですが、必ず国と国民の事を考えて。将来の王妃様、伴侶を蔑ろにしないで。」

    これはきっとルイの最大限の譲歩なのだ。ならばオレはこれを受け入れなければならない。
    オレは生涯ルイしか愛せないだろう。だが、ルイを生涯の伴侶にと言う願いはやはり受け入れて貰えないらしい。この時ばかりは自分の立場がとても憎かった。

    「……分かった。」

    だが、国も国民も大事なのだ、だから捨てられない。
    ルイが女であればと言うたらればを考えても仕方がない。ルイはルイなのだから。
    それでもルイを一番愛していると言う事はルイに理解して貰えたのだろう。だからこその譲歩。

    「…ルイ。」
    「はい。」

    お前に触れてもいいか?と問えば、ルイは頷く。
    それを確認後、ルイを抱き締める。
    ルイもオレの背中に腕を回してくれた。
    近くに感じるルイの香り、前は抱き締めた事などなく、ルイの華奢さに正直驚いた。

    「…ルイ、口づけはいいのか?」
    「はい。」

    腕の中で目を閉じてくれたルイの唇にこれまた初めて触れた。ルイの唇はこんなに柔らかったのか…。
    ゆっくりと離れ、目が合ったルイが困ったように微笑む。

    「…申し訳ありません、ツカサ様。」

    その謝罪はきっとオレにとっては酷な選択をさせたことについてだろう。

    「…ですが、きちんと貴方をお慕い申しております。」
    「ああ。オレもルイが好きだ…。すまない。こんな立場にさせてしまって。」

    ルイを一番愛しているのに、堂々と胸を張ってルイを愛していると言えない事が心に重くのし掛かる。

    「…僕が望んだんです。だからツカサ様、自分を責めないで。」
    「…本当にすまない、ルイ。」

    今一度ルイを抱き締めた。
    悔し涙がこぼれ落ちていく、そんなオレの背中をルイは優しく撫でる。

    「ツカサ様、泣かないで…?貴方の気持ちは本当に伝わっていますから…。」

    ルイの声は何処までも優しく、甘い物だった。
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