就職活動の先何度も心が折れそうになりつつも疲弊しながら続けた就職活動の果てに辿り着いた人生初の最終面接は、社長ではなく相談役という立場の人とのマンツーマン面接だ。2度の合同面接の中であまり手ごたえを感じなかったのだが、初めて手にした最終切符を逃す気はなかった。正直へとへとだったっていうのもある。参加型ディスコード内でのお気楽ニートどものざれ言に毎日イラついていたのもある。だからこそ、これで決めなければと思っていた。
「やあ、初めまして。私がこの会社の相談役の〇〇〇だ。…●●君、ことTAKOWASA014、あぁ今は”いっくん”だったか」
「え…?」
何度もディスコード内で会話をしていた耳なじみのある声。
「なんで、893がここにいる…おられるのですか」
「おぉ、えらい。ちゃんと言葉遣いを改めたね。まあ相談役ってのは本当だから、ひとまず座って話そうか」
その後は高級そうな調度品が飾られた応接スペースで雑談交じりに現在の会社の役職についた軽い経緯と、自身が管理する資産運用目的に始めたオークションのサポートが欲しい旨を聞いた。
「つまり、出向みたいな形で俺の下に直についてもらおうかと思ってる」
「それって秘書…ていうか雑用じゃ」
「当たり。ま、それ以外の『重要業務』も任せるつもりだし、その分の特別手当も出すよ」
「犯罪じゃないよな?」
「あははははは」
「笑ってごまかすな」
いつもの軽口に変わってしまっているが、893は特に気にした様子もなく上等なスーツを身にまといにっこりと笑って、手を差し出す。
「じゃあ、採用ってことで話を通しておくから。内定後インターンシップって希望してたよね?詳細も後でメールで送っておくから、都合いい時から来てね」
「あ、はい。今後ともよろしくお願いいたします」
立ち上がり、ぺこりと頭を下げてから差し出された手を取る。
取った、と思った瞬間強い力で引っ張られた。
高そうなソファに片膝をついてしまうが、握った右手以外にがっちりと腰を掴まれ893の上に乗っかるような状態になる。この状況、どういうことだ。
「…いっくん、ご飯ちゃんと食べてる?ちょっとここらへん薄いんじゃないの」
リクルートスーツの上からだが、腰から尻あたりをスルリと撫でられて変な声が出そうになる、が何とか止めた。
「ッあ、の、何して」
「重要業務を任せるにあたって、特に健康管理もしっかりしてほしいからさ。うわ、太腿とか細すぎない?」
「ひゃッ」
尻から太腿を滑り、内腿あたりをガッシリと掴まれる。その手のすぐ上には股間があるんだが、まるで気にしないようにそのままぐにぐにと腿の筋肉を確かめるように揉まれる。触られたこともない場所のせいか、くすぐったいような変な感じだ。
「ちょ、やめて…くすぐったいぃ」
「くすぐったいか。へぇ」
手の位置が少し上がり、完全に玉に当たっているのだが、気にしていないようにそのまま内腿を撫でられ続ける。スラックスとパンツごしに、微妙な刺激が起きて冷や汗が出る。
「いや、しっかり今日から食べるんで!離して…ッ」
「OK。じゃあ今後もよろしくね、いっくん」
俺を捕まえたまま何ごともなかったかのように立ち上がると、しわが出来かけていたリクルートスーツをささっと手で直して、最後にネクタイも曲がっていたのかきっちり直してきた。呆気にとられてなすがままでいると、顔が近づいて、一瞬びくりと目をつむってしまった。
「いっくん、隙だらけだよ。可愛いねぇ」
かあっと顔に熱が集まる感覚がして、思わず睨みつけるとそこには「してやったり」といったにやけ顔があった。
その後、インターンシップ初日早々からほぼ監禁に近い形でとんでもない目に遭わされてしまうことになるとは、その時はまだ知らないいっくんなのである。