皮膚と窮屈 俺は半歩下がったのにコウジが一歩下がったから、さっきより密着する形になった。シャツ越しに右肩が扉に埋め込まれたガラスに触れる。無機質な冷たさと左腕のコウジの体温がアンバランスに染みこんでいく。また扉が開いた。車両内の人数が増えていく。そのたびに俺たちは反対側の扉へと追いやられて、コウジとの距離はまた近づいた。満員の弱冷車は人いきれと湿気であふれかえっている。
「辛くない、ヒロ」
「もう少し後の電車に乗ればよかったかな」
俺たちは彫像みたいなポーズで扉にすがりつく。コウジは上半身を俺の左腕に預けた。
「でも早く帰りたいでしょ」
この空気よりなにより湿ったコウジの声が耳朶で囁いた。体の芯から熱が這い上がる。スタジオの隅でこっそりしたキスの感触を思い出した。
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