真夜中のレンジどう見ても市販のものではない焼き菓子がテーブルに放置されていた。
ラップに包まれて全貌は見えないが、おそらくはパウンドケーキだ。
「なんですか、この菓子」と問う声に力が入った。少々ふくらみが足りず、山なりではない不格好さでありながら、焼き色は絶妙なそれに様々な背景を感じてしまったせいだった。
家に入るときに「おかえりなさい」と顔をのぞかせた隣の女。年が近いという恋人の同僚。あるいは、ませた彼の教え子たち。
ラップをめくりながら「あざとい」と思う。完ぺきではないお菓子を差し出された彼が、何を思うのか付き合いが長い影山には容易く想像がついた。
菅原は男としてチョロいと感じる場面が以前から多々あった。誠実な人間ではあるし、愛されているとも思う。もちろん信じてはいるのだが、つけ込む隙はいくらでもあると感じる以上、「見たことか」と思わずにいられない。
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