つなぐ繋いでくれた手がずっとあたたかくて、ぼくは何故か泣きたくなった。
心があたたかい人は手が冷たいなんて良く言うけれどそんなの嘘だって思ってる。
彼と一度サヨナラした時も、彼の形見と一緒に彼として生きると決めた日も、時空の狭間で彼に再会出来た時も、あの時の彼の手のあたたかさを思い出したり、彼の命をリアルに感じたりしてぼくは生きてこれた。
ぼくはあの時とは違う、もう守られているだけの自分じゃない。彼の背中を追って、彼を兄として………少し成長してからは恋人として見ていた頃の可愛いぼくは……もう捨てた。
と思っていたのに………。
「ありがとう…シャドー………。」
あの頃より少し歳を取り、痩せた彼が呟く。
綺麗な瞳はあの頃とは変わりなく、だがどこかあの頃よりも優しさを含んでいてぼくは少しドキッとした。
「俺の代わりになって…ずっと守っててくれたんだよな…。」
あの頃よりも伸びた自分の髪に彼が優しく触れて口付ける。
「大事な髪も……服も全て……俺に似せて…。」
まるで愛しい者を見るような瞳に釘付けになりながら、期待してしまう。
このまま、彼と2人幸せに生きていけたらいいのに…。なんて。
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彼がバラバラになる少し前にぼくは駆けつけた。が、間に合わなかった。
手を握り、握り返してくれた瞬間にバラバラになったダークの体。
目の前で起こったことのショックに一瞬思考が停止したが、オリジナルへの憎悪感が募り何とか持ち直す。
少し重たい銀色の剣を持ち、長年の努力の結晶の傷だらけのマントを羽織り、金のイヤカフを彼と同じ左耳に着けて両側にさげた三つ編みを剣で切る。
切れ味は良かったのだが、左右差と近くに剣がある怖さが出たようで少し段が残るボブカットになる。
彼に似れば、自分が彼になれば生きていける…自分がかわりにオリジナルをやっつければ…。という気持ちが勝り、それくらいの不恰好などどうでも良い。そんな気持ちだった。
くやしいくやしい悔しい悔しい。
何故ダークが犠牲にならなければならなかったの…。
あの時はオリジナル達の憎悪感で生きていた……唯一心の中に彼への思いを残しながら…。
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「…シャドー…?」
彼の言葉で我に返る。嗚呼、もう終わった事なのに。彼らに負けて、負けた先の異空間で彼と再会して、弱ってた彼を助け出しての今…なのに…。何故今になって……。
「な、何でもないよ…ごめんね、ダーク。」
彼に心配させたくなくてとっさに嘘をつく。
その状況を彼は不思議そうに見つめるが、何か思うことがあったのか表情を変えた。
「シャドー……折り入って話がある。」
さっき以上の真面目な眼差しに胸が高鳴る。
「シャドーのお陰で今の俺がいる。あの時助けてくれなかったら、リハビリに付き合ってくれていなかったら………いや、シャドーが俺の姿で彼奴らと戦ってくれていなかったら……俺は居なかった……。」
ダークはぼくの髪に触れていた手を離し、そっとぼくの手を握る。
「……俺もシャドーを守れる位の強さを取り戻した………シャドー……結婚してくれ。一緒になろう。」
彼と自分を繋いでいる手に数滴の涙が落ちる。
涙を流していたのはぼくじゃなく…ダークだった。
あたたかい言葉をくれた彼の手はあたたかくて、でも震えていて……。
「ダーク……!ぼくも……!!」
そう力強く返事をした瞬間、ぼくの両目からも沢山の涙が零れて視界が霞む。
ダークはその姿を見て驚いたのか手を離し、ぎゅっとぼくを抱き締める。
「シャドー…!シャドー……っ!」
『愛している。』の言葉が言い終わる頃には2人の唇は重なっていた。
「お揃いのアクセサリー、買いに行かなきゃな。」
「…嬉しい。2人、ずっと一緒だね。」
繋いだ手に絡まる指が今まで以上の関係を醸し出す。
そこに揃いの指輪が増えるのはそう遠くもないお話。